第2章『戦い続けるのにもってこいの理由』
4.<いつかそこまで>

竜化したオーウェン、もうすでに『それ』は人としての意識を持たず、ドス黒い殺気をツキヤに向けていた。

「・・・・・来る!!。」

魔竜は大きな翼を広げ雄叫びを上げると同時にツキヤに飛びかかってきた、その牙はツキヤの喉元を正確に狙ってきた。
「クッ!オオオオオ!!!。」

その攻撃を紙一重でいなす、魔竜の牙で剣が削れ火花が散る、その魔竜の攻撃はツキヤの『経験』から来る『予想』よりも遥かに激しく、強いものだった。

「(竜堕しは魔力のキャパシティに比例して強さが決まる・・・か。)」

魔導士としては、かなり『位』の高いオーウェンの『骸』を元に成る魔竜、それは『今のツキヤ』には手に余るほどやっかいな相手だった。

その時、ツキヤの戦いをカチュアの作った結界の中でまばたきもせず見ていたアナが、その中から飛び出そうとした、慌ててカチュアがアナの腕を掴む。

「だめだよ!アナ!ツキさんがやっつけてくれるから・・・・無茶な事しないで・・・。」

必死に戦いの中に身を投じようとするアナを止めるカチュア、しかしアナは無言でその手を優しく解く。

「ごめん・・・でも、オレが決着付けないと・・・・それに。」

アナが再びツキヤに目を向ける。

「追いかけるしかない『夢だった人』、背中しか想像出来ないはずの人と、剣を共にして戦えるなんて・・・きっと『今』しかないから・・・。」

カチュアが驚きの表情を浮かべる。

「紅尖鋼の大剣、黒髪の剣士、あの人は・・・『ツキヤ・サクライ』だ。」

カチュアはもう一度アナの腕を掴もうとした、しかし、それをためらうとその手で『印』を組み、呪文を唱えた。

「・・・大イナル英霊ノ加護ト親愛ナル精霊の守護を君ニ・・・エルシーヴ・セフス(五守精契印)!!。」

キラキラとカチュアの両手が輝き出す、そして、その手でアナに触れた。

「カチュア・・・・・。」

アナは体が幾分『軽くなる』のを感じた、と、同時に力が沸き上がってくる。

「わたしには・・・・これくらいしか出来ないから・・・・がんばって・・アナ。」

うつむき、肩を震わせながら、カチュアが『ポン』とアナの背中を押した、アナは一度だけ振り返り結界を飛び出した、カチュアはアナの背中を目で追い、つぶやく。

「・・・そうやって・・遠くへ・・・わたしの手の届かない『場所に』いっちゃうんだね・・・・アナ・・・。」

攻撃を切り返して魔竜の腹に一撃、思いきり振り抜くもツキヤの攻撃は堅い鱗に阻まれる、魔竜はそのまま首を捻りまたもツキヤの首筋を狙ってくる。

「このおぉ!!。」

その大口をあけた魔竜の首を一閃、アナの渾身の一振りが弾く。

「アナ!なんで出てきた!?。」

怒るというよりは、この『化け物』をまのあたりにし、なお戦おうとするアナにツキヤは驚く。

「大丈夫・・・・ツキ、ついていけるから・・・。」

アナは魔竜から目を離すことなく構える、ツキヤはカチュアの方に振り返り、目で何かを語りかけた、そして、カチュアもそれにうなずく。

「じゃあ、二人で・・・化け物退治とシャレこむか!。」

二人が同時に左右から切り込む、魔竜は目標が増えたのに躊躇し、堅い鱗の守りで切られはしなかったものの、二人の剣圧に撃ち飛ばされた。

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