第2章『戦い続けるのにもってこいの理由』
2.<英雄候補>

「おおっと、置いてかれちまいそうだっと・・。」

その村は、いや、『集落』といった方が正しいか、建物らしい建物は無く、簡単な手製と取れる『テント』の様な物が立ち並んでいた。

「ツキ、こっち、ここだよ。」

アナがその中の一つの入り口と思われる所から手招きをしている。

「お・・・・おう。」

『テント』の中は案外広かった、カチュアが『ここへどうぞ』と、イスを指す、月夜はそれに答え、指されたイスに腰を掛ける。

「ヘヘ・・・みたとうりだからさ、気楽にしてよ。」

そう言ってアナは飲物を用意し始める。

「あたし・・・・お水汲んでくるね。」

カメの中はカラだった・・・・・。

「あ、俺もいくよ、カチュア。」

アナはついていこうとした、しかし、カチュアは首を横に振る。

「お客様・・・一人にしちゃ・・だめだよ。」

どうやら性格とはうらはらにイニシアチブはカチュアにあるようだ、水汲み用のカメを持ってカチュアが出ていく。

「良い娘じゃん、おい、若奥様ってか?。」

月夜が冗談交じりでアナをつつく、しかし、この言葉がアナの『瞳の理由』を知るきっかけとなる。

「うん、ほんとに、何時もそばにいてくれて、俺の一番大切な人なんだ、カチュアは。」

正直、月夜はおどろいていた、普通、この位の子供の時は、いくら好きでもそれを『否定』してしまうものである。

「あいつ、カチュアってさ、無口だし、すぐ顔を赤くしたり、ちょっとの事で泣いたりするけど、でも・・俺なんかより、ずっと『強い』んだ。」

月夜は静かに、心までも静にして、アナの話を聞く。「俺の父上は、辺境警備隊の『騎士』だったんだ。」

一年半前、『ヒクノ消失事件』の際、国境付近を警備していた

アナの父は難を逃れ、その後ハーヴベルヌが召集した『義勇軍』に参加したという。

「皇国は自国だけで無く、ヒクノの、いや、この大陸に生きる全ての人々の為に戦ってるって、そう言って父上は『生徒院』時代の学友とジアゼル進行に参加したんだ。」

その戦いでうけた傷がもとで、終戦より三ヶ月後に亡くなった、なによりも誰よりも尊敬してた父親を亡くしてアナは。

「ずっと泣いてた、情けないけどさ、泣いてたんだ。」

そんなアナの側にいて、言葉無く励まし続けたのがカチュアだった。

「泣きっぱなしの俺の側にずっといてくれたんだ、あいつだって、きっと俺以上に悲しい思いをしてたのに。」

カチュアは目の前で両親を殺されていたという、それも『敵』たる『ジアゼル軍』では無く、王を亡くし、物取り、盗賊となり果てた『ヒクノの騎士』にである。

「(それで・・・・あの『瞳』か・・・。)」

月夜はアナが木剣を振る理由、強くなりたい理由が『半分』くらい解ってきた。

1ページ戻る    序章へ