2000年12月のミステリ

さらわれたい女

歌野晶午著 1992年 KADOKAWA NOVELS
あらすじ
大学は三浪してやっとこさ入り、勤めた会社は倒産し婚約者には先立たれ、現在は借金五百万円大穴ねらいの馬券ははずれっぱなしの便利屋黒田35才。取り柄は過去の不運を「あーそんなこともあったなあ」と過去のことに出来る楽天家な事だ。だから生きてられているとも言えるが、将来の展望もへったくれもない。そこへ降って湧いた大きな仕事の依頼。喫茶店チェーンのオーナー夫人小宮山佐緒理が「私を誘拐してください」とわけのわからん理解不能の仕事を頼むのだ。マザコンの夫が自分を愛しているか知りたいという眉唾物の話に乗った黒田。何しろ小宮山佐緒理は右の目尻のふたつのほくろが色っぽい美人だったもんで(おい、鼻の下のびてんデ)。
感想
映画「カオス」の原作本と知って俄然興味が湧く。映画の「黒色の中の真っ赤なルージュ」の爛れたエロスを歌野晶午がどう書いているんだろうかと興味津々。

が、やはり歌野晶午はあくまで歌野晶午であり読者を騙す”トリック勝負”でした。艶っぽさなし(笑)。
黒田の軽いキャラはなかなかコミカル。探偵ではなく便利屋というよりうさんくさい設定がいい。誘拐という緊張ととぼけた黒田の緩急も面白い。映画と原作は結末が全く違っていてどちらがいいとは言えない。ただ、原作の結末の方がTVドラマ風かな。いままで読んだ歌野晶午作品のベスト。(という程読んでませんが)
おすすめ度:★★★1/2
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バトル・ロワイアル BATTLE ROYALE

高見広春著 1999年 太田出版
感想
中学三年生のクラスメート42人が島に閉じこめられ、たったひとつの生き残りの椅子を手に入れるために殺し合うという趣味の悪い話を興味ありながら誰が読むかっと思っていたのですけれど、この間映画「バトル・ロワイアル」の予告編のたけしを見て考えが180度変わり、図書館で予約して読むことにしました(絶対買わない)。つまりたけしがこの映画に出演するならそれだけの理由があるんだろうと思ったわけ。ところが、作中の坂持金発センセ(サカモッチーキンパッティ)はたけしそのままではないか(笑)。武田鉄矢よりはたけしをイメージしたキャラとしか思えん。

1999年度の問題作で評判通り過激な内容でありながら、読むのがやめられず666頁を2日で一気読み。あまりにも自信のある大人びた15才は高校生のよう。映画化はそこんとこどうなっているのかな。これは幼い純な片思いの物語でもあるのです。そういう訳で高校生ではちょっと設定が無理だったのかもしれない。思いかえせば公立中学というのは人生の中で一番様々な人間と一緒に居たのだと思う。大阪の八尾(河内)いう地域性だったのかもしれない。中学出たらヤクザの使い走りになったのやら、16才で出産するのやら、京大に入ったのやら色々いたな。自分以外の人間への信頼の話でもあるのかな。結果はどうあれ「一度裏切られた人間に再びチャンスは与えない」ってのは正解だと思う。著者の意図は掴めません。色々ちりばめたただのゲーマーとも思えるし、もっと深い意図があるのかもしれない。 ただ、読み手や映画の受け取り手によって様々に受け取れるってところが問題作なんだと思う。後味が悪い。スカッとしたという発言にはやはり反撥を覚える。

金曜日、中一のちびさぼてんは学期末三者懇談会があって、先生がちびさぼに「将来何になるか決めているか?」と尋ねたのに対しちびさぼはぶすっと「イエ、まだ」と答えていました。そしたら先生が上を指さして「上で三年生も懇談会していて、何してるかゆーたら『どこの高校を受けるか』って真剣に話してるんや。なりたいもんがないならまず高校が目標やな。」(センセ、その割には授業がのんびりしすぎてません?塾に行って勉強せよということのか?) 「中学に入ってからは休んでないから丈夫やと思うけれど、冬休みは体調崩さんようにするんやで。今年来年はえーけど、三年生は大切な時期なんやから。」  さぼてんは「センセ。ほとんど勉強せーへんのにそこそこの成績っていうのがかえって心配なんですけれど。」という言葉をグッと飲み込む。一年生からこんなにプレッシャーをかけてええんだろうか? なまいきでもまだまだ自分に自信のない子供やから結構重たいのではと思う。高校に入れば入ったで大学にいくなら3年後にはまた受験やねんから。せわしない。 偏差値の高い有名大学出身者達が「だんどりが悪い」「プライドが高い割に仕事ができない」「能書き言うだけ」という実例を会社であまた見ているさぼてんは、日本国の教育システムにいささか懐疑的だ。定員のある椅子を争うだけではなく、ある水準に達したらとれる資格試験ってのも数々あるという事をちびさぼに伝えたい。しかし一方、教えてもらうだけではなく経験をして自分で学び取る力も持って欲しいと思う。自分には出来なかった親の過大な期待かもしれません。
おすすめ度:★★★★
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結末のない事件 CASE WITH NO CONCLUSION

レオ・ブルース著 1939年作 新樹社
あらすじ
ビーフ巡査部長は警察を辞め、ロンドンで私立探偵を開業する。そこに持ち込まれた「シデナム事件」。痴情のもつれから医者を殺しもうすぐ裁判にかけられる兄を助けてくれと弟のピーター・フェラーズが依頼してきたのだ。ビーフに事件を依頼するなんて変わった人もいるもんだと、本作品の語り手でビーフの前事件を本に書いたダウンゼントは思う。
感想
「三人の名探偵のための事件」 「死体のない事件」に続くビーフ物の長編第三作だそうです。前作を読んでいないさぼてんが、本作を十二分に楽しめたかは疑わしいですが、イギリス流のユーモアが面白い。本書の書き手のタウンゼントはビーフをあんまり買っていない。読む方はビーフとタウンゼントのどちらがまぬけに見えるかというのがちょっと変わった趣向のように思う。難を言えば、なんか元々トリックも結末もわかっていてビーフに謎解きさせているみたいで、ビーフって天才なんでしょうか? それとも直感がすぐれているのでしょうか?(もしそうだとすれば、いわゆる本格推理とは離れていますよね)。
謎解きも大きなパンチ力はありませんが細かい所が面白く古さを感じさせない。「白黒はっきりさせない。」 「あいまいな部分を残し、しかし長い目で見れば正しい方向にむかっているんだろう」という「あー歴史の長い国なんだ〜、民主主義を自分たちの手で勝ち取って造りあげた国なんだあー」というのが分かるような気がする(気がするだけです)。
おすすめ度:★★★1/2
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さまよえる未亡人たち THE WANDERRING WIDOWS

エリザベス・フェラーズ著 1962年作 創元推理文庫
あらすじ
海外のイギリス領土から本土に久しぶりに帰ってきたロビンは、職に就く前に休暇をとりスコットランドのマル島へ渡る。そのホテルには4人の<未亡人>が滞在しておりそのおしゃべりのうるささ華やかさからロビンも話題に巻き込まれたり、ちょっとした日帰り旅行に付き合っていた。その未亡人のひとりが死ぬ。自殺か他殺か事故か?
感想
この作品は犯人像とその動機がさぼてんの好みです。久々にこういう話を読んだ気がして懐かしい。
ちょっとした事から事件があらぬ方向に向かい、ちょっとした事から探偵役が気づき、しかもふさわしい伏線もちゃんと張られていて破綻も違和感もないというのが本格的推理小説の面白さですね。
おすすめ度:★★★1/2
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