第1章『大空を舞うにはもってこいの風』
3.<繰り返す蒼き時>

「ふむ・・・よっこらせっ。」

ふいにディライトがソニアを自分の膝の上に持ち上げ座らせた、その行動にソニアは少しとまどいつつも、見上げるように父親の目を見つめ、次の言葉を待った。

「少し・・・・昔の話になる、お前の母親、セフィの話だ。」

母親の話、ソニアには物心つくまえ亡くなった母親がいた。
 

ディライトから聞く母親は、明るく、強く、勇敢で、そして優しい女性だったと、、、、、。
 

しかし、その話は小さなころから子守歌替わりに幾度となく聞いていた話だった、いまさら改まって話す話だろうか?
 

しかしソニアが聞いたのはいつもと少しちがう『思い出』だった。

「あいつは、お前位の歳には、すでに俺たち『聖騎士団』と前線に出ててな・・・・。」

それはソニアの母親ではなく、一人の少女の物語、いつ、何時も闘いの最前線に立ち『光の歌姫』と呼ばれ、その歌うような呪文の詠唱は幾度となくヴィレオの騎士たちを救い、励ましてきたという、自分の知らないその『少女』の話を、ソニアはただ、だまって聞いていた。

「ま、そのころから、おさななじみって事もあって俺とセフィはよく一緒にいてよ、ある時俺は、あいつに聞いたんだ、なんでこんな危険な場所に皇族のお前がわざわさ出てくるんだ?ってな。」

そして、ディライトは大きくため息をつき決心したかのように話の続きを待つソニアに言った、セフィがディライトに伝えた気持ちが再びソニアの瞳に光を灯した。

「『余には戦う力も覚悟もある、だからこうして大切な人といられる、貴方が危険と言ったこの戦場も余にとってみれば、自分のあるべき場所なのじゃ』ってな。」

ソニアが考えもしなかった、いや、皇族として『選択してはいけない答』を自分の母親は同じ位の歳に出していた、そして、ソニアもまたその答を導きつつあった、ディライトは『やっぱりな』といった、少し寂しげな顔をすると『膝の上の小さな姫君』を優しく抱き締めた、それは彼なりの『子供離れ』だった。

「父皇・・・・お父様、余は、サジェスと共に行きたい、サジェスにも、皇国にも迷惑をかけるけど・・・。」

ディライトはその言葉を待っていた、父として寂しくない訳がない、しかし母親の温もりもほとんどしらずに育った娘に幸せになってほしかった、そして、自分でも無意識の内に皇国の姫として縛り続けてきたソニアへの償いでもあった。

「サジェスが、お前のことを、どう思ってるかは知らないが・・・・。」

ディライトはちょっと意地悪まじりでそういうとソニアに古ぼけた鍵を手渡した。

「これは・・・?」

「これってまさか・・・。」

それは亡くなって以来たまに使用人が掃除をするときくらいしか開いているのを見たことがない母、セフィのへやの鍵だった。

「あいつの部屋に『ライトニング・ロッド』と『聖皇の双剣』がある、もってけ、あいつが使ってた物だ。」

ディライトはそう言ってもう一度ソニアを優しく抱く。

「お父様・・・・・。」

ソニアはそれ以上言葉にできなかった、、、、、、。

ソニアを膝の上から降ろし部屋を後にしようとするディライト、何か言いたげなソニアをみて、最後に。

「つぎに皇国に戻ってくるときにゃ、少しでも成長してるといいなあ!。」

と言ってソニアの胸を指さした。

「ちっ・・・・父皇どのっ!!!!!!。」

ディライトに手元にあったクッションをなげつけるソニア、いつもの娘に戻ったのを確信したかのように、逃げるように部屋を出ていった。

「お父様・・・ありがとう。」

そうつぶやくとソニアは母の部屋の鍵をにぎりしめ、天窓に広がる星空を見上げた。

「もう迷わぬ、たとえ今は思われていなくとも、きっと振り向かせてみせるっ。」

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