1997年12月のミステリ

フロスト日和 A TOUCH OF FROST

R.D.ウィングフィールド著 創元推理文庫 707ページ 1987年作 芹澤恵訳
あらすじ
デントンでは、連続婦女暴行事件が発生。ジャック・フロスト警部はというと、公衆トイレで死んでいる浮浪者の事件に駆り出される。
感想
つづいて、1997年度「このミス」海外編第1位の「フロスト日和」を読む。あいかわらず、フロスト警部は「残業手当の申請書類」と「犯罪統計資料」の作成から逃げまくり、マレット署長からは顔をあわせればお説教をされる毎日。あっちへべたり、こっちへべたりでずるずるといつまでも働いている展開も同じ。でも、おもしろい。大好物のチョコレートを毎日一粒づつ味わうように、ゆっくり楽しみました。 読み終わるのが惜しかった。
迷走した数々の事件も(登場人物一覧表には38人も載ってるんやから)、最後にはピタッとジグソーパズルのようにはまりました。伏線もうまいこと張られています。
「スタン・ローレルの面をつけた強盗」のくだりでは、「ヨーロッパではローレル&ハーディは人気があるんやなあ」というのがわかりちょっと嬉しかった。
おすすめ度:★★★★1/2
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クリスマスのフロスト FROST AT CHRISTMAS

R.D.ウィングフィールド著 創元推理文庫 529ページ 1984年作 芹澤恵訳
あらすじ
ロンドン近郊の地方都市デントンの犯罪捜査部ジャック・フロスト警部は、40代後半。ヨレヨレのレインコートとエビ茶色のマフラーに身を包み、いったい何を目的としているのかかいもくわからんという捜査方法で事件をみごと解決?!
感想
だらしない、整理整頓が苦手、したく無いことはちょっとでも先延ばしのフロスト警部に、さぼてんは限りなく親近感を持ちました。少女誘拐事件という辛い話がメインではありますが、フロスト警部のみならず、脇役がそれぞれ個性豊かで人間味あふれます(あふれすぎて、滑稽な方もおられます)
警察で次々と事件が起こるストーリーということで、「ギデオンの一日」(J.J.マリック)とか「夜勤刑事」(マイケル・Z・リューイン)を思いだしていたら、フロスト警部自身に「このおれにできるわけないんだ。ギデオンくそ警視じゃあるまいし」と言わせている所がでてきました。
ちょっと話は、ずれますが、この本で一番嬉しかったのは、フロスト警部が40代後半なのに仕事では現役であるという事。おさまりかえっている巨大な人数の団塊の世代に、ちょこっと悩まされている私は嬉しかったな。
おすすめ度:★★★★
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ディプロドトンティア・マクロプス

我孫子武丸著 講談社NOVELS 211ページ 1997年作 
あらすじ
中年のしがない探偵は、若い女性から失踪人探しを依頼される。そして、みしらぬ少女からは、マチルダさん探しを命令される。
感想
こういう本なら、さぼてんもイッキ読みできる。あほミステリ大好き。ディプロドトンティア・マクロプスとはなんぞや?と、<エンカルタ>で検索(を頼む)。フムフム、いい題名やん(えらそ)。挿し絵(イラスト)がまたなんともいえん。ニンマリしてしまう。

−−−−ネタばれあります。ご注意ください−−−−
幼稚園児の時、ちびさぼてんに、「ヒポポタマス」を教えられた。このなんかしら哲学的な名前の持ち主は・・・・・
かばさんです。
おすすめ度:★★★1/2
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赤い右手 the red right hand

J・T・ロジャーズ著 国書刊行会 世界探偵小説全集15 257ページ 1945年作 夏来健次訳
あらすじ
医者のリドルは、車でニューヨークへ帰る途中、助けを求めてよろよろ歩いている女性をひらう。彼女の話では、婚約者がヒッチハイカーに車ごと連れ去られたという。
感想
1997年度「このミステリがすごい!」海外編第2位の作品。1945年度作品ということで、それなりにオーソドックスな文体です。が、やはりある種の傑作です。(このある種というのに含みがいっぱいあります。)折原一のように、時間があちこちに飛ぶので、気をいれて読まねばなりませんでした。最強の解説付きで面白みが倍増します(笑)。
アレコレ考えたのですが、すべてハズレました。おそろしく強引な「掟破り」も多数あり。これは、作者が確信犯なのか単なる思いつきなのか。ここまでくると風格さえ漂います。
「このミステリはずっこい!」にもはいりそう・・・。
おすすめ度:★★★★
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蜂工場

イアン・バンクス著 集英社文庫 258ページ 1984年作 野村芳夫訳
あらすじ
16才のフランクは、スコットランドの小さな島で変わり者の父親と暮らしている。そこに精神病院に入院している兄エリックが逃亡したとの知らせが入る。
感想
「終盤まで、すっごくおもしろかった。が、最後まで読んでみ。なんもないから」という大胆不敵な感想を背に読み始める。
ウウム、変わった小説です。感想が真っ二つにわかれるというのもうなづける。好きか嫌いかと問われると、まあホラーは得意やないしといった所ですが、読む価値があると思う。
ただ、さぼてんはメカに弱いので色々な装置が出てきても「グググ、これはどんなん?いったい何?」とよくわからなかったことを白状いたします。
おすすめ度:★★★★
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4U(ヨンユー) (ミス外) 

山田詠美著 幻冬舎 266ページ 1997年
あらすじ
9つの恋の特効薬を収めた小説集だそうです。
感想
あわない。最後まで読むのがちょっと苦痛だった。きっと作者には「読んでもらわなくてもいいです」って言われるだろうな。
「SEXなんてたいしたことない」といいながらも、ほぼ全編それにこだわった話でした。男とセックス以外に(それもとっても大事な事やけど)興味のあることはないん?と聞いてしまいそう・・・
この中では、「男に向かない職業」はわりとおもしろかったです。
中高生にすごく読まれているとか。(さぼてんに、あうはずないか・・・・)
おすすめ度:まあ、評判やから
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欲望 

小池真理子著 新潮社 384ページ 1997年
あらすじ
逞しい身体に、端正で美しい顔をもった正巳は、少年時代の事故のため絶望と欲望に身を焼かれながら生きていかなければならなくなった。その正巳を思い続けている類子、正巳が切に欲望を感じている美しい阿佐緒。3人を取りまく人達の危うい均衡が破れた時・・・
感想
ふう、やっと読み終えました。作者が推敲に推敲を重ね、一言一句もおろそかにはしないという文章なので、読んでいるさぼてんも「こういう読みとり方でええんやろか?この感じ方でええんやろか?」と何度もいきつもどりつしていました。三島文学をまったく読んでいないというのが、文章の雰囲気を理解しにくかった一番の原因かもしれない。それと、「えっ、美学って何?」って方やからなあ、私は。語り手の類子(るいこ)には、仮面のように顔が無かったこともつかみ所のなかった一因。しかし、反面それが話に奥行きを与えている。類子の雰囲気としては、「ジェーン・エア」に似ている。
いっくら想っても願っても、かなえられないものを追いかけた人達の世界が閉じられた物語です。
若い頃のかなわなかった恋は、いつまでもいつまでも美しくそして哀しい。
おすすめ度:これは読み手をえらぶぞ。読者サービスというより、作者が描きたかった美しく完成された作品です。
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ダーティ・トリック DIRTY TRICKS 

マイケル・ディブディン著 扶桑社ミステリ 316ページ 1991年著 中原尚哉訳
あらすじ
中流階級出身の「私」は、オックスフォード大に進み前途洋々であるはずだった。にもかかわらず、享楽的な生活に身をもちくずし、世界を放浪した後、40才になり故国英国にもどってみれば労働者階級からの成りあがりが幅をきかせ、もはや自分の居場所はなかった。
感想
名前も知らない本だったのですが、小池真理子さんお薦めだったので、予約して中央図書館から取り寄せてもらいました。
「郵便配達は二度ベルを鳴らす」のインテリ版といったかんじ。
どういったらいいんかなあ。小池真理子さんは、「若き日のアラン・ドロンを想定して読んでみた。」と書かれていますが、たぶん小池真理子さんがこの主人公に惹かれたのは、同じフラワー・チルドレン世代(全共闘世代)だからといった側面があるように思う。わかりあえる部分が多いんじゃないかな。
さぼてんは、主人公にあまり魅力を感じなかったけれど、2転3転するプロット、皮肉な結末といい犯罪小説の佳作です。同じ作者の「血と影」よりも数段読みやすかった。

最近ビスコンティ監督版の「郵便配達は二度ベルを鳴らす」を見ました。古い映画(1942年イタリア)でちょっと長かったのですが、「貧しさと欲望、どうしようもない閉塞感」が実によかったです。
おすすめ度:★★★1/2
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森の死神 1996年フランス推理小説大賞

ブリジット・オベール著 ハヤカワミステリ文庫 395ページ 1996年著 香川由利子訳
あらすじ
36才のエリーズはアイルランドへの旅行中爆弾テロにあい、恋人は亡くなり全身麻痺の上ショックで目も見えなくなり、しゃべる事もできなくなってしまう。
ある日木陰で休んでいると、知らない少女から「森の死神がつぎつぎと少年を殺しているの」とうち明けられる。
感想
斬新な異色作というのが、ぴったりくるお話です。結構おどろおどろしい話のはずなのに、わりと明るく軽く書かれていました。身体が不自由で、他者との意志の疎通が難しい主人公の独白だけでストーリーをひっぱります。最後の謎解きはもっと短くならないのかなあという難点が少しありますが、果敢にこの難しい展開に挑戦した作者は、たいしたもんだと感心しました。

読みながら、ティモシー・ボトムズ主演の映画「ジョニーは戦場へ行った」の「キル・ミー、キル・ミー」の場面を思い出していたら、本の最初の方で「いつか夜のテレビで見た映画のことをよく思い出す」で紹介されていた。あの映画から、この主人公の置かれた残酷な境遇をイメージ化できるうまい導入部です。
ウィリアム・アイリッシュ短編集3の「じっと見ている目」も全身麻痺の女性が主人公ですが、この話の動機が「お金」なのに対し、「森の死神」の動機がこうなのは、今日的なのですね。
おすすめ度:★4つにするか、だいぶ迷ってしまいました。★★★1/2
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スティック

エルモア・レナード著 文春文庫 456ページ 1983年 高見浩訳
あらすじ
ジャクソン刑務所で7年の”おつとめ”を終えたアーネスト・スティック・ジュニア42才は、娘に会いに会いにぶらりとマイアミにやってきた。ムショ仲間だったレイニーに誘われて、お金の運搬についていったら、なんだかやばい事にまきこまれてしまった。
感想
レナードは異色作「キルショット」から入ったので、「レナード・タッチってこうなのか」というのが本書でやっとわかりました。
なんちゅうか、絶妙の間合いやね、物語全体が。今から思うと「ゲット・ショーティ」のトラボルタは、この雰囲気をなかなか旨い事だしてはったんやなあという気がする。今まで、あんまり考えたことなかったけど、何をするにも「タイミングをうまい事つかむ」というのが、わかっている人とそうでない人の違いは大きいんやね。

物語の中ぐらいで、スティックが1晩に魅力的な女性3人からお誘いをうけるという「盆と正月とクリスマスがいっぺんにきた!」って所おもしろいよ〜。これは笑える。「おれはごく単純な楽しみを糧にいきていける男だ」ってのもいいね。
大金持ちの奇人変人ぶりを、大いに楽しませてくれるバリーのキャラクターもなかなかです。
おすすめ度:★★★★
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