2003年6月のミステリ戻る

新本格 猛虎会 の冒険

2003年 東京創元社ノベルズ 246頁
感想
「満を持して」か「調子に乗って」か「今しか書けないかもしれん」というマゾ気質からか今この時UP。
阪神タイガースファンなる推理小説作家6人漫画家ひとり書評家ひとりが愛と知恵で書き下ろしたアンソロジー。この本自身が言霊(ことだま)となったのか大変な事になっとります。
 
好みなのは北村薫氏の「五人の王と昇天する男達の謎」。年期のはいったファンらしく「いつの話よ、それ」的な蘊蓄話がはいっとりま。ご昇天する前に男ふたりが煉獄にある阪神巨人の宿舎に会いに行った選手は誰か? という謎を作家・有栖川有栖が解くというお話。まずどこからアイデアが浮かんだかというと新庄が大リーグへ行った時の連想からだな。煉獄(罪を清める所)から天国へご昇天されつつ「昇天メッセージ」を残すシーンの「・・・お二人の周囲は、輝く粉砂糖のような光に包まれました。お二人はこのポーズのまま、穏やかに回転しつつ、それはそれはおごそかに、天に召されていったのです。ハレルヤ、ハレルヤと」。。想像してみ、、、爆笑。
 
次ぎに好きなのは白峰良介氏の「虎に捧げる密室」。「どこが密室やねんっ」というツッコミ入りまくりですが、何しろ殺人の動機がいい。ここからはネタバレ。6月22日の阪神巨人戦負けで意気消沈し「今年は一回休み」状態に入った会社の巨人ファンから阪神巨人戦のオレンジシートを譲っていただいた。「ありがとうございまする。そやけど昨年の『阪神vs広島』 『阪神vs巨人』 今年の『阪神vsヤクルト』とアタシが見に行った3試合続けて阪神負けてるんですぅ。」ってゆーたら「是非行って。必ず絶対見に行って。安いもんや。」って言われたんです(メソメソ)。気持ちわかる。
 
それから掛け合い漫才みたいな黒崎緑氏の「甲子園騒動」。ナンセンスなボケでワロタ。最近の漫才ってダイラケとかいとしこいしに近いような気がする。
 
そして我がいしいひさいち氏の「犯人・タイガース共犯事件」。題名がええよ。共犯やったんかい(そら言いたくもなるよな)。
おすすめ度★★★★
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ラッシュライフ

伊坂幸太郎著 2002年 新潮ミステリー倶楽部 266頁
あらすじ
画商の戸田と新人画家の志奈子は新幹線に乗っている。戸田は大金持ち自信家「金で買えないものはない」と豪語する60才。志奈子は絵のためにはこの男といるしか道はない。
黒澤はしゃれた泥棒。大卒のインテリ空き巣だ。そして一匹狼。彼には彼の美学がある。
河原崎は少し壊れているようだ。飛び降り自殺した父親から受け継いだ気質なのか寂しさからなのか。いつも誰かに救って欲しいと願っている。
精神科医の京子とサッカー選手の青山は不倫同士。人を支配したい京子とお尻を叩いて欲しい青山はいいコンビだ。二人はシアワセのためにお互いのツレアイをなきものにしようとしている。
元デザイナーの豊田はリストラされ職を探しているが40社目不採用の電話を今朝受けた所だ。喉から手が出るほど職が欲しい。
この5組はどう関わり合うのか? 乞うご期待。
感想
「ラッシュライフ」と言われて思い出すのは映画「LUSH LIFE(1993)」。ジェフ・ゴールドブラムがサックス、フォレスト・ウィティカーがトランペットでジャズを演奏してね、ウィテカーが脳腫瘍になって余命幾ばくもないという話だった。ふたりで飽きるほど演奏したいから映画を作ったんだな。ところが「ラッシュライフってのはジャズの名曲だったのか」というのをこの本で知った次第。あほほど映画を見てもあほにはなんもわかっていなかったって事なんだ・・・とほほ。
 
映画を思い出したせいかなんのせいか映画的に感じられた。しかし群像劇でありながら「ハイウェイ・パニック」のように最後の一瞬に全てが向かうという事はない。それぞれが軽くタッチしていく。死体とか拳銃とかで。「トリコロール」や「go」よりは関わり合いが強いかな。ジュリアン・デュヴィヴィエ監督「運命の饗宴」は燕尾服が次々と渡っていく話だったな。話戻して本作は工夫された構成に感心する話なんやけれどもやもやが残る。カタルシスが感じられなかったせいかもしれない。タランティーノの「パルプ・フィクション」は好きな映画やねんけれど。
だいたい殺しを計画する京子と青山はあまりにバカ稚拙やし(ドタバタブラックコメディのようだ)、泥棒の黒澤はかっこつけすぎよすぎ、脂ぎった戸田と志奈子がキモイ。そこまで来て泊まりたくないなんてそれはないやろ。教祖を崇め奉る塚本と河原崎は気持ち悪さがやや足りない。元サラリーマンの豊田の「いえ、すでに人生どうにもなりません。」の一言はいいな。一番なじめたのは「2001年宇宙の旅は退屈な映画」なのだった。
 
はちゃめちゃではなくすがすがしく終わるところが慣れていないのかもしれん。一度読んだだけではよく理解できなかったせいかもしれん。と、謙虚に整理してみる。まず全ての組はふたりで構成されている訳だ。ここで別組との交叉のチャンスは2倍となる。なるほど。タイムスケジュールを作ってみる。どうやら4日間の出来事のようというのがやっとわかる。泥棒の黒澤が神出鬼没。惑わすんだ、こやつが。ジグソーパズルのようになんとか納まった。すんなり飲み込めた。コレよーできているやん。
おすすめ度★★★★
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