1998年2月のミステリ

はなれわざ TOUR DE FORCE(ちからわざ)

クリスチアナ・ブランド著 ハヤカワポケットミステリ 346ページ 1955年作 宇野利泰訳
あらすじ
ロンドンからイタリア一周のツアーに混じったコックリル警部は、地中海の島サン・ホアン・エル・ピラータ共和国に滞在中、ツアー客殺人事件の容疑者の1人になってしまった。
感想
「緑は危険」「ジェゼベルの死」と3冊読んだ中では、この「はなれわざ」が一番面白かったです。しかし、会話文が多いにもかかわらず読みにくい文体。面白いんですけどね、時間がかかりました。「緑は危険」「ジェゼベルの死」はだいぶ以前に読んだのですが、苦労したなあという印象が強い。伏線が多数はりめぐらされているにもかかわらず、独特の情景描写が煙幕になっています。本格物古典の好きな方は、押さえておきましょう。
おすすめ度:★★★1/2
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ライン

乃南(のなみ)アサ著 講談社文庫 330ページ 1997年 1990年「パソコン通信殺人事件」改題
あらすじ
三浪生の小田切薫は、パソコン通信にのめり込んでいた。ハンドルネーム’KAHORU’を女の子と間違われ、そのまま20才の女子大生としてチャットで遊んでいた。ところが、’KAHORU’に恋する男達があらわれ、ついにあいたいと迫ってきた。
感想
殺人の動機が弱いような気もするし、モラトリアムな10代後半、20代初め頃の若者の生態、思考が描けているかどうかは、よくわからないのですが、なかなか面白かった。
私はチャットに参加した事がないので、雰囲気が掴みにくかった所もありました。HPでは、「私はこういう者です。怪しい者ではありません。」とプロフィールを公開されている方も多いですが、私はプロフィールを知りたいとはそれほど思わないですね。謎の人物として虚構の世界で遊ぶというのも、心惹かれます。しかし、まったく別の人物になりすますというのは、邪道かな。
とはいえ、死語辞典をちゃんとチェックして「さぼで〜す。よろしくお願いしま〜す。キャハ☆」とか書いたら、女子大生は無理でも若いOLぐらいには、頑張れば化けれるかも(アホクサ)
おすすめ度:★★★1/2
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スペアーズ

マイケル・マーシャル・スミス著 ソニーマガジンズ 431ページ 1997年
あらすじ
83年前にメガモールという床面積15平方キロメートル、200階建ての巨大飛行機がリッチモンドに着陸した後、原因不明のトラブルから2度と飛び立たなかった。建て増しされ更に高くなり、また周りにも街ができはじめニューリッチモンドが誕生した。また、「セーフティ・ネット」という会社も生まれた。大金持ちが子供に保険をかけるように、怪我や病気をした時に備えてクローン生命体(スペア)を農場で飼育しているのだ。
感想
書評に載っていたのに惹かれて読み始めた作品。舞台設定が実に凝っていました。
「スターウォーズ」に登場するC3POのようなおしゃべりロボット(ドロイド)がところどころ出てくるのも、面白しろかった。今も機械室をさまよって修理し続けている伝説のメンテナンス・ドロイド。そして、農場の清掃ドロイドで絶えず大量のコーヒーを沸かし続けるラチェット。人間達以上に生き生きしています。
ドリームワークスが映画化権を獲得したと言う事ですが、できそこないの「ブレードランナー」や「マッドマックス・サンダードーム」にならない事をせつに希望します。成功すれば、20世紀最後の傑作SFになる可能性大。
おすすめ度:★★★★1/2
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麻耶雄嵩著 幻冬舎 454ページ 1997年作
あらすじ
珂允(かいん)は、3カ月前に殺された1つ違いの弟襾鈴(あべる)が半年前に滞在していたという幻の村を探しあてる。村に足を踏み入れた途端、無数の鴉に襲撃される。
感想
長かった...。たらたら読んでいたのが原因のようです。イッキ読みする本みたい。この半分ぐらいの長さだと緊迫感が持続するのではないかと思います。
山々に囲まれ閉鎖された村落なので、「楢山節考」や「八つ墓村」あげくは、萩尾望都「ポーの一族」まで思い浮かべながら読みました。これらに比べて、この本はあっさりとした書き方です。
京極夏彦といい、この作者といい、どんな文章修行をされたんでしょうか。独特のスタイルです。
おすすめ度:★★★1/2
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阿弥陀 パズル

山田正紀著 幻冬舎 225ページ 1997年作
あらすじ
監視カメラとICカードでがっちりガードされているテナントビル。そこで、深夜若い女性がエレベーターで15階に昇ったきり消え失せてしまった。
感想
”人間消失”の謎解きはご都合主義なとこもあるけれど、阿弥陀くじのように「この道を行ったらハズレだったあ」とごちゃごちゃいいながら、アチコチたどっている所が楽しい。弥次喜多風味。この本の直前に読んだフランスミステリとはだいぶ雰囲気が違う。

警備員の1人檜山洋介37才中年まっただ中(←本人の弁)の、ブツブツといった繰り言がユーモアたっぷり。別れた奥さんへの思いがたちきれない。結局、先の事から逃れられず、良くも悪くも地に足付けた男に対して、「女は気ままやねんから」 とため息ついているような話。(本格もんやから、そんなハズはないか)
おすすめ度:★★★1/2
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シンデレラの罠

セバスチアン・ジャプリゾ著 創元推理文庫 217ページ 1962年作
あらすじ
病院で目覚めた彼女は、記憶喪失におちいっていた。顔にも手にも真っ白な包帯がまかれている。私はだれ?
感想
1962年度の問題作。問題ですよ、これは。 「狼は天使の匂い」を見てから読みたくなってしまった。
「私は被害者です。そして加害者です。探偵です。また、証人でもあります。1人4役の私は何者でしょう」という過激なキャッチ・コピー。好みの話ではありませんが、一読の価値、絶対あり。

フランスのミステリは、フランス文学畑の大学教授が翻訳している場合が多いですね。そのせいか香り高い文章が多いです。なんとなく頭にすっと入らないのだ。(きっと高尚なのね)
おすすめ度:★★★★
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緋の女 Scarlet Woman

J・D・クリスティリアン著 扶桑社ミステリー文庫 494ページ 1996年作 棚橋志行訳
あらすじ
南北戦争後1871年のアメリカ、ニューヨークには、ヨーロッパの政情不安、凶作から大量に移民が流れ込んできていた。また一方では鉄道建設などで巨万の富を蓄える者もあらわれた。混沌とした街でひとりの娼婦が殺される。娼婦が富裕階級の失踪した夫人のドレスを着ていた事から、調査員ハーブは夫人の行方を追うために雇われる。
感想
歴史物です。ヴィクトリア朝時代のニューヨークの状況が実に緻密に描かれています。クライムノベルとしては、そうたいした事はありません。が、浮浪児から逞しく成長し、闇の世界で生き抜くすべを身につけたハーブがなにしろ魅力的。この裏も表も知り尽くした男の純愛物語でもあります。
大多数が貧しい頃にも、”緋の女”(売春婦)の需要は高かったんだなあというのがなんともはや。きれいごとではすまへんのやねえ。
この本は、「世界的なベストセラーとなったサスペンス」の著者の匿名だそうです。
おすすめ度:★★★1/2
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