少し昔の物語・ツキヤ

月夜は不機嫌そうに学塔内に広がる森を見つめていた、騎士学塔の屋上、昼時にもなると、騎士学塔の生徒達で賑わうこの場所も、放課後は人影もない、そんな場所にたたずんでいた。

「月夜。」

月夜はその呼びかけに振り返る、屋上へ上がる唯一の階段から二人の女の子が歩み寄ってくる。

「んだよ、暇人かお前等、こんな所に何の用だよ・・・。」

明らかに不機嫌な月夜に『やれやれ』といったジェスチャーを取り、黒髪の少女、ミヤビが口を開いた。

「歓迎にしては愛想のない・・・ま、フラレタ男の気持ちなど解らぬが、美人が二人も慰めに来てやったんだ、少しはいい顔をしたまえ。」

その言葉にもう一人の女の子、カッツェが驚く。

「何?君・・・誰かに告白・・・好きな子がいたのか・・・。」

そのあまりの驚きようにミヤビは『クスクス』と笑い、月夜の隣まで歩み寄る。

「カッツェもこっちに来なさいな、もうすぐ始まるわ。」

わけも解らぬままカッツェはミヤビと月夜を挟むように屋上の手すりに腕をかける、ミヤビは楽しそうに微笑むと月夜がここでふてくされている理由を語り始める。

「月夜はね、サジェスにフラレタのよ。」

「ええっ!?。」

いまだ不機嫌そうにしている月夜をよそに、ミヤビの言葉に驚きを隠さないカッツェ、ミヤビはその反応が楽しくて仕方ないといったように笑う、暫くそれを楽しんだあと少し真面目な顔をした。

「サジェスが執行部に格技模擬試合じゃなく『決闘』を申請したのよ、相手はエステル・エル・ラティよ、試合だと観戦が認められるから、二人きりでやるには、ね。」

その言葉にカッツェの表情からもさっきまでのやわらかさが消えた、月夜の不機嫌なわけも理解した、ただ。

「・・・・君もエステルも、なんでサジェスを意識する?我等の同期では上位の方だが、剣も『英雄の血族』と言うほどでもない未熟、私には理解できん。」

カッツェは今だそっぽを向いたように森を見下ろす月夜に尋ねた、その問いに月夜はけだるそうに口を開く。

「剣はグティやお前よりも未熟、魔法適性も最悪、抗魔力も人並み、ロストも『覚醒』のみ・・・・つうことをさしてか?。」

頷くカッツェ、月夜とエステルの非凡さは並みのものではなかった、皇国にさえこの二人にかなう者はいないと、本気でそう思っていた、故にカッツェから見たらただの良家の子息でしかないサジェスをこの二人が特別視するのが不思議で仕方なかった。

「まあ、とにかくサジェスはエステルを選んだのよ、気にかけてる人が自分を選ばなかった、不機嫌にもなるでしょ?。」

今だ月夜とは正反対に楽しそうなミヤビ、カッツェもその事は後回しにすることにし、本質を突く質問をした。

「サジェスはどうしてエステルと『決闘』なんかを?この戦いの意味は?。」

「自分の今を知るため、知った上で二人に追いつくため、理由は知らないけれど彼は強くならなくてはならないようだ。」

カッツェの問いに簡潔に答えるミヤビ。

「では、なぜエステルなのですか?。」

「月夜が甘いからよ、エステルはサジェスが臨めば彼の道を絶つことも出来る、月夜にはそれが出来ない。」

月夜が明らかに何か言いたげだったが口を挟まないのは、ミヤビの言い方はどうであれ的を得ているからであろう、ミヤビは少し意地悪な顔をして月夜を見たあと質問の答えを続けた。

「サジェスも解ってるのよ、荒療治が必要な事を、エステルは空の器を満たすための『きっかけ』、手加減しないわよ〜あの娘は。」

カッツェは全てを納得したわけではない様子で首をかしげている。

「とにかく、暫くしたらね、解るわ。」

そう言ってミヤビは月夜の方を向き、楽しそうに微笑む、月夜は『しかたねぇな』と口を動かすと。

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