「ミヤビの言った通りだ、勝負は一瞬、つか勝負にもならねぇ、多分エステルは剣士としてサジェスのプライドをズタズタにした後、魔導師として最強の一撃をくれてやるつもりだろうさ。」
月夜が言い終わったと同時に『それ』は始まった、『ドン!』と花火が空気を叩いたときのような音が響くと同時に森の木々が『バキバキ』と音を立て一直線に倒れていく。
「ふふ、組ませてももらえなかったみたいね、サジェスは。」
カッツェは暫く呆けていたが、その惨状に我を取り戻すと関を切ったようにどちらに語りかける訳でもなく口を開いた。
「なんだあれは!組ませてもらえなかったって、剣撃の威力なのか?あれは!あれでは・・・戦いにもならない。」
殺し合いでもないのに『絶対の絶望』があの場所にあった、少なくともカッツェにはそう感じた。
「いいんだよ、あれで、あれが互いの正解なんだ、終わったら『終わり』、そういう約束だ。」
そっけなく無感動に、少しふてくされたように月夜が口を開く、カッツェはそれ以上言葉を発する事は無かった、その時、数名の男女が階段のあるほうから歩み寄ってきた。
「あ〜!ツキヤ・サクライ!!。」
月夜は振り返ると同時に強烈なタックルを喰らった、腰に抱きついたつもりなのは『ミィ』だった、『皇覧式武会』以来、不思議と自分になついてくる少女、正確には自分とエステルにだが、少女といっても学塔は違えど同学年なのだが。
「ぐふ、油断したか、やるなミィ、ん?『錬金学塔』ご一行様と・・・グディ、か、なんだ、ハーレム状態だなお前、故郷の片思いの君に密告すっぞ。」
グティは苦笑して月夜に切り返した。
「お前こそ両手に華じゃないか、もてるな、お互い。」
「ああ、『薔薇』と『ドクダミ』だ、イカスだ・・・ゴッフ!。」
ミヤビの肘がみぞおちに収まる、グティはこれ以上この話を広げない方が賢明と判断した、その後ろから二人、『マリア』『レラ』も、カッツェに会釈すると会話に参加する。
「ジョゼ教官に聞いて来たのですが、もう勝負は付いてしまいましたか?。」
ころころと柔らかな笑みを浮かべてマリアが先に来ていた三人に尋ねた、それとは対照的に。
「まったく、サジェス様も常識がありませんわ、執行部もそう、男女の『決闘』を受理するなんて、何を考えていますのやら。」
明らかにレラは不機嫌だった、不機嫌オーラが色付きで見えるのではないかという位に苛立っていた。
「エステルさんも、淑女としてもっと優雅に事を進めればよいものを、『六聖の加護』が嘆いてますわ。」
どうにも収まらないレラを、マリアが後ろから抱きつくように諌める、一同苦笑しつつもう一度森の方向に目を向ける。
「ツキヤ〜、もう終わったんでしょ?。」
ミィが上目使いに尋ねる、『ん・・・』と月夜が漏らした後、カッツェが口を開く。
「ああ、見ていた者なら理解できる、戦闘不能状態でも不自然、何らかの後遺症が残るほどの『力の行使』だった。」
後から来た女性陣は口をつぐんだ、しかしグディは冷静に言い放った。
「次の一撃、ヴィドゥ卿は耐え切れると思うか?ミヤビ、ツキヤ?。」
『え?』といった同一の思考が重なった。
「・・・・・どの道、アイツしだいさ。」
場の空気が一気に硬直した、『解っている』グティとミヤビは冷や汗さえかいている、しばしの沈黙の後、『バン!』と大きな音を立てて階段への扉が開いた。
「ぜぇ・・ぜぇ・・・・・お、俺を置いて行くなんて・・いじめか・・・・・おまえ・・・ら。」
よほど急いで来たのだろう、リュークが言い終わると同時に力尽きた、一同脱力、その瞬間だった。
『!』
またも同一の思考、今度のは肌で感じる『攻撃意思』、それと同時に無尽蔵に膨れ上がる『魔力』、一同、三度森の『戦場』に振り向く、そこには目で確認できるほどの『黒い嵐』が稲妻をまとい、周囲の木々を削り砕いていた。
「くっ!!『求メルハ風見ノ銀翼・・・・・』。」
「『蒼天ヲ駆ルハ炎帝ノ早馬・・・・・』。」
「『式は四鬼、紙は神、現せ、空蝉たる幻影の・・・・・』。」
『錬金学塔』の三人、レラ、ミィ、ミヤビが一斉に呪文を詠唱する、術式と属性は違えど『高速移動系』の式だった。