1999年9月のミステリ


法月綸太郎の新冒険

法月綸太郎作 講談社NOVELS 1999年 321頁
感想
背信の交点(シザーズ・クロッシング)  
作者会心の出来との事ですが、いまどき「親のすすめる縁談を断りきれずに心中する」って、信じられる?  
「高校生心中」ちゃうねんから。 
世界の神秘を解く男  
こういう風に、人を操ってみたいです。
身投げ女のブルース  
工夫はされているんやけど。ちょっと、無理があるんやなあ。
現場から生中継  
この作品が一番面白かった。もののみごとに背負い投げ。
リターン・ザ・ギフト  
順列組み合わせの問題でした。

頑張ってはりました。
またもや今更ながら、エラリー・クィーン親子のパロディっぽい話なんですね。その当時のニューヨークの風俗・雰囲気が楽しかったクィーン物とは違い、現代東京風俗物にはなってはいませんが。マニアックというか、作者の趣味の世界というか、限りなく自己満足の世界というか。そういう意味ではとても個性的。
文体に関してはなんか「ヘタなギャグはえーねん、ヤメテ」と言いそうになったりしたり。コチコチなのは確信犯としても無理してるみたいにみえる。真面目な人なんでしょうな。「スキップ」と「秘密」の後に読んだのは気の毒だったかも。

おすすめ度★★★1/2
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秘密

東野圭吾作 文芸春秋 1998年作 415頁
あらすじ
40才の杉田平介は、妻の直子、小学六年生の藻奈美(モナミ)の3人家族。明るくしっかり者の直子が取り仕切る家庭は居心地がいい。幸せだ。そんなある日、親戚の葬式に出るため長野の実家に帰る直子と藻奈美(モナミ)が乗ったスキーバスが雪山で転落した。
感想
男親は娘の結婚式の時、何故泣くんだろう。・・・・いや、家の父は泣かなかったな。影で泣いていた風もみじんもなかった。本人が公言していたように「ようこんな娘もーてくれはりましたな。」って風だった。(娘の出来の違いか?)・・・私の事はいいんだ。話戻して、何故かな? 自分の大切なモノ(所有物)を、若い男(オス)に取られたと感じるのかもしれない。
「女にはかないませんわ」と、女に振り回される男達ばかりが登場。30半ばになっても、大学時代のサークルのノリで書いているミステリ作家が多い中、「中年男と夫と父親のさがと切なさ」を書ききった作者は偉い。実験小説だと思うこの話を、ここまで持っていった作者はエライ。作者にとって「女は謎」なんだな。
おすすめ度★★★★1/2
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スキップ

北村薫作 新潮文庫 1995年作 553頁
あらすじ
昭和45年、ある秋の日の夕方、高校2年生の一ノ瀬真理子は雨の音を聞きながらウトウトし・・・・・目覚めると25年の時を越え42才の中年女性に変わっていた。昭和は終わり時は平成七年、一ノ瀬真理子は桜木真理子となり高校3年生の娘・美也子さんと夫の桜木さんの3人家族らしい。中身は17才のままの真理子は悪夢を見続けているよう。私、元に戻れるのかしら。
 
<時と人>シリーズ第1弾
感想
この方が先生だった頃、三者懇談会でどことなく似ているが心を通じ合えない母娘を何組も見ていて考える所があったんだろうな。高校生の子供には「信じがたいだろうけれど、お母さんにも高校生の頃があったんだよ。」  中年の母親には、「今まで過ごした年月というのは、あなたにとってかけがえのない財産なんですよ。家族の面倒をみるだけではなく、自信を持って前向きに生きてください。若い頃にはみずみずしい感性があったはず、やりたい事もいっぱいあったでしょう?」と語りたかったのではなかろうか。そう思うと、勇気づけられる物語です。
「”学ぶ”という事は本来楽しいはずなのだ。」とか、中身は高校2年生の真理子が高3の実力テストの問題を作る所では、「高校で習う事柄というのは、高校生が十分理解できる内容なんだよ。」と言われているんだな。

母親の年齢に近い読者は、「17才の自分が今の自分に会った時、どう感じるだろう。」と考えると思う。「なかなかよくやってる。」と思うのか、それとも「がっかり」するのか。そういう意味では「今のあなたは自分を誇れますか?」と作者に鋭く問われているような気がする。優しくて厳しい人だ。

作者は、言葉を大事にする方なんですね。書かれている選び抜かれた美しく正しい日本語が、私にとって気持ちよかったかというと、・・・残念ながらそうとばかりは言えない。よい先生らしい物言いや、生徒達の優等生的な発言に居心地の悪さを感じいささか疲れてしまった。作者が元国語の高校教師ということから、色眼鏡で見てしまうのかもしれない。
おすすめ度★★★1/2
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球形の季節

恩田陸作 新潮社 1994年作 242頁
あらすじ
東北の人口15万人の地方都市谷津には、女子校2高、男子校2高あわせて4つの高校がある。4月の末からその4つの高校生達の間で「5月17日、如月山でエンドウさんという子が宇宙人に連れていかれる。」という噂が広まる。
感想
題名の「球形の季節」は、どういう意味なんだろう。コロコロあっちへ行ったりこっちへ来たり転がる不安定な時期を表現しているんだろうか? それとも水晶玉のようなピュアな頃を表しているのか? 

様々な断片が、繋ぎ合わされ一つに収束していくのかと思っていたら、話は次第に拡散しとらえどころなく終わりました。ごく普通の日常生活・外界から心の内世界へと移っていったんだな。
「つるむのはしんどいけれど、ひとりでいるのも寂しい」 「どことは言えないけれど、こことは違うどこかへ行きたい」というもやもやした気持ちの人が共感できるやさしい文体だと思う。心を開かなくなった子に対する親の思いも、伝承めいたホラー仕立てでさりげなく挿まれていたのもうまい。

評価できる作品ではあります。が、「自分にしたい事があって、それに突き進むパワーがない限りどこへ行っても同じ」と思っている、もはやただただ現実的な私には、十代の頃の不安な気持ちを思い出すのは苦しい。また、ごくフツーの若い人の肥大化した自我に対し「わかる。わかる、その気持ち」と物わかりよくやさしげに言うだけでどうするねんという思いが少しあるんだな、私には。 わかりあえる、ただそれだけでいいとしても。
おすすめ度★★★1/2
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ファイアボール・ブルース−逃亡−

桐野夏生作 集英社 1995年作 259頁
あらすじ
女子プロレスラーの話。はずかしげもなく言えば”ファイター達の生き様”を書きたかったと思える。
感想
著者は「誰にも媚びず、群れず、だだひとり、ひたむきにまっすぐ前を見つめている」女の人に惹かれるんだな。
悲壮感すら漂う一匹狼が好きなんだ。
恐らく珍しいタイプの人だと思う。根底には「楽して生きたい」と言う願望を抱いて、群れたがる女の人が多い中。しかし、この世の中一匹狼だと「女商売」なかなかやっていけない。こうもストレートに自分の色を出すのは東京人なんだな。
私が立派だと思うのは自分の好みではないタイプの女性に対し、批判じみた事を書かない事。超越しているとも言える。
が、男社会の中、自分の意を貫くと単なる「女の我が儘」ととられる事に対しての痛烈な批判は書かれていたな。
会社の帰りに読み始めて、夕ご飯食べながらも食べてからも読み続けの一気読み。
おすすめ度★★★★
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