日日雑記 February 2003

02 更新メモ(走れ!映画、The Joy of Music)
09 豆腐料理、八代目可楽、帝劇のフィルム、春隣

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2月2日日曜日/更新メモ(走れ!映画、The Joy of Music)

走れ!映画に先月の映画館行きについてつらつらと。

The Joy of Music を更新しました。





  

2月9日日曜日/豆腐料理、八代目可楽、帝劇のフィルム、春隣

車谷弘の『わが俳句交遊記』(角川書店)で知ったところによると、
辻嘉一の『現代豆腐百珍』という本には「序にかえて」として、
久保田万太郎による「湯豆腐」というタイトルの小唄が掲げられているのだそう。

身の冬の
とゞのつまりは
湯豆腐の
あはれ火かげん
うきかげん
月はかくれて雨となり
雨また雪となりしかな
しよせんこの世は
ひとりなり
泣くもわらふも
泣くもわらふもひとりなり

……ということを先月の日日雑記に書いたあとで知ったところによると、
辻嘉一の『現代豆腐百珍』はその後、『豆腐料理』と改訂されて刊行されたとのこと。

その『豆腐料理』にも久保田万太郎の小唄は載っているのかしらと気になって、
図書館で借りた、『辻留 豆腐料理』(婦人画報社、昭和37年)。

「序にかへて」、万太郎直筆の文字がそのまま印刷してあったのがまず嬉しい。
そして、ささやかだけど本全体がなんとも美しい。
豆腐好きにとっては、眺めていて幸福な心持ちになること、この上ない。
特に、「豆腐暦」という、十二ヵ月の豆腐料理のページがとても嬉しい。

というわけで、図書館で借りて眺めてうっとり、一気に物欲が煮えたぎって、
青木書店で見つけて、さっそく注文、手元に届いたのが月曜日だった。

青木書店はいつかぜひとも行ってみたい古本屋さんで、
小津安二郎の『東京物語』に登場した頃とほとんど変わっていないという、
東武電車の堀切駅に降り立って、そのまま荒川を渡って……というふうな
散歩コースを練って久しいのだけれども、いまだ実現していない。いつか必ず。

火曜日の夜、「ラジオ名人寄席」で聴いたのが、八代目三笑亭可楽の『甲府い』。
豆腐屋が舞台のこの落語、辻留『豆腐料理』の余韻とともに聴く時間は
それはそれは格別で、さらに、初めて聴いた八代目可楽にメロメロだった。

ああ、もうッ、惚れてしまった可楽、ということで、
水曜日の夜、さっそく銀座山野楽器でディスクを一枚購入。
今回買ったのは『子別れ』。『子別れ』を初めて聴いたのは圓生だった。
以来、何度も聴いて、志ん朝を買って、可楽が三枚目となる。

その足で、いそいそと京橋へ歩いて、フィルムセンターで『幸運の椅子』という映画を観た。

昭和23年制作の帝劇の舞台を交えた、4話のオムニバス映画。
去年10月、演劇博物館で《よみがえる帝国劇場展》があまりに面白かったため、
以来しばらく帝劇ブームが続いていたのだったが、その絶好の締めくくりになった。
震災後に改築された「第二次」の帝劇をその外観から内部にいたるまで
スクリーンを通してふんだんに見ることができて、その上、舞台まで見ることができる。
帝劇の客席と映画館の椅子とが一体になった感じで、キラキラと眩しい時間だった。

ラロの《スペイン交響曲》を弾く諏訪根自子を見て思い出したのが、
戸板康二の『忘れじの美女』[*] の冒頭に収録されている「忘れじの美女」。
ここの「美女」が諏訪根自子さん。
終戦間近に日比谷公会堂に諏訪根自子の演奏会があって、
このときに戸板康二が聴いたのが《スペイン交響曲》だったという。

《諏訪さんの弓が奏でる旋律を耳にしながら、私は戦争のあとに、
こういう音を聴き、こういう曲が作る独特の心の昂揚に接して、
夢を見ているような気がした。たしか同じ年に、芸術祭がはじまり、
豊竹山城少掾の義太夫を帝劇で聴いた時も、私は感動の溜め息をついたが、
諏訪さんのラロは、その美しい容姿で、胸をときめかさずにはいられなかった。》

映画『幸運の椅子』は、まさしく戸板康二が書いているのと同時代の帝劇を捉えたフィルムだ。

水曜日は、朝っぱらから激しい頭痛でクサクサしていたのだったが、
そんななか、眺めていた新聞のコラム欄で見つけたのが、久保田万太郎の俳句。

叱 ら れ て 目 を つ ぶ る 猫 春 隣

まったくもって、久保田万太郎の俳句は素晴らしい。
なんだかすっかりボケボケしていたのだったけれども、
今週は立春で、いつのまにか暦の上では春が来ていたのだった。

水曜日、朝からの頭痛がすっかり和らいで、『幸運の椅子』の帝劇の気分のまま、
上機嫌で帰宅して、部屋で可楽の落語を聴きながら、久保田万太郎の句集を繰った。

毎年とっても不調な二月と三月だけれども、
久保田万太郎の俳句を眺めていれば、気分は上々というもの。

粉 薬 の う ぐ ひ す い ろ の 二 月 か な

このところ毎日、花粉症の薬を飲んでいて、
それは粉薬でもうぐいす色でもないけれども、薬を飲む度に、この俳句が頭に浮ぶ。

そういえば、今年はまだ梅の花を見ていない。

今年初めて見た梅の花は、昨日見物した国立劇場の文楽初日、
『摂州合邦辻』の「万代池の段」の、天王寺の白梅となってしまった。
続けて見た、『熊谷陣屋』では桜の花。

そのあと、曇り空の下、神保町に寄り道して、とあるお店で久保田万太郎の本を眺めた。
車谷弘の装幀した『流寓抄』を初めて見た。川口松太郎宛に署名がしてあった。

筑摩書房の「明治の文学」、饗庭篁村の発売はまだかなあと、
2月に入ってからというもの、毎日のように本屋に足を踏み入れては探している。
饗庭篁村を早く読みたくて、待ち遠しくてムズムズしている。





  

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