2001年11月のミステリ

鉄道探偵ハッチ PLUGGED NICKEL(贋五セント玉)

1988年 ロバート・キャンベル作 田口俊樹訳 文集文庫
あらすじ
未明、豪雨の中をデンヴァーに向かってひた走るゼファー号。突如急ブレーキが引かれる。厄日を呪いながら鉄道探偵のハッチと車掌達が懐中電灯で列車の下を照らすと・・・・。
感想
シリーズ2作目「草原の狙撃」に比べるとより骨太の内容。原題どおり、被害者のポケットにあった妙な印のついたニッケル玉が鍵になっている。そして、国というものを持たないジブシーが話の要を握る。彼らは税金を払いもしなけりゃ教育や福祉を受ける事もない。キリストの心臓を貫くはずだった釘を飲み込みローマ兵に無くしたと嘘をついたジプシーの鍛冶屋は、神様から「ジブシーよ、おまえたちはどこへ行くのも、どこを旅するのも、食べ物を盗むのも、暮らしに必要なものを取るのも自由である。」と許可を得ているそうだ。ところがそのジブシーの魂が知らず知らずハッチを導きアメリカを守る手助けをする話は、よくできていると思う。
おすすめ度★★★1/2
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夏の夜会

2001年 西澤保彦作 カッパNOVELS 237頁
あらすじ
祖母の葬儀で久しぶりに故郷に帰った見元(みもと)は、具合よく同級生の披露宴にも出席できる。同じテーブルだった小学3、4年生時代のクラスメート指弘要(いいずかなめ)、佐向紘子(そむきひろこ)、任美由宇也(たらみゆうや)、紅白早紀(いりまじりさき)の5人で2次会に繰り出した。その席で話題になったのが小学校時代の担任”鬼ばばあ”井口先生。あんな事があったこんな事があった、夏休みが終わったら担任が変わっていたとか言い合う内にひとりが言う、「井口って殺されたんじゃなかった?」。
感想
記憶だけを頼りに30年前の事件を解き明かすというスリーピング・マーダー物。
饒舌な作者に言いくるめられた気もせんではないが、登場人物9人の勘違いやら思い込みやらそれぞれ異なる記憶を、紆余曲折しながらなんとか整合性を取り”恐らく真相だろう”に到達する話はよくできている。結局真相はわからない。手持ちのデータから導き出された真相に過ぎない。これぞ「推理(するだけの)小説」ですね。

それ以上に身にしみるワ、この「虚構の記憶」ってのが。さぼてんの記憶は映像で残る方だと思う。というかそれ以外あるのかな? わからない。試験でも教科書やノートのページが浮かび上がってきて答えが書けたし。でも、この映像ってのが食わせ物なん。過去の記憶に自分自身の後姿が登場してるん! 作られた映像やねんね、きっと。
ずいぶん昔に曽野綾子さんが新聞のエッセイに書かれていた話で「娘さんが自動車事故で人をあやめてしまうという悲劇があった知人の家を10年ぶり(海外にいってはったんだったか?)で訪れると、とても苦しんだ家族も本人もその事故の記憶は『被害者が全面的に悪かった』という事になっていた。」というのがあった。「こんな内容、新聞に書いてぐつ悪ないんやろか?」とか「相変わらず厳しい」とか思いつつ、真実をついているんですね。生きていくためには仕方ない事なんですね。

話変わって、表紙のイラストは謎です。40歳の主人公達にすれば若すぎる。が、びっくりするような年になっても自分のイメージは若い頃のままなんです。年くったのが信じらんない。でもってこのイラストは本の内容とみょーにしっくりくるわけ。自分のイメージは若い頃のまんま(自分を美化している)。会社のEVで同期の男の子を見かけると「ふけたなあ」って思うねんけど、あれは鏡なんやね。この間も、新聞でTVドラマ「がんばらない」っていうののあらすじを読んで「著者は、自身がモデルとなる院長太田役に小林薫を希望していたが、体形が良く似る西田敏行に」ってのに笑ったんですが、人のこと笑えんのですわ。
おすすめ度★★★1/2
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