鋼の魂

 

一人になってからまだ、わずか数分しか経っていなったが、ウォルスには何時間も経っているように思えた、元々自分は深く考えるのが好きではなく、ましてや依頼とは言え他人に深入りするのは苦手だった。

「マニュアルどうりにこなせば・・・へたなトラブルも起こさない、依頼主だって依頼どうりに事を進めれば文句は言えない・・・はず。」

しかし、モンタギューの一言、エステルの一言、自分の真ん中に何かが引っかかっていた。

「つまらない・・・・なにがだよ・・・。」

みょうにイライラして叫びたい衝動にかられた、と、その時、腰に下げていた通信器が鳴り響いた。

『聞こえるかい?ウォルスちゃん、みっけたぜ、ウルトだ。』

同時にウォルスの持っていた携帯用の端末にその場所が送られてきた。

『はよこい、以上っ!。』

通信が途絶える、ウォルスは端末が示した場所に走り出した。

時間が止まったかのように静まり返った研究施設の一角、エステルとウルトは一定の距離を保ちつつ対時していた。

「ワタシニ・・・カマワナイデ。」

「そ〜もいかないってねぇ、ま、これがぼくのお仕事ってね!!。」

エステルはウルトに捕縛用の鋼糸を打ち込む、しかし。

「・・・おいおい・・・。」

ウルトは『消えた』避けたのではなく鋼糸が巻き付く瞬間に消えたのだ、そして少し離れたところにまた姿を現した。

「・・・・ハカセ、エルノア。」

ウルトがそうつぶやいた時、エステルの後ろから二人が駆けてきた。

「やっと見つけたよ、ウルト、さあ、一緒に帰ろう。」

モンタギューが手を差し伸べる。

「・・・・・・イヤ。」

ウルトはあとずさりをしながら三人から離れていく。

「オネエサマ・・・・・・?」

ウルトはエルノアの声を聞くと、さっきまでの物静かな不陰気からは想像できないような激しい口調で言い放つ。

「何デアナタハ自由ニ外ノ世界ニ出ラレルノ!!何デ私ハイツモイツモ狭イ研究所ノ中ニ居ナクテハイケナイノ!!私ハ・・・私ハアナタミタイニ自由ニナリタイノ!!。」

そう言うとウルトは施設の奥に逃げるように走り出した。

「待つんだ!ウルト!。」

その声と同時にエルノアとエステルがウルトに飛びかかった、が、先ほどのように消え、少し先に現れ走り逃げた。

「え・・・?オネエサマ?。」

「なんだかしんねーけどさあ・・・消えるんだよ、天才君。」

モンタギューは今のウルトを見て何か考えた後、ウルトの消えた方向へ走り出した。

「博士、援護しますぅ。」

エルノアもそれに続く、と、ウォルスも遅れて走ってきた。

「ウルトは?!。」

ウォルスの問に走り去っていくモンタギュー達を指さすエステル、しかし本人は追う気が無いらしく、その場に落ち着いている。

「エステル?」

エステルはウォルスに『先にいけ』と、ジェスチャーをした。

 

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