第2章『戦い続けるのにもってこいの理由』
4.<いつかそこまで>

間髪入れず剣撃を重ねていくアナ、オーウェンは魔法の盾でそれを防ぐのが精一杯だった、『パシィ!カキッ!』と金属と『見えない硬い力』がぶつかる音が辺りにこだまする。

「ガキがっ!調子に乗りおってぇ!!」

隙を見て『飛翔』の呪文で空中へ逃げるオーウェン、そのまま素早く攻撃に移ろうとした、それまでは優勢だったが、空中への攻撃手段を持たないアナ、状況は一変して不利になろうとしていた、しかし。

「なっ、『飛翔』が維持できないっ!!。」

吊っていた糸が切れたかのように重力の力に逆らうこと無く落下してきたオーウェン、地面にたたきつけられて悶えている、アナはツキヤ達の方へ目を向けた。

「カチュア・・・お前が『カウンタースペル(対抗呪文)』で『飛翔』を無効化したのか・・・。」

さっきまでツキヤの胸の中で脅えるように泣いていたカチュアから僅かな『魔導の流れ』をアナは感じた、壊れるくらいの悲しみの中でも自分を気遣うカチュアに感謝しながら剣先を地面に這いつくばっているオーウェンに向け、口を開いたた。

「あれだけ高い所から叩きつけられたんだ、もう戦えないだろう。」

『ビクッ』っとその言葉に反応するオーウェン、顔を上げると自分を見下ろすアナの姿、しばし睨みつけた後、力無く頭を落とす。

「勝負あったか・・・・ん?・・・!!!!。」

敗北を認めたかのようにうなだれたオーウェンから只ならぬ『気配』をツキヤは感じた。

「アナァ!!そいつから離れろぉ!!。」

アナはツキヤ達の場所まで飛び下がった、オーウェンがゆっくり立ち上がる、アナ、カチュアもその『異様な不陰気』を感じたのか息を殺し、その様子を見つめる、『それ』はツキヤが一年前、あの『大戦』で何度も感じた『感覚』。

「お前・・・なんでそこまでするっ!『人を捨てて』まですべきことなのかっ!?。」

アナとカチュアにはツキヤの発した言葉、オーウェンがこれからしようとする事、両方とも理解できなかった、しかし、自分達の『理解の範疇』を超えた事が起こる確信はあった、それはツキヤが二人に『人外の業』を見せた時と似た感覚、しかし『それ』はそんな『透き通った力』では無く、深く暗い『澱んだ感覚』だった。

「あの時も・・・。」

オーウェンがうつむいたまま口を開く、ツキヤは二人を自分の後ろに下がらせた。

「あの時もその哀れみの目でわしを・・・オーレイノ、ミオドラグ、またわしを・・・みるのか・・・。」

オーウェンは、アナ、カチュアを通し、別の何かを見ていた、無論三人には、それを理解できる訳でも無し、しかし、『黒い何か』はしだいに大きく膨らんでいく。

「オーレイノ・・・ミオ・・・ドッ・・ゴ・・グォッ!!ヴオォォォォォォォォッ!!!。」

人とは思えない声を上げたかと思うとオーウェンの身体が膨らみはじめた。

「チィッ!!カチュア!!闇、火、衝撃対抗の結界を張れ!こいつは・・・『魔竜の召還』だ!!。」

ツキヤがそう言うと同時に乳白色の光に三人が包まれた。

「まさか・・・・また再びお目に掛かるたぁな・・・。」

オーウェンの姿がみるみるうちに『変形』していく、赤黒くただれた肌、充血した目、醜悪な牙、身体自体も大きく膨らんでいく、そして漆黒の翼が生えた時、ツキヤの脳裏にあの『封印戦争』の記憶が甦る。

「自らの躯を触媒にし、自らに『竜魂』を堕とす術式・・・狂気の魔導・・・『魔竜の召還』・・・なぜだ?なぜそこまでする必要がある・・・?」

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