正直、ツキヤ達の他に、カッツェと行動を共にする者はいない、『嫌われ者』というより『恐怖』にも近い感情が他の生徒にはあった、ジアゼルの悪名は大陸ではそれ程高い者だった、現に皇国とも間接的にだが何度も戦争を繰り返した歴史の事実がある。
「お前さあ、何のために皇国に来たんだよ、変えたいって言っただろう?自分の国をよ、そのために真面目に勉強して・・・・あ〜!!こんなちいせぇ事怖がってんなよ。」
ツキヤの言葉にすまなさそうに俯くカッツェ、その頭を『ぽんぽん』と優しく叩くグティ。
「大丈夫、俺たちがいるから、大丈夫・・・・・・お前はお前だって解ってるから。」
カッツェは『怖かった』少しづつ人に触れるようになり、友達もでき、本国では考えられないような穏やかな時間、幸せが大きくなるほどそれが壊れるのが怖かった、いや、それよりも自分と行動を共にしてくれるツキヤ達まで『嫌われ者』になるのではないかと、でも、結局は自分のこと、自分勝手な感情だった、甘えるのはけして悪い事ではない、甘えない事が裏切りになる事もある、友達に対しての。
「ん・・・・・・・・ふぅ、スマナイ、そうだな。」
そう呟くとカッツェは顔を上げもう一度頭を下げる。
「忘れてくれ、ツキヤ、グティ、明日は・・・いや、明日が楽しみだな。」
憑き物が取れたように微笑むカッツェ、『しかたねぇな』といった感じでまた二、三度頭を掻くツキヤ、満足そう二人の肩を叩くグティ、一段落ついた感じのそんな三人の後ろに明らかに重い空気を背負った者。
「ツキヤ・・・・・なんで俺は呼んでくれねえんだ・・・・・。」
「お、リューク、シンキクセェ顔をしてどうした?。」
ひょうひょうとその暗い気配をかわすツキヤにリュークが突っかかる。
「向こうはエステルだけじゃないって言ったな?言ったよな?つう事は最悪取り巻きの『ヴェスパイン』や『トアロゥ』のお嬢様方が来るんだろう?そうだろう?何で?何で俺を誘わない?この超絶美形の俺を、シットか?そうなのか?俺の婦女子を虜にする魔性のトークが気に入らないのか?俺が行ったら両手に花なのが見え見えだからか?おい!ツキヤ、そういうのは『親友』としてどうよ?!。」
ツキヤの襟を掴み興奮するリュークをカッツェとグティが宥める、が、ツキヤがそれに止めを刺す。
「お前よぉ、明日『兵法軍武』の補習だろう?俺らだって泣く泣く諦めたんだぜ?なあ、グティ?それによぉ・・・・。」
ツキヤがの顔が『悪い顔』になったのをカッツェは見逃さなかった。
「ミヤビや真祖の姫君・・・・マリア嬢もくるんだな、これが。」
その言葉と同時に逃げていくツキヤ、グティを振り払い憤慨しつつツキヤを追うリューク、それを目で追い、顔を見合わせた後、吹き出すグティとカッツェ。
「ククッ・・・・ふう、なあ、カッツェ。」
笑いをこらえながらグティが口を開いた。
「・・・・・楽しいなぁ、毎日さ、きっといい思い出になるよ、この毎日が、さ。」
カッツェが『コクリ』と頷き微笑む、そして二人もツキヤ達を追いかけた、学塔の真っ白な廊下に駆け足の音が響いていった。