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P-G帰還 | 超3極管接続 | 本機の回路 | 製作と調整 | 特性と音質


超3極管接続 16A8 シングル ステレオ パワーアンプ


半導体回路の洗礼を受けた者が作る真空管アンプは、どうしても半導体回路の知識を生かすための対象と化すようで、真空管アンプのエンスーに宗旨変えすることなど到底できそうもありません。

私は無信心なせいか、真空管アンプの回路研究に半導体を使ったり、真空管アンプに平気で半導体を取り入れたりしますが、半導体とか真空管とかに関係なく、それぞれの個性的な持ち味の違いは大切にしているつもりです。

真空管でも、とりわけ3極管は定電圧出力素子であり、入力電圧に応じた出力電圧が得られる特徴を持ち、このことが無帰還で最もシンプルなパワーアンプを可能にします。

こうしたアンプは個々の真空管の素性が音質に現れて、音の差異を楽しめますが、このレベルでは満たされない部分も多く、思い入れ無しには使えないアンプも少なくありません。

しかしそこでNFBを掛けると、途端に音が均質化してしまいます。

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P-G帰還

電蓄時代のNFBは図1に示すように、出力管のプレートーグリッド間に帰還抵抗Rf を接続したP‐G帰還回路でした。

[図1] P-G帰還の例zu1.gif (5101 バイト)

この方式は帰還量を増やすためにRf を低くするとドライブ段の負荷インピーダンスが抵下し、また出力段の負荷インピーダンスの変化でドライブ段の負荷インピーダンスが変化するため、ドライブ段のゲインが不足したり歪が増すために使われなくなったようです。

[図2] P-G帰還の等価回路zu2.gif (3750 バイト)

図2に示すようにP‐G帰還回路は、OPアンプの反転増幅回路と等価であり、出力管のグリッドに相当する入力端子へ、ドライブ段から入力されるドライブ電流id は、Rf を通して出力端子へ流れ、
e。= -id ・Rf ( e。: 出力電圧 )の関係が保たれます。

故に、P‐G帰還回路を電流ドライブすると、100%電圧帰還の反転増幅回路となります。

100%電圧帰還の出力インピーダンスZoはカソードフオロアー回路と同じく、
Zo≒ rp /μ =1/gmです。

この回路を応用したアイデアを図3に示しておきます。

[図3] 100%P-G帰還の応用回路

( a ) 直結ドライブ

zu3a.gif (3729 バイト) 

( c ) SEPP回路

zu3c.gif (5768 バイト)

 

( b ) トランスドライブ

zu3b.gif (3088 バイト)

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超3極管接続

[図4] 超3極管接続の基本回路zu4.gif (5554 バイト)

図4に示すにように、電流ドライブP‐G帰還回路のRf を電圧出力素子である3極管V1に置き換え、V1のグリッド-カソード間に信号電圧ed を与えた場合、V1μμ1として、この回路の増幅率μsは、
μs≒μ1 であり、
出力管V2gmgm2とすると、この回路の内部抵抗rpsは、
rps≒1/gm2であり、
この回路の相互コンダクタンスgms
gms≒μ1gm2となります。

すなわち、この回路接続はV1の3極管特性がV2で純粋培養されて実在の3極管を超えた3極管特性となる「超3極管接続」です。

帰還素子が3極管であるため、その味わい豊かな素性が生かされ、音を均質化しない所に大きな意味があるのです。

V1が電圧増幅、V2が電流増幅と、機能分担しているため、V1Eg - Ep 特性の直線性が良い球を、V2gmが高く効率の良い球をと、適材適所に選択できます。

信号の入力は、V1のカソードが高インピーダンスでアースから浮いているため、図5に示すようにトランス結合とするか、V1のカソード電流にドライブ電流id を重ね、Rd に発生する電圧ed をV1の入力とする方法が考えられます。

[図5] 超3極管接続のドライブ方法

( a ) トランスドライブ方式

zu5.gif (3044 バイト)

( b ) 電流ドライブ方式

zu5b.gif (2861 バイト)

超3極管接続は内部抵抗が極めて低くなるため、電源電圧のわずかな変動でもV2のプレート電流が大きく変化します。

固定バイアスで使う場合は、プレート電源と第2グリッド電源とヒーター電源の安定化が不可欠で、トラブルの発生に備えて保護回路も必要になります。

従ってV2の動作点を安定化するためのDC帰還ループを持つ自己バイアス方式とした方が回路を簡単にできます。

V1rpは低いほど高域特性と歪みの点で優利となり、μは高いほどドライブが楽になります。

V2の動作はV1で制御されてますが、V2の特性が変化するものではありませんから、最大効率を得るための動作点や負荷インピーダンスは通常の回路と同様です。

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本機の回路

超3極管接続の威力を簡単に体験できるように、真空管に16A8を使い、A級シングル動作のパワーアンプを作って見ました。

16A8の規格を表1に示します。

[表1] 16A8の規格

16A8同等管

16A8pin.gif (5135 バイト)

アメリカ名

欧州名

ヒーター規格

6BM8

ECL82/6LP12/6PL12

6.3V×0.78A

8B8

XCL82/8R-HP1

8.2V×0.6A

10BM8

YCL82

   

11BM8

LCL82

10.7V×0.45A

16A8

PCL82/LN309/N369/30PL12

16V×0.3A

32A8

 

32V×0.15A

50BM8

UCL82/LN119/10PL12

50V×0.1A

 

最大規格

Eb(V)

Ec2(V)

Pp(W)

Pc2(W)

IK(mA)

Rg(MΩ)

EH-K(V)

6BM8

3極部

300

1

15

1

±100

    

5極部

600

300

7

1.8

50

1

±100

16A8

3極部

250

1

15

1

±200

 

5極部

500

250

7

1.8

50

1

±200

 

代表的動作例

Eb
(V)

Ec2
(V)

Ec1
(V)

Ib
(mA)

Ib sig
(mA)

Ic2
(mA)

Ic2 sig
(mA)

Esig
(rmsV)

rp
(kΩ)

gm
(μS)

μ

RL
(kΩ)

Po
(W)

K.F
%

3極部

100

   

3.5

         

2500

70

     

5極部

200

200

-16

35

36

7

16.6

6.6

2

6400

 

5.6

3.5

10

この球は東京オリンピックの1960年初め頃、主に松下電器のトランスレス白黒テレビに垂直発振偏向出力管、音声増幅出力管として、1台に2本の割りで使われていました。

本機に使った球はその廃品になったテレビから抜いて保存しておいた松下製で、30年の時を経た今、本来の用途ではまったく居場所をなくしましたが、これからは使い捨てられることのないオーディオアンプで、いつまでも輝かせてやりたいと思います。

16A8はヒーター電圧6.3Vの6BM8と同じ特性で、ヒーターの規格だけが16V、300mAとなっています。

電圧増幅用3極管と電力増幅用5極管の複合管ですから、超3極管接続には打ってつけです。

16A8を超3極管接続した時のEp-Ip特性の実測データを図6に示します。

     [図6] 16A8超3極管接続時のEp-Ip特性と測定回路

16A8超3極管接続Ep-Ip特性

zu6.gif (8446 バイト)

16A8超3極管接続Ep-Ip特性の測定回路

zu6b.gif (5011 バイト)


[図7] 本機の回路

( a ) アンプ回路 片チャンネル分

zu7a.gif (11401 バイト)


( b ) 電源回路 両チャンネル分

zu7b.gif (13647 バイト)

[表2] 使用した半導体素子の規格

TRpin.gif (5258 バイト)
 

最大定格

電気的特性

VGDS
(V)

IG
(mA)

PD
(mW)

TJ
(℃)

IGSS
(nA)

IDSS
(mA)

VP
(V)

gm
(mS)

Cis
(pF)

Crs
(pF)

2SJ103

-50

-10

300

125

1

-1.2 〜 -14

0.3〜 6

4

18

3.6

 

最大定格

電気的特性

VCE
(V)

IC
(mA)

PC
(mW)

TJ
(℃)

ICBO
(μA)

hFE

fT
(MHz)

Cob
(pF)

2SC1775A

120

50

300

150

0.5

400 〜1200

200

1.6

2SC2551

300

100

400

150

0.1

90

80

3

2SD869

600

3.5A

50W (TC=25℃)

150

10

12

3

95

本機の回路は図7に示すように、真空管のアシスタント役でドライブ回路と電源回路に半導体を採用しました。

ドライブ回路では、適当な入力感度を得るための増幅と、動作点の設定、及び安定化と、歪みの打ち消しを行います。

ソース接地増幅動作をする Q1のドレイン電流は、Q2のカレントミラー回路に写し取られてV1のドライブ電流Id となります。

Q3による定電流回路は、Q1のソース電位を引き下げることで、Q1のドレイン電流を調整して、その結果としてV2のカソード電流Ik の設定をします。

Ikの安定化は、Q1のソースにIk Rkによる電圧Ekが掛けてあるため、仮に電源電圧が上昇した場合などでIkが増加すると、Ekが増すので、Q1のドレイン電流が増えてId が増し、V1のグリッド-カソード間電圧に発生するドライブ電圧Edが増すことで、V1のプレート-カソード間電圧が増えます。
すると、V1はカソード側よりもプレート側の方が低い抵抗で接地しているため、V1のカソード側、イコールV2のグリッドの電位を下げるので、Ikの増加が押さえられて安定します。

V1とV2の電流の関係は、V2のプレート電流がカットオフする時にId が最大となり、逆にV2が飽和する時にId が最少となります。
この様にV1とV2の電流変化が逆向きで打ち消し合うため、Id が多いと最大出力の減少となります。
Id は、Id =Ep /μ1Rd で決まるためドライブ抵抗Rd で調整します。

図6の特性にも見られる通りEgが深いほどEpの変化量が小さくなり2次歪みを発生するため、これを打ち消すための逆相の歪をQ1で作ってやります。
Q1の2乗特性による2次歪みを電流帰還抵抗Rsで適度に調整すると、図8に示す通り歪みの打ち消しができます。

[図8] Rsによる歪みの変化
( a ) Rs過大
zu8a.gif (1661 バイト)
( b ) Rs適当
zu8b.gif (1555 バイト)
( c ) Rs過小
zu8c.gif (1726 バイト)

Q1のgmが高いほど、Rsは低い値で歪みの打ち消しができ、RdRs の比が大きいほどドライブ回路の電圧ゲインが上がるため、この点で、高gm FETは優利ですが、入力容量が大きいのが難点です。
本機ではQ1に低gmの2SJl03 (BL) ldss 7mAを使用しました。
本機はldssが大きくgmの低い、従ってピンチオフ電圧の大きいFETに向いた設計としてあります。

Q2とQ3はローノイズ小信号用のCobが小さくhfeが高い2SC1775A(E)が適しています。

V2の動作点は表1の代表的動作例に準拠しております。

出力トランスはタンゴU-608ですが、素直に5kΩと8Ωの端子を使用せずに、1次側は2.5kΩを使い、2次側は4Ωの端子に8Ωのスピーカを接続することで、1次側インピーダンスが5kΩとなるようにして使用しています。
こうすると、トランスの巻線抵抗が減るためにD.Fが向上します。
一方で、インダクタンスが減り、高域は伸びても低域は出にくくなるはずですが、アンプの低い内部抵抗で出力トランスを強力にドライブするために、意外なほど低域は出てくれます。

電源トランスは、真空管アンプ用としてはB電源電圧に適当なものが無くて、手元にあったTrプリ用の電源トランスで山水 RC‐03を流用しました。
2次側から90V0.3Aが取り出せるため、倍電圧整流することで適当な電圧が得られました。

B電源にリップル電圧があると、アンプの内部抵抗が低いために、出力へもろにノイズとなって発生しますから、完全に取り除かねばなりません。
これには、チョークコイルと電解コンデンサーを使うよりも、Trによるリップルフィルター回路の方が低コストで省スペースです。

リップルフィルター回路のQ4,Q5VCBO 300V以上で、Q4はPc 50W以上のパワーTrを、Q5は小電流用Trを用います。
これらは、資源を大切にするために廃品のテレビの基板から頂戴したリサイクルパーツです。

低電流ダイオードE152は、1本では耐電圧が足りないため、2本を直列にして使用しました。

ヒーター電源のトランスは、16V 1AのS.E.L SP‐161です。

-C電源はヒーター電源の電圧を倍電圧整流して得ました。
-C電源回路のLEDは、Q3による定電流回路の基準電圧を得るためのもので、赤色の小型なものでOKです。

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製作と調整

シャシーは、A5サイズのり一ドS‐7がピッタリ合います。

ドライブ回路の配線に基板を使いました。

電源回路の1L6Pラグ板は、絶縁スペーサーでシャシーから浮かせてあります。

Q4はマイカ板で絶縁し、アルミアングルに取り付けてシャシーに放熱するようにしてあります。

調整は、まず球を挿さずに電源を入れ、各電源に異状が無いかチェックして、Ik 調整用のVR2で、2SJ103のドレイン側5.6kΩ両端の電圧を最大にしておきます。

次に電源を一旦切り、球を1本挿して、Ekを観測するための電圧計をRkの両端につないでから電源を入れます。

Ekが1Vを越える場合は、どこかに不具合がありますから、電源を直ちに切らないと球がボケてしまいます。
Ekが1V以内であるならば、VR2を調整してEkを1Vにします。この時のIk は約42mAとなります。

電源を一旦切り、2本目の球を挿して電圧計をつなぎ電源を入れて同様に調整します。
2本目の球に電流が流れることでB電圧が少し下がるために、先に調整した球のEkが下がりますから、2本の球の調整を交互に行う必要があります。
この調整が完了すれば、音出しすることができます。

B電圧が210Vに対し± 5%の範囲にない場合は、160kΩ増減するか定電流ダイオードE152を換えて調整します。
B電圧を変えたら、Ekの再調整が必要になります。

歪率計とオッシロスコープが使えるなら、歪波形を観測しながらRs を調整して、歪率を最少にすることができます。その際、Rs を変えるとEkが変わるので、VR2の調整も同時に行う必要があります。

負荷インピーダンスの値は、出力波形のクリップが上下同時に起こるように設定できれば最適ですが、本機のような自己バイアス方式の連続フルパワーの時は、自己制御作用でバイアスが深くなりますから、上が先にクリップするくらいが適当と思われます。

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特性と音質

[図9] 入出力特性

zu9.gif (8293 バイト)

[図10] 周波数特性

zu10.gif (18433 バイト)

[図11] 歪率特性

zu11.gif (10277 バイト)

図9に入出力特性を、図10に周波数特性とダンピングファクター特性を、図11に歪み率特性を示します。

写真1〜3に方形波入力による出力波形を示します。

phot1-3.jpg (27927 バイト)

ノンクリップの最大出力は2Wと小さく、再生帯域も狭いので、高能率フルレンジスピーカーとの組み合せが適当と思います。

タンピングファクター値は9と、管球シングルアンプにしては高く、内部抵抗がいかに低いかをうかがい知ることができます。
しかし更に内部抵抗を下げることができても、出力トランスによるロスが減らない限り タンピングファクターの飛躍的向上は望めず限界を感じます。

出力トランスのコアポリュームが小さいため、低域は100Hzでも、正弦波の上下がクリップする前に、途中から崩れ出すため、歪率特性はひどいものです。

音質は聴き慣れたTrアンプよりダンピングファクターが低いせいか低域が膨らむのが不自然で、また歪が多いために、にぎやかな音です。
しかし、先入感無しに聴くならバランスの取れたまとまりの良い音なので、がなり高いポイントに評価できそうです。

入力から出力管まで直結なためもあると思いますが、低域の出方は他の管球アンプと一線を画しており、KT-88シングルや、5998パラPPアンプとの聴き較べでは、絶対的に出力が小さいにもかかわらず、遙かに力強く太い音がして、こんな小さな真空管アンプから出る音とは思えない驚きがありました。

3極管を超えた超3極管接続は、同時に真空管アンプを超えた超真空管アンプでした。

グレードアップを考えるなら、出力トランスをコアボリュームの大きな物にして、
真空管は低μで直線性の良い3極管と、6CA7の様な高gm管の組み合せに変え、さらにPP回路とすれば、2次歪も消せます。
また、トランス入力とするのも面白そうです。電源の電圧変動に影響されないように、定電流源を負荷とする手などいろいろと応用が考えられますが、まずは手近なパーツで超3極管接続アンプの音を体験して見て下さい。

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Copyright © 1997 Shinichi Kamijo. All rights reserved.
最終更新日: 01/02/18 09:53:45 +0900


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