1998年7月のミステリ

異形博覧会 怪奇幻想短編集
井上雅彦著 角川ホラー文庫 484ページ 1983〜1992年 
あらすじ
6部構成、23の短編からなるホラー短編集。
感想
ヒッチコック監督作品みたいな題名の「舞台恐怖症」がいっちゃん好き。ひさしぶりにミステリショートの醍醐味を味わったような気がする。「えーんかいな」という話ではあるんやけど。一発勝負物。

2つ目は、「とうにハロウィーンを過ぎて」がいい。ユーモア&ホラー物というポップでなかなかおつな味わい。ホラー映画のようでありながら、映画より小説に勝ち点がある作品。

「俺達を消すな!」は「ウルトラマン」の子供達の落書きからうまれた「ガバドン」を思い出した(笑)。
おすすめ度:★★★★
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ビッグ・ピクチャー THE BIG PICTURE<決定的な写真>
ダグラス・ケネディ著 新潮文庫 560ページ 1998年 中川聖訳
あらすじ
ウォール街の有名弁護士事務所で遺産・信託部門に勤めている弁護士ベンは年に31万5千ドル稼ぎ、郊外に一軒家、美しい妻、2人の息子と暮らしている。恵まれすぎた暮らしのはずが、38才になった今罠にかかったような気が日々している。
感想
大切な者を得たために、それを喪失する事の恐怖を覚えた時「自分自身の脆さを認識する」というくだりに深くため息がでる。

3部構成のストーリーで、第1部はなかなか読み進めませんでした。「そんなに金があって何が不満やねん」という思いもあるのですが、主人公の気持ちもわかるような気がする。

「成功社会」のアメリカでベストセラーになったそうです。「アメリカ型成功社会」の落とし穴を語りながらも、逆境にめげず、ある意味で成長していく主人公はアメリカ人好みなのかも。ディズニーが映画化権を獲得。
おすすめ度:★★★★
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密告 Secret Information
真保裕一著 講談社 346ページ 1998年
あらすじ
川崎中央署生活安全総務係の菅野貴之は、昔わけありの上司、矢木沢稔から「また、卑劣なまねを!」と職場でなじられる。矢木沢が官区内の業者から接待をうけているという密告があったのだ。
感想
身に覚えのない誤解を受けた場合どうするか? 「身の不運」とあきらめるか?「不徳のいたすところ」と耐えるか、それとも「ふりかかった火の粉ははらわねばならぬ。」となりふりかまわず奮闘するか? タレントが「マスコミ」に騒がれた場合は「黙殺」が一番有効みたいですが、普段の生活ではやはり、誤解は解かなければならない。というわけで、四面楚歌の中孤独に戦う主人公とか、ひとり戦わざるを得なくなったいきさつ、展開するストーリーとよくできていました。が、登場人物がどの人も好きになれず、気が滅入ってしまった。

特に、主人公の菅野が昔思いをよせ、今は上司の八木沢の妻となっている美奈子さん。「夫が浮気をしているような気がする。」といって、再会した菅野に夫の後をつけさす。 何考えているかわからん。 このあたりなんだかふた昔前の小説を読んでいるような気がする。

警察官が殉職された場合、遺族の方が生活に困られないようにと全国の警察官から見舞金が集まると聞いた事があります。そういう家族的な社会、仕事柄自らを律しなくてはならず閉鎖的になりがちな世界では、誤った行為を目撃した場合それを表沙汰にする事が「密告」となるのかどうか、ボーダーライン上の問題提起でもあります。きまじめな話でした。
おすすめ度:★★★
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フォー・ディア・ライフ For Dear Life(命からがら)
柴田よしき著 講談社 393ページ 1998年
あらすじ
無認可保育園の園長・花咲慎一郎は、保育園の給食づくりから壊れた玩具の修理、はたまた園を運営する資金稼ぎのためヤバイ私立探偵の仕事も引き受け、眠る暇もない34才バツイチ男は今日も新宿の街を走る!
感想
過去をひきずってドロドロしているような、社会派のような、コミカルなような、アットホームなような色々な要素ゴッタ煮の小説。過激な少女コミックを読んでいるような気もしてきます。

元まる暴の刑事(デカ)、今は無認可保育園の園長で金のために裏の仕事に奔走する主人公と、関西弁の家出少年のキャラがいい。それ以上に城島探偵事務所のひと癖もふた癖もありすぎる城島所長が面白かった。主人公に言う「あんたひとりの体やない。」ってセリフ、主人公が妊婦にみえてきたりして(笑)。

人物造形が少し舌足らずで”極悪人の韮崎”にぶっとんだ女医奈美がなんでそこまで溺れたのか、”悪魔の山内”がどう悪魔なんか、もうちょっと書き込んでもよかったかも。なんやかやいいながらもヤクザがちょっとばかり美化されているのが残念。
どのあたりの読者がターゲットの小説なのか? 知りたい。
文句言ってますが、面白かったです。
おすすめ度:★★★1/2
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野獣の街 City Primeval High Noon in Detroit
エルモア・レナード著 創元推理文庫 375ページ 1980年 高見浩訳
あらすじ
ガールフレンドの情報から、アルバニア人の隠し財産を狙っていたクレメント・マンセルは車での追跡を銀色のリンカン・マークWにじゃまされ、運転していた黒人を軽く射殺する。翌朝新聞を見ると、射殺した黒人は悪名高き裁判官であった。「俺ときたらロハで社会の害虫を駆除したってのかい?」
感想
警察小説かと思って読んでいたら実は実は、・・・西部劇だったのです(^^)。
主人公のひとりレイモンド・クルース警部補が冒頭に、こなまいきな新聞記者からインタビューされる所を再度読み直す。これがラストへの皮肉として効いている。うまい構成だあ。

ワル、”オクラホマの原始人”、肝っ玉に毛が生えているクレメント・マンセルは、ティム・ロスで決まり。クレメントの愛人サンディ・スタントンはそうねえ、サマンサ・マシス(「スーパーマリオ」)。レイモンド・クルース警部補は、う〜ん若い頃のエリオット・グールドか、今ならユーモア味のスティーブン・レイ(「クライング・ゲーム」)ってキャスティング、どう?
おすすめ度:「キルショット」から見た相対評価です。★★★★
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