2001年9月のミステリ

三月は深き紅の淵を

1997年作 恩田陸作 講談社文庫
あらすじ
作者もわからず、現存しない幻本『三月は深き紅の淵を』を巡る四つのお話。
 「待っている人々」
    屋敷に隠されているはずの『三月は深き紅の淵を』を探す話。  
 「出雲夜想曲」
    作者を探る話。一番好き。  
 「虹と雲と鳥と」
    書かれる事になった理由。  
 「回転木馬」
    書き始められるまで。
感想
凝った構成だった。
−ねたばれあります−
第一章「待っている人々」の作中で語られる幻の小説『三月は深き紅の淵を』の第一部から第四部までのシチュエーションが本作品の第一章から第四章とシンクロしている。幻の小説の第一部『黒と茶の幻想』が「待っている人々」へ、第二部『冬の湖』が「出雲夜想曲」、第三部『血の話』が「虹と雲と鳥と」、第三部『鳩笛』が「回転木馬」へと形を変えていた(驚)。

そして第四章の「回転木馬」は、作家が『三月は深き紅の淵を』を書き始める所で終わり題名どおり回って巡ってこの小説の輪は閉じられる。しかし、この最後に書き始められる小説が幻本『三月は深き紅の淵を』と同じとは限らないのだ。第一章から第四章までの「三月」が全て同じ本の話とは限らない。しかも第四章の「回転木馬」中の幻想小説は『麦の海に沈む果実』として生まれ変わり一本立ちする。

一章から四章までをつないでいるのは、小説『三月は深き紅の淵を』だけではなく『トランクを持った男』と『旅行する女』と『小説を書く女』そして『消えた女』。さぼてんは作者の術中にはまり第一章「待っている人々」の大学教授に本を貸した教え子は第三章の奈央子なんだろうか? とか、第三章の奈央子が第四章の作家のひとりなんだろうか? とか色々考えてしまう。

特に第四章がそうですが、この小説は貪欲な読み手であり、書き手でもある作者のエッセイなんだと思う。魔物と言ってもいい「本」のとりこになった人間の「本」に対するエッセイだと思う。いままでどんな本を読んできてイマジネーションが生まれたか、どういう風に小説を書いているのか、どんな話を書きたいのかとお話されていると感じる。
山田ミネコさんの漫画「死に神たちの白い夜」はさぼてんも読んだ事がある。どんでん物ミステリだった。
  −作中から−
     「記憶は数珠つなぎにさまざまなものを呼び起こす」
おすすめ度★★★1/2
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赤死病(せきしびょう)の館の殺人

2001年 芦辺拓作 カッパノベルズ
あらすじ
本業の弁護士業よりも、探偵としての才能に恵まれている(らしい)森江春策シリーズ。「和時計の館の殺人」に続く第二段。

感想

 「赤死病の館の殺人」
    舞台が凝っている。わくわく。TVドラマ「古畑任三郎」の”あの話”を見ていたのでわかった。−(勝ち)    
 「疾駆するジョーカー」
    簡単なトリックなのがGOOD。−(勝ち)  
 「深津警部の不吉な赴任」
    まっとうなトリック物ではなくドンデン物ですが、一番面白い。めずらしくコミカルだし−(負け)。  
 「密室の鬼」
    いささか無理あるんちゃうと思う所もありますが、思い込みを利用した視覚的なトリックが面白い。
    手品みたい−(負け)。  

レトロな感じで雰囲気がいい。子供の頃、怪盗二十面相を読んだ時のような気分になる。
おすすめ度★★★1/2
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