2002年1月のミステリ

絶叫城殺人事件

2001年 有栖川有栖 新潮エンターテイメント倶楽部
感想
6つの館の6つの殺人事件に挑む臨床犯罪学者火村と作家・有栖川有栖の活躍物語。タイトルに初めて「殺人事件」をつけた作者は力が入る。

 黒烏亭殺人事件(こくちょうてい)
    学生時代の友人から連絡を受けたふたりは父娘がひっそり暮らしている黒烏亭に向かう。
    裏庭の古井戸から変死体が見つかったらしい。

    「二十の扉」や「イソップ童話」を絡めているのが面白い。推理小説は何故「二十の扉」に近いのか? 
    さぼてんが思うに、謎を解決する鍵は与えられているけれどそれぞれの鍵に重みがつけられていないため、
    いったいどれが重要なのかわからず混乱してしまう。という所が似ているんちゃうかな。
    作中の「二十の扉」の問題も「食べ物ではありません」「おいしそうです」「食べられます」って3つだ
    けの方が当たるんちゃうかな。それで答えを決めたら後は確認していくだけでいいし。

 壺中庵殺人事件(こちゅうあん)

 月宮殿殺人事件 
   河川敷に立てられた高さ10mの御殿。異彩を放つその建物はがらくたを使った手作りだった。

   作中に述べられていた「郵便配達が作った宮殿」はフランスリヨン近郊の郵便配達夫シュヴァルの「理想宮」
   の事と思う。
   以前朝日新聞の日曜版で読んだ。郵便配達しながら石や貝殻を拾っては宮殿をひとりでつくっていくシュヴァル
   は村人から奇人変人あつかいやったけど、今では村の国の観光名所になっている。33年かかって完成した後も
   シュヴァルはその宮に住むことはなく、門の側の小屋に住み宮の奥の部屋に大事に置かれたのは、石を運ぶの
   に使っていた手押し車だったという話。
   を思い出していたのにぃ。作者の意図に気づかなかったなんて・・。ヤラレタ。

 雪華楼殺人事件(せつかろう)
   バブル崩壊とともに建設途中でうち捨てられた7階建ての建物から、ひとりの若い男が堕ちる。

   まあ、こういうのもありかな。偶然に頼っているけど。

 紅雨荘殺人事件(べにさめそう)
  一代で財をなした化粧品会社の元オーナーが首をつる。どうも他殺らしい。美しさを追っていた主人らしく屋敷の
  名前は紅雨荘という。

  ねたばれ>  そうなんよねぇ。屋敷物っちゃあ、やっぱ双子の屋敷がでてこなくちゃねぇ。ついでにふたりも
  双子したらと思うんやけど。

 絶叫城殺人事件 
   大阪で若い女性を切り裂く連続事件が発生。遺体の口の中には犯人からのメッセージが残されていた。

   犯人の動機がいい。プロファイリングへの批判か短絡的な動機探しへの批判なんかな。口の中の手がかりって
   のが「羊たちの沈黙」やし。
   しかし「人間を描いているのか」「人間を描いていないのか」よくわからん。どちらもありなんやったら、
   作者の主義主張はもう少し隠して描いた方がいいと思う。

カンというものについて−
会社に入った頃「KDDはいけません」と言われていた。別に変動相場制になってもいつまでも固定相場制(1ドル=360円)のままで暴利を得ているとか言われていた国際電電がいけないというわけではなく「カンと度胸とどんぶり勘定はいけません」だったと思う。そやけどカンって大事と思うけどな。カンに頼るのは問題外やけど。今までの経験から頭脳というコンピュータで瞬時にはじき出された答えなんやから。適切なヒントが与えられたらカンのいい人は解答にちかづくもんね。「クイズ・世界はSHOW by ショウバイ」の逸見バーサス山城、「不思議発見!」の草野バーサス板東なんて、優等生VSカンのよさで生き抜いてきた人の戦いやもん。推理小説の探偵もカンが鋭く、論理的思考は後づけちゃうかという気がするんですけれど。
おすすめ度★★★1/2
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異邦人 fusion

2001年 西澤保彦 集英社
あらすじ
私は永広影二(えひろじょうじ)40才。東京で大学の助教授をしている。今日は大晦日、年に一回帰郷する日だ。故郷では姉が家業を継いでいる。家族と縁を切るつもりだった姉は23年前父が殺された事で家に帰り不本意な結婚をして、私を大学に行かせてくれた。が、無理な結婚はうまくいくはずもなく不幸せそうな義兄や姉、母を見るのは辛い。
感想
砂浜に足跡を付けずに遺体を波打ち際まで運べたのは、何故か?の謎を解く「本格推理小説」。題名がよくできる。やられた(のは、さぼてんだけ?)。
−ばれです−
「異邦人」という題名からはカミュの「異邦人」を思い浮かべるはず。23年前昭和52年の世界での異邦人とは誰か?を考えればおのずと犯人がわかったはず。浜辺で殺されているんやし。それが、最後まで気づかず。情けない。
ところが、考えてみると「異邦人」というのは男女の愛が普通と思われている世界での同性愛者達ともとれる。裏返しに見れば、同性愛者にとって自分達の存在を認めない美保と影二(じょーじ)の父のような人、あるいはその世界にまだ入っていけない影二のような人ともとれる。その別々の世界が最後はゆったりと融合していく。そして、ふたりでは結びつく事ができなくても、ある人ある物を媒介に結びつく事ができる平和な世界とはこういう世界なんではなかろか(世界平和にまで無理矢理もっていくか>自分)と感じさせるラスト。この小説では男女の関係にはなれない美保と影二を結びつけるのは最初はセーターであり次は猫であり最後は季里子(きりこ)であるといった風に。そしてそれには長い時間が必要なんだ。(ちょっと違うかな。セーター、猫は影二がおさまるまでの代わりなのかもしれない)

タイムスリップの結果その後の歴史を変えるといった話といえば思い出すのが「宇宙大作戦」のドクター・マッコイ。何故かドクター・マッコイは第二次世界大戦参戦直前の米国にスリップする。そこで車に轢かれそうになった若い女の人を助け、その女の人とマッコイは恋に落ちる。しかし、その出来事でその後の歴史は激変してしまうため、もう一度タイムスリップしてカークが引きとめドクターは泣く泣く女の人を見殺しにしてしまう。という話だった。というのは、その若い女の人は平和主義者で時の大統領ルーズベルトに「戦争をしないよう」進言するんですね。でもって米国の参戦が遅れ、ナチスドイツが世界を征服し第三帝国が成立してしまうんです。米国ってそういう風に考えているんだな(目的が手段を正当化する)というのがよくわかったエピソードでした。
おすすめ度★★★
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