第2章『戦い続けるのにもってこいの理由』
3.<剣に詰め込んだ想い>
翌日の早朝から月夜の剣術指南が始まった、一通り準備運動を済ませたあと、月夜がアナに最初に教えたのは『素振り』だった。 「いいか?教えた通りにやるんだぞ。」 アナは小さく頷くと教えられた通りの『型』の素振りを始める、『それ』は日が真上に昇るまで続けられた、『単純な行為の繰り返し』しかしアナの瞳は一点の迷いもなく『この行為』から『何かを』得られると信じていた、そんなアナを見て月夜は微笑む。 「(俺はこんなに素直じゃなかったなぁ・・・・。)」 しばらくするとカチュアが『差し入れ』を持ってきてくれたので月夜はアナに休憩の指示を出す、肩で息をするほど真剣に素振りを繰り返していたアナ、それを見て月夜は。 「ん、お前なら見せてもいいだろ。」 と、言い、アナの木剣を手に握る。 「いいか、アナ?これは俺の師匠の言葉だが『奥伝は初伝の先にのみ存在する』、つまり基本が大切ってわけだ。」 アナは月夜の言葉を真剣に聞いていた、その姿勢が月夜をヤル気にさせる。 「いまお前に教えたのは『ケサ』という基本の素振りだ。」 どんな生物でも体の中心線には『急所』が存在する、『ケサ』は人で言うなら右の肩口から左の腰まで切る『必ず急所を捕らえる』型の剣技である、逆もまたしかり、そしてこの『ケサ』にはもう一つ利点がある。 「ケサはほとんどの人間が自分の最速の『振り』ができる型なんだ、そして最速と言う奥伝を求め続けた先には・・・・。」 月夜の雰囲気が変わる、アナやカチュアでも解るぐらいに集中している、これから見せる月夜の『業(ワザ)』は二人の『自分の中のカベ』『人の限界の想像』を打ち破るに十分だった。 「見てろよ・・・アナ・・・。」 その瞬間、月夜の両腕は消え、コゲ臭い匂いとともに三人の目の前にそびえ立っていた巨木が音を立てて倒れ、その地響きの後には不思議な余韻が残る。 「ふぅ・・・・アナ、最速の『剣技』には木剣も鋼の剣もかんけ〜ねぇ、覚えとけよ。」 アナは言葉さえ失いただ震えていた、可能性の確信と同時に形作られた自分の目指す『業』に。 「ツキ・・・・俺・・・。」 目の前の事についてうまく喋れないアナとカチュアを月夜は大声で笑った後、自分の倒した巨木の幹を手のひらで『ぽん』と叩き。 「ま、しばらくは薪には苦労しねぇよな。」 と、冗談混じりに言った。 |