2007年1月の映画  戻る


硫黄島(いおうじま)からの手紙
2006年 米国 132分 字幕:戸田奈津子
監督・製作・音楽 クリント・イーストウッド
原作 栗林忠道 『「玉砕総指揮官」の絵手紙』吉田津由子編(小学館文庫刊)
脚本 アイリス・ヤマシタ
撮影 トム・スターン
製作 スティーヴン・スピルバーグ/クリント・イーストウッド/ロバート・ローレンツ/ティム・ムーア
製作総指揮 ポール・ハギス
音楽 カイル・イーストウッド/マイケル・スティーヴンス
出演  渡辺謙(栗林忠道中将)/二宮和也(西郷)/伊原剛志(バロン西・西竹一中佐)/加瀬亮(清水)/松崎悠希(野崎)/中村獅童(伊藤中尉)/裕木奈江(花子)
メモ 2007.2.28(水)晴れ
あらすじ
太平洋の島々で戦った”大東亜戦争”中、唯一アメリカ兵の死傷者が日本兵の死傷者を上回った地・硫黄島。1945年2月19日米軍上陸開始、3月17日栗林忠道中将が階級章をはずし一兵卒として最後の突撃を行い、39日間戦い抜いた日本軍がほぼ全滅した地。 硫黄島は東西8.5km、南北4.5kmの絶海の孤島。日本軍は2万1900人の死者、アメリカ軍の死傷者は2万8700人に上った(内戦死者7000人)。
 
栗林中将は硫黄島に降り立つ。アメリカ、カナダの留学経験を持ち英語も流暢な国際派の陸士卒の士官。娘に絵入りの手紙を書く優しい人でもある。しかしここは戦場(いくさば)。さっそく島を歩き戦略を練る。ひとりでも多くの敵を倒すためゲリラ戦法をとろうと洞窟を掘るよう命じる。このとっぴな戦略にとまどい「大日本帝国軍人にふさわしくないっ」と反発する士官も多い。しかし雨水をすすりながら兵は掘って掘って洞窟ができる。その数5000。30キロに及ぶトンネルはトーチカを結び、島は蜂の巣様。
感想
水が無い、弾が無い、補給が無い、食料が無い、飛行機もない、退路もない、ないないづくしの大海の中、熱帯の島に「ここで死んで国を守れ」と送り込まれた兵士たち。助かる道はない。人柱となるのだ。
 
「父親達の星条旗」のイジーの死がどんなに残酷なシーンになっているか、と見るのが怖かった。
     良心的に作られた映画だと思う。極限状態の中、静かに最期(さいご)の時に向かっていく。
栗林中将が頭をたれ、ラジヲから流れる故郷長野の子供達の歌声に耳を傾けるシーンがとてもよかった。日本国の子供達のために、少しでも本土攻撃を遅らせようとした軍人さんの気持ちがあらわれている。
「これはいくさなんですよ。」(知恵を絞ってひとりでも多くの敵を倒すんですよ。)と士官に言い渡す栗林中将は古武士のようであり、そしてリアリストだったんだな。本土防衛のため万歳突撃や自決を禁じられた兵隊さんたちは、長く戦い苦しみ死んでいく。
 
さぼてんが驚いたのは、ロサンゼルス五輪の馬術競技で金メダルを取った西中尉が、硫黄島で戦死されていたとは(**)。映画を観てよかったな。
日本人にとって哀しい映画である。たくさんの人に合掌
お薦め度★★★★1/2戻る

父親達の星条旗 FLAGS OF OUR FATHERS
2006年 米国 132分 字幕:戸田奈津子
監督・音楽 クリント・イーストウッド
原作 ジェームズ・ブラッドリー
製作 スティーヴン・スピルバーグ/クリント・イーストウッド/ロバート・ロレンツ
脚本 ロン・パワーズ/ポール・ハギス/ウィリアム・ブロイルズ・Jr
撮影 
撮影 トム・スターン
キャスト ライアン・フィリップ(“ドク”)/ジェシー・ブラッドフォード(レイニー)/アダム・ビーチ(アイラ)/ジェイミー・ベル(“イギー”「リトル・ダンサー」)/バリー・ペッパー(マイク)/ポール・ウォーカー(ハンク)/ジョン・ベンジャミン・ヒッキー(キース)/ジョン・スラッテリー(バド)/ロバート・パトリック
メモ 2007.2.21(水)曇り
あらすじ
ジョー・ローゼンタールが撮った写真はピュリッツアー賞を受賞し記念切手にまでなった有名な写真だ。1945年2月23日硫黄島の擂鉢山(すりばちやま)頂上で6人の兵士達が星条旗を掲げる写真だった。
事実は米軍は日本軍にてこずっていた。グアム・サイパンから大艦隊で侵攻を開始した米国軍。硫黄島は日本とサイパンのちょうど中間地点にあり、日本本土を攻撃する超重爆撃機ボーイングB29スーパーフォートレスの中継点として必要だったのだ(サイパンへ帰れず硫黄島への不時着は戦争中2500機と言われる)。硫黄島からの早期迎撃も阻止しなければならない。硫黄島の戦いは3日間の空爆で日本軍は壊滅されていたはずだった。ところが「サイパン、マリアナと違い、日本国の領土の硫黄島」からの反撃はすさまじかった。浜を埋め尽くした米軍を突如擂鉢山のトーチカから狙い撃ちしてくる日本軍。浜は屍累々(しかばねるいるい)。
感想
戦勝国なのに、むなしさが漂う。海に落ちた兵士を見捨てて進軍する艦隊。兵は駒にしか過ぎないというおそろしい現実をしょっぱなに表す印象的な場面だった。
反戦映画だと「じゃあ、戦死した兵は無駄死にだったわけ? 犬死なの?」となりかねない所を「兵は国のため家族のため、よりも、側にいる戦友のために戦った」とわかりやすい作りになっている。
2度目の写真写りのよい大きな星条旗を立てた戦士6人は、3人は戦死、3人は生き残り明暗を分ける。
偶然生き残った3人も戦費調達のため戦時国債のプロパガンダに利用され、アメリカ中を見世物のように引き回されるハメに陥る。そして戦争中はいいように利用され、戦後差別はなくならず酒に身をもちくずすネイティブアメリカン(インディアン)のアイラ。 戦後は”過去の英雄”となり就職活動もままならず掃除夫で一生を終えたレイニー。 葬儀屋を継いだ”ドク”は家族にもマスコミにも何も語らず思いを墓場まで持っていく。衛生兵”ドク”の息子さんが父の死後、戦友を訪ね歩き書いた本が元となっている。
大切に育てた息子を失ったお母さん達の叫びが聞こえる悲しい映画だ。
お薦め度★★★★1/2戻る

エニグマ Enigma
2003年 ドイツ/イギリス 119分
監督 マイケル・アプテッド (「アガサ/愛の失踪事件 」)
原作 ロバート・ハリス(「暗号機エニグマへの挑戦」(新潮文庫刊))
脚本 トム・ストッパード
撮影 シーマス・マッガーヴェイ
音楽 ジョン・バリー
キャスト ダグレー・スコット(トム「エバー・アフター」)/ケイト・ウィンスレット(ヘスター)/サフロン・バロウズ(クレア「クリムト」「ギャングスター・ナンバー1」)/ジェレミー・ノーサム(英国情報部ウィグラム「ゴスフォード・パーク」)/ニコライ・コスター=ワルドー(パック)/トム・ホランダー(ロギー「パイレーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ・チェスト」)/マシュー・マクファディン(軍人ケイヴ「 プライドと偏見」)/ミック・ジャガー(酒場の兵士)
メモ 2007.1.13(土)晴れ レンタルDVD
あらすじ
1943年D−DAY(1944年6月6日)以前のイギリス。イギリス軍の暗号解読センターでは多くの人の力でドイツ軍の暗号機「>エニグマ」の解読が進められていた。中心となる解読班はイギリス人、ポーランド人、ロシア人の混合チームで変わり者ぞろい。中心となるトム・ジェリコはケンブリッジの数学者であり、神経を病み1ヶ月の休息後今日呼び戻されたところだ。青白い顔で亡霊の様。トムを待ち受けていたのは「エニグマの暗号コードが変更された!」という事。10ヶ月かけてやっと解読したのに。何故?今? おりしも大西洋では粉ミルクやタンクなどの物資が満載された大規模な物資輸送船団がイギリスに向かっていた。待ち構えるUボートの群れ。このままでは狼軍団のえじきだ。
そんな非常時にもかかわらずトムのやる気は起きない。だいたい神経を病んだという理由が"クレアという女"なのだ。要するに女に振られたのだ。その振られた男・かったるそうなトムに顔に大やけどをおった情報部の軍人ケイブが活を入れる。前の解読の鍵となった「気象通報用鍵」を手に入れるため沢山の犠牲を払ったんだと。お前らは前線にいなくて幸いだと。それでもクレアを忘れられないトム。
トムはクレアを訊ね、無人の家入る。そこに帰ってきたルームメイトのヘスター(ケイト・ウィンスレット)。クレアとヘスターは共に暗号解読センターで傍受記録の整理班だ。クレアは2日前から帰っていないらしい。クレアの部屋の床下に隠してあった傍受記録発見!。クレアはスパイだったのか?
一方英国情報部ウィグラムはスパイの存在を疑っていた。失踪したクレア。変えられた暗号コード。これらは無関係のはずはない。あやしいのはエニグマが解読された事を知っている12人の解読班。そこにはクレアの元カレのトムがいた。
トムはウィグラムに怪しまれながら、渋るヘスターの助けをかりてクレアが隠していた傍受記録を解読しようとする。
彼女の失踪の謎を解く手がかりだ!(Uボートに狙われている輸送船団はいいのかよ)
感想
「地味」、「暗い」とか言われてたけど、結構気に入った。ただ「エニグマ」の事とか「カティンの森の虐殺」の事とか知ってないとわかりにくいな。
といっても「エニグマ」は「掟−ブレイキング・ザ・コード」、「カティンの森の虐殺」はゴルゴ13で知ったんやけどね(**)。
「エニグマ」の仕組みはさっぱりわかれへんけど、一文字打つごとにローラが回転するので例えば「H」を打っても変換される文字は毎回変わるって事らしい。
「カティンの森の虐殺」はソ連の捕虜となっていたポーランドの将校ら4000人がカティンの森でスターリンの命令によりソ連秘密警察に虐殺され埋められた事件。これによりポーランド軍は壊滅させられる。埋められていた遺体は1943年ドイツ軍により発見され当時連合軍はこの情報を傍受していた。戦後のニュールンベルグ裁判ではソビエト連邦はドイツの所業と主張する。1990年になってやっとゴルバチョフ大統領がポーランドに謝罪したという事件。カティンの森以外にも虐殺現場はあり25000人のポーランド人が犠牲になったらしい。
お薦め度★★★★戻る

あるいは裏切りという名の犬
2004年 フランス 110分
監督・脚本 オリビエ・マルシャル
脚本 フランク・マンクーゾ/ジュリアン・ラプノー/ドミニク・ロワゾー
キャスト ダニエル・オートゥイユ(レオ)/ジェラール・ドパルデュー(ドニ)/ヴァレリア・ゴリノ(カミーユ「インディアン・ランナー」)/フランシス・ルノー(ティティエ)/ダニエル・デュバル(エディ)/ミレーヌ・ドモンジョ(ミレーヌ)/アンドレ・デュソリエ(長官)
メモ 2007.1.6(土)曇りのち雨 テアトル梅田
あらすじ
BRI(探索出動班)のレオ・ヴリンクス(ダニエル・オートゥイユ)と、BRB(強盗鎮圧班)のドニ・クランは昔親友、恋のさや当てをした仲。今はパリ警視庁のライバル同士だ。恋の勝利者レオは正義感が強く家族と部下を愛する男。一方ドニは美しい妻がいるにもかかわず、昔の痛手が忘れらず屈折していた。負ける事を嫌い権力欲が強い。パリでは警察をあざ笑う連続強奪事件が発生。警察の威信を賭けた捜査が続く。犯人を挙げた男がパリ警視庁長官になれるはず。
感想
重厚。  煙草 アルコオル 革 男の友情 権力欲 暴力 の香りが匂いたつフィルム・ノワール。まさに、男の映画。
 
亜米利加ハリウッドではロバート・デ・ニーロが版権を獲得。アメリカ版リメイクが決まっているらしい。「ヒート」と同じくアル・パチーノと競演かなと想像していたが、ジョージ・クルーニーかもしれんという話。デ・ニーロはレオかドニかどっちを演じるんかな。ドニ・クランの方が面白い役だと思う。
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