1998年5月のミステリ

タッチ Touch

エルモア・レナード著 ハヤカワ文庫 346ページ 1977年作 田口俊樹訳
あらすじ
アルコール中毒者厚生施設「聖心リハビリテーション施設」で働くジューヴェナルは、「触れる」ことで病を治す不思議な力を持っていた。
感想
発熱している額に手をあてて「私のオーラで元気になって欲しい」と願っても魔法のように熱がひく事は残念ながら、ない。が、この本を読むと、誰でも思いを持って「触れる」ことで普段でも、何かが体の内から起こるような気がしてくる。

「もしかして聖人」のジューヴェナルが、愛する人とセックスする事に素直に感動する場面が印象的。自分も「触れられる」事で心を暖められ、「人に思いを伝えることは単純なことなんだ」という言葉に力がある。

もうひとつの言葉「(人が何を考えているのかわかるには)人の話を聞くんだよ。次に自分が何を言おうと考えるかわりに。」 これも単純な事なんやけど、難しい。(すぐにボケ所とか、ツッコムとことかに頭がまわるからなあ)
エルモア・レナード5作品目。はまってます。本を読み終わった後、気持ちがいい。
おすすめ度:宮部みゆきの「理由」の直後に読んだのが運命的出会い(笑)★★★★1/2
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理由(りゆう)

宮部みゆき著 朝日新聞社 571ページ 1997年作
あらすじ
東京北千住の高層マンション「ヴァンダール千住北ニューシティ」の2025室で一家四人が殺されるという事件が発生。ひっそり暮らしていたこの一家に何があったのか。何故事件は起こったのか。
1996年から1997年に朝日新聞の夕刊に連載されていた作品の単行本化。
感想
重い。「家」というものが大切だった昔の方が、現代の家族よりも幸せだったという事はないと思う。が、社会の最少のコミュニティである家族が今抱える問題は大きい。縁や血縁で結びつけられた家族が何故おとぎ話のようにいつも仲良く暮らせないのか、様々な確執が生じるのは何故なのか。それらを包含しながらも、なんとか乗り越えて踏みとどまる人達と崩壊してしまう人達はどこが違うのか。崩壊した人達はどこへ行くのか。
そしてまた、家族が暮らす器であるマイホームが大きな金儲けの対象となり、安価で良質な住宅を手に入れるのが困難なのはどういう理由からか。それらは、これからどう変化していくのか。作者の来るべき社会に対する警鐘。

一緒に暮らしている人に対し、どういう気質なのか、なにを喜びなにを嫌がるかに対する考察がない、あるいは考えが及ばない人達が登場。私もどちらかというとこのタイプ。「家族」に対する自分の考えがうまくまとめられないけれど、考え込んでしまう話でした。

事件後、ライターが関係者にインタビューするという形式がとられています。有吉佐和子さんの「悪女について」とよく似た形式でした。
おすすめ度:★★★★1/2
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雨の午後の降霊術 Seance on a Wet Afternoon

マーク・マクシェーン著 トパーズプレス シリーズ百年の物語2 219ページ 1961年作 北澤和彦訳
あらすじ
子供の頃から霊的能力を持っていたマライアは、超一流の霊媒師達と交わる事で能力を高め、死者と交信したいと願っていた。
感想
あっと驚く結末もなければ、パズラーでもないミステリ。まさに英国の「隠花植物」といった趣です。「雨の午後の降霊術」という題名も聞いただけでゾクッとします。淡々とした展開ながら妖しくそして恐い。
気が滅入るような、それでいて熱に浮かされたような不思議な読後感をもちました。

長らく翻訳が待たれていた幻の名作。リチャード・アッテンボロー主演で映画化されているそうです。
おすすめ度:★★★★1/2
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図書館の美女 THE ONLY GOOD YANKEE

ジェフ・アボット著 ミステリアス・プレス 383ページ 1995年作 佐藤耕士訳
あらすじ
テキサスの田舎町ミラボーの図書館長ジョーダン・ポティートは、恋人の家に泊まった翌朝、郵便受けに仕掛けられていた爆弾が爆発し腕に怪我をする。町では犬小屋や道具小屋が爆破される事件が起こっていた。この眠ったような町に爆弾魔がいる!
感想
ちびさぼてんが給食の時に「○○はお箸で食べる、△△はスプーンで食べる」という話をしていると、隣の男の子が「パンは何で食べる?」と聞くので、ちびさぼてんが「パンは手で食べる」と答えると「俺、手で食べへんで」 「なんで食べるん?」 「俺は口で食べるで。お前手で食べるンか」と言われたそうです。その男の子は、1週間程前に隣の女の子に何か言って怒らせリコーダーを投げつけられるという事件があり、席を変えられちびさぼてんの隣になったらしい。
かように口の減らない男の身はアブナイ。頭とは別の生き物の口を持っているジョーダン・ポティートは、今回満身創痍。 アガサ賞、マカヴィティ賞最優秀処女長編賞受賞の図書館の死体に続くシリーズ2作目。
原題の"THE ONLY GOOD YANKEE"は、"The only good Yankee is a dead Yankee"から採ったものだそうです。こういう言い回し(「私の知っている蜘蛛で良い蜘蛛は、死んだ蜘蛛だけだ」というやつ)は昔からあったんですね。
おすすめ度:★★★1/2
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ラム・パンチ

エルモア・レナード著 角川文庫 413ページ 1992年作
あらすじ
ステユワーデスのジャッキーは、銃の密売人オーディルの金の運び屋をやっていたが、銃器取締局の捜査官レイに捕まりおとり捜査を強制される。口封じのためにオーディルに消されかねないジャッキーは「前門の虎、後門の狼」状態をどう脱出するか・・・。
黄昏はじめた人生にピリオド打って、大金を持って第二の人生に踏み出したいという人々の思惑がからみあった話。
感想
今、上映中の映画「ジャッキー・ブラウン」の原作本というわけであわてて読み始める。銃の密売人オーディルは、サミュエル・L・ジャクソンを想定して書かれてるのかと思うほどはまっている。頭のトロケタようなルイスがロバート・デ・ニーロとは、これは楽しみやね。

映画と原作本の関係は、映画は「本を読んだ監督なり脚本家が描いたイマジネーションの世界」なので原作通りでもまったく違っていても、それはどっちでもいいと私は思う。ただ、本を読んでイメージしていたのと余りにも違うととまどう事はあるけどね。今回は映画のキャスティングを知った上だったので読みやすかった。こういう本の読み方もいいね。タランティーノ監督の描いた絵がどんななのか映画に一層期待が高まる(^^)
この話の中で、一番とらえどころのないタイプが主役のジャッキー・バークやねんよ。ステュワーデスというより賢くて度胸のいい世慣れたウェイトレスに近い。
おすすめ度:★★★1/2
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