1998年11月のミステリ

七人の中にいる

今邑彩著 中央公論社C★NOVELS 1994年作 324頁
あらすじ
21年前のクリスマスイブの夜、医者一家惨殺事件が起こった。現在ペンション「春風」のオーナーになっている晶子の隠された過去が、「復讐を予告する」手紙により蘇る。
感想
謎解き物はちょっと苦手な所がある。途中で詰まってしまって読み終えるのに時間がかかるから。でもやっぱり読んでしまう(^^)。
2転3転していく中で徐々に真実が明らかにされていく、よくできたストーリーだった。「フーダニット物」では才能のある人と感じるんやけど、なんかテレビドラマ風なん。感動させるまでにいたらないのがちょっと残念。パズラーには小説としてのよさは不要とも言えるんやけれど、テーマが「家族愛」みたいなので、もうちょっとなんとかならんかったんやろか。まあ軽いからその分内容の割に明るいちゃあ明るい。
おすすめ度:★★★1/2
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散りしかたみに

近藤史恵著 角川書店 1998年作 230頁
あらすじ
「ねむりねずみ」から10ヶ月。瀬川小菊は、歌舞伎「本朝廿四孝」の舞台で桜の花びらが一枚降る謎を今泉文吾名探偵に解いてもらえと、師匠の瀬川菊花から厳命される。
感想
「ねむりねずみ」は大好きな本なのですが、比べるとやや笑いが少ない。よくできたアイデアなんですけど。
読み終わってちょっと物足らない。折角の題材がよくねってあるにも関わらず2時間ミステリドラマ風になってしまい、あっさり気味。もったいない。
小池真理子風に耽美にどろどろした方がいいとも思わないんですが。う〜んどういったらいいかな。もう一歩踏み込んだらいいのにとちょっと欲求不満。才能はある人なのに。話としても好きなのに「スタバトマーテル」といいごっつ惜しい。
おすすめ度:★★★1/2
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『よめはんの人類学』 (ミステリ外)

黒川博行著 ブレーンセンター 1998年 248頁
あらすじ
新聞、雑誌に掲載されたコラム、エッセイを集めた初エッセイ集。挿絵の「お姫さまと鬼」は、「よめはん」の作品。
感想
贔屓の作家とはいえ、私の場合知らない事が多い。

今回知った事。
・エルモア・レナード好き
・著者のプロフィールに使われているのは、10年以上も前の写真(笑)
・グリコのおまけ300個が宝物

昔NHKの銀河テレビ小説でサントリーミステリ大賞受賞作「キャッツアイころがった」を放送した時、黒川夫人がタイトルバックを描いてはると新聞に載っていたので「絵を描きはんのんか」と思っていたんですが、おもろい、この挿絵。
本の表紙絵のグリコのおまけ−「欲張りのよめはん 対 タジタジとあとずさりしそうになって孤軍奮闘している戦車一台」−の図式もおもしろい。おふたりの関係を如実に表してはる(笑)。書店で一度見てください。
最後の「この国のカタチ」は、ぼやきの人生幸朗さんの後をついだはります。そう、大人は妙に物わかりようなってあきらめてはアカンのです。
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強盗プロフェッショナル BANK SHOT

ドナルド・E・ウエストレイク著 角川文庫(復刊) 渡辺栄一郎訳 1972年作 269頁
あらすじ
ドートマンダーは、チンケな「百科事典詐欺」で喰いつないでいる日々。危うい所をケルプに助けられる。ケルプが持ち込んだ大仕事は、銀行強奪だった。「この前お前が持ってきた仕事は」ドートマンダーが言う。「なみの五倍も苦労させられて、しかもすんだときには一文にもならなかった。」
感想
「ホット・ロック」に続くドートマンダー・シリーズ第二作。
メンツは、天才的犯罪プランナーのジョン・アーチボルト・ドートマンダー、同居人で恋人、スーパーのレジ係チェーンスモーカーのメイ・ベラミー、友人で自動車窃盗のアンディ・ケルプ、ケルプの甥っ子元FBI、B級活劇おたくのビクター、車の運転のプロ、スタン・マーチとタクシーの運転手のマーチ・ママ(おふくろ)、バイセクシャルの黒人活動家で錠前屋のハーマン・Xの総勢7名。今回総掛かりで銀行強奪を仕掛ける。

男5人が「タイヤを盗みに行く」”トラックの前部座席に大のおとなを5人詰め込むギネスに挑戦”のシーン、ふと気がつくと喫茶店でひとり笑いながら読んでいました。ハズカシイ
銀行強奪のアイデアよくできてました。真っ昼間、公道で人に知られず”高さを測りたい”時どうします?
おすすめ度:★★★★
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ミステリ・クラブの事件簿 DETH IN LITTLE TOKYO マキャヴィティ、アンソニー最優秀処女部門賞

デイル・フルタニ著 集英社文庫 戸田裕之訳 1996年作 315頁
あらすじ
ハワイ生まれでロサンジェルスに住む日系三世ケン・タナカは42才。優秀なコンピュータ・プログラマーだったが、リストラのため現在失業中。「ロサンジェルス・ミステリ・クラブ」の毎月定例会のため、1ヶ月間だけ架空の私立探偵事務所を開いたら、美人の依頼人がやってきた。(「マルタの鷹」みたいやん) 異色巻き込まれ型ハードボイルド。
感想
アジア系アメリカ人作家が、アジア系の私立探偵を主人公にして書いた初めての作品だそうです。
第二次世界大戦中の強制キャンプで苦労した日系二世の話とか、生まれた時からアメリカ人であるにも関わらず、顔かたちから異邦人のような気持ちを味わい、自己のアイデンティティを模索している日系三世の話とか興味深かった。
主人公のケン・タナカが会員になっている「ロサンジェルス・ミステリ・クラブ」では、毎月謎解きの創作演劇をするために、頭と時間とお金をかけてマジで取り組んでいるというのが、ミステリ好きには楽しい。
犯人はわかりやすいです。が、黒澤監督の映画「椿三十郎」の有名なシーンがうまいこと使われていました。

「DETH  IN  LITTLE  TOKYO」という原題が「ミステリ・クラブの事件簿」とは、なんとかならん? 事件簿っていうから短編集かと思ったやん。
おすすめ度:★★★1/2
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猿来たりなば DON'T MONKEY WITH MURDER
エリザベス・フェラーズ著 創元推理文庫 中村有希訳 1942年作 298頁
あらすじ
犯罪ジャーナリストのトビー・ダイクと親友のジョージ(姓なし)は、「わたしのアーマが誘拐されました。調査をお願いします。」とポッター教授と名乗る外国人から手紙を受け取り、へんぴな田舎町イースト・リートにノコノコやってきた。
感想
読み終えるのに10日ほどかかってしまいました。1942年の作品といっても訳は現代的だし、ストーリーはシンプルで読みやすいし、どうしてそんなにかかったのかと言うと・・・思案ろっぽしてました、「猿が殺されたわけ」を。でもって結局「下手な考え休むに似たり」。

英国ミステリ「パズラー黄金時代」末期の作品。なにげない進展ながらあざやかなお手並みでした。
「猿が殺されたわけ」よりラストがおみごと。すれっからしの読者相手に、作者の”してやったりという会心の笑顔”が目に浮かぶ(^^)
「DON'T MONKEY WITH MURDER」って原題、どういう意味なんだろう。「殺人事件でふざけるな」? MONKEYをかけてあるのかな。このあたりも解説で説明してほしいところ。
おすすめ度:★★★1/2
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