< 051 > 初霜

今夜もキーンと冷え込んだ。

あぅ。。。にゃ。。
寝返りをうつ猫神様。しばらくしてムクッと起きる。

「さぶくて目が覚めちゃったにゃ。」

ん?子猫たちの声がしたよーな気がした。
がらがらっと戸を開けると子猫たちが隅っこでぷるぷるふるえてる。

「にゃ!さぶかったにゃろー、早く入るにゃ!」

子猫たちは外で寝てたんだけど、さぶくて猫神様のところにきたらしい。

「もしかして、ずっと鳴いてたのかにゃ?気付かなくてごめんにゃっ!ってあれ?」
子猫たちは猫神様のお布団に丸まってひっつきあっている。
「にゃんか冷えきってるみたいにゃね。ちょっと待っててにゃっ!」

ぴゅーっと台所へ行く猫神様。
お鍋にお水と冷や飯を入れて火にかけた。
「夜にゃし、柔らかめに煮るのにゃ〜」
ちょびっと残っていた大根を、葉っぱごと刻んで入れる。油あげと、干しクラクラ茸も入れた。

最後に味噌を入れて完成!

「猫おじやにゃ〜」
みんなではふはふしながらたびる。

空っぽのお椀を差し出す子猫たち。
おかわりにゃっ!

「にゃ、よーく噛むにゃよ。はい。」

ふぅ。体も暖まった。

子猫たちと猫神様、一緒のお布団に入って寝た。

にゃーみんなと一緒にゃとポカポカにゃね。

すぴすぴ寝息をたてて子猫たちが眠りについた。猫神様もいつの間にか眠っていた。

次の朝。境内が一面に白くキラキラと輝いていた。

子猫たち早速はしゃぎまわっている。

初霜の降りた日。 (あ)

< 052 >パンジー

トントントン!
トントントン、イテッ!

ふーふーっ。 ←親指吹いてる。

猫神様かなづち持って何やら作っている様子。

「出来た!子猫たちの猫玄関にゃ。」

猫神様、いつでも子猫たちが自由に本殿に出入りできるように小さな入口とドアを作っていたのにゃ。
今朝早くにドイトにいってドアにつける金具を買ってきたの。
「うーん、なんかちょっと味気ないにゃあ。。そーにゃ!」
宝物箱からマジックを出すと、小さなドアに子猫たちの絵を描いた。
「うん、これならかばいーにゃ!」

ドイトでもらってきた発泡スチロールに小さなお布団を入れて、子猫たちのベットも作った。

よーし終わり!

リヤカーに、ドイトでおまけにもらったパンジーが4つあった。

神社にお参りに来るひとが見えるところに植えよう。

猫神様お賽銭箱の手前に小さな花だんを作った。
猫手で土を掘ってパンジーを植えた。
小さな石で周りを囲ってできあがり。

てけてけてけっとあにゃこさんが遊びにきた。

「あにゃこさん見て見て!花だん作ったにゃの!」

「あ、かわいいぢゃん、でもさー、お賽銭入れられないよー」

「はにゃ!」

「ま、でもみんな横によけてくれるかなほい、おみあげ☆」
パンジーの見える場所にゴザを敷いて、二人であにゃこさんのおみあげの蒸し猫をたびたのでした。
あむあむ、蒸し猫美味しいにゃあ。あむあむ、パンジー綺麗にゃあ。 (あ)

< 053 >ハーモニカ

今日は御花畑駅前の居酒屋で,皿洗いのバイトだ。

裏口から入ってゆく。
「おはよーございますにゃ。」
「おー。 たまってるから頼むわ。」
皿とジョッキを一所懸命30分も洗うと,だいたい片付いた。
「ちょっと運んでくれるかな。 割増し付けとく。」
女の子がひとり休みらしい。

「しゃくし菜漬けと山芋の包み揚げ お待ちどうさま〜。」
「田舎蕎麦と中生はこちらですね。」
いい調子にゃー。

酔っ払いのグループにつかまった。
「この猫,いつか地場産センターの前で屋台引いてたぞ。」
「一杯飲めよ。」
「し,仕事中にゃし。」
酔っ払いの言うことは聞いとけ,と店長が目配せしている。
つがれたビールを飲むと「よーし,一曲歌え。」

えー。 どうしよう。
でも心を決めた猫神様は,ポシェットからハーモニカを取り出し猫口にあてた。

演奏しはじめたのたは ビリージョエルの ピアノマン だ。

箸をパタリと落とす人,ビール瓶を倒す人。 ハーモニカは朗々と轟々と哀しいカーニバルのように響く。

サビのところで,奥に座っていたおじさん達のグループが一緒に歌い始めた。
La la, de de da da da

Sing us a song, you're the piano man
Sing us a song tonight

曲が終わると,店長が猫神様の肩を叩いて言った。「俺がやりたかったのは,こんな店なんだよ。」

バイト代の封筒を大切にポシェットにしまうと,クラプトンのレイラを吹きながら神社に帰って行った。 (ま)

< 054 > 木の枝で工作

猫神様一人で境内で日向ぼっこ。

あにゃこさんが遊びに来た。

「ここなら綺麗な木の枝がいっぱい落ちてると思って。」

あにゃこさんいろいろな木の枝を拾い集めてる。

「あにゃこさん、これで何するのにゃ?」
「ふふ☆ひみつだよーん。」

「にゃっ!」

ひみつって言われてちょっとショック。「教えてほしーにゃ。」とつぶやく猫神様。
「ほいたら猫神様、猫耳かして」

ごにょごにょごにょ。

はー、そーにゃんだ。

社殿に新聞紙広げて、集めた枝を置いた。
あにゃこさんバックから木工ボンドを取り出すと、枝を組立て始めた。

「えへへ、工作得意なんだ!」

バックから今度は四角いものを取り出した。そこについてる長いコードの片っ方を猫神様の猫耳につっこむ。
「この曲、最近知ったの、すごく好きなんだ」

あにゃこさんがかけてくれたのは、そう、この前猫神様がハーモニカで吹いた『ピアノマン』だ。
「にゃ、ほいたら」猫神様、あにゃこさんにハーモニカでピアノマンを吹いてあげた。

「猫神様すごい!もう一回、もう一回!」

あにゃこさんは枝で工作。設計図も完成図もなし。枝ぶりにまかせて組んでいく。構想がぐんと広がっていく。
「木の枝にもいろんな色があるんだにゃ」猫神様は歌ったり、うたた寝したり。。
「出来た!」

端っこに小さな白い貝がらがついた小枝の葉書立てができた。
「二つ出来たから一コは猫神様にあげる」

午後は二人でお昼寝。今日もいー天気。 (あ)

< 055 > 河原にて

影森駅の辺りで,荒川は完全にSの字に曲がって,昔そのままの形をとどめているようだ。

ハモニカを持って猫神様がやってきた。 河原の尾花が日に透けて,煙が輝いているように見える。 川はSの字の途中からアイルランドにつながっている。

陽射しで温まった岩に座ると,バッハのフーガの技法 を吹き始めた。 バッハを演奏すると心がはっきりする。

4番のフーガまで演奏してちょっと休憩。

いきなり後ろから拍手が聞こえたので,びっくりして川に落ちる。 どぶん。 「つめたいにゃ溺れるにゃ海まで行くにゃ!」

ひゅんと糸が飛んできて,猫神様のポシェトにからみついた。 水を滴らせて,猫神様が釣り上げられた。

「男爵!」

男爵と,やせた背の高い牧師のような顔をした外人の人が立っていた。 猫神様を岸に上げると,ふたりは大急ぎで流木を集めて火を起こし,ジャガイモを焼いてくれた。

「はふはふ。 驚かせてごめんね。」(じゃがいも食べながら。)

この前,男爵の話す言葉を聴いて,パターンマッチングによる単語の分離と,単語の出現頻度は判っていた。 複数の人が具体的なオブジェクトについて会話すれば,分析できない言語はない。 そして,簡単なフレーズで発話し,その反応を聞くことにより,語彙と語法の分析は飛躍的に進む。

「はふはふ。 にゃ(英語)」 ←すこし簡単過ぎ!

「おお!君は英語が話せるんだね。」
「わたし,いま,えいご,はなす,にゃ。」 (じゃがいも一個目食べおわった。)

「レイラを作った人だよ。」
レイラのおじさんは,少し照れたように猫神様に手を差し出した。 猫手と握手する。 猫神様はラジオで聞いた曲を絶対音感で覚えているだけなので,曲名は知らない。

ギターケースからきれいに磨かれたギターを出すと,ぽつりぽつりと弾き始めた。 完全に調弦されたよく鳴るギターだ。

コードが進行する。 あれ? ゆっくりだけどあの曲だ。 ギターが少しひきずるようなリズムを刻み,猫神様が旋律を吹く。 リード・ハモニカだ。 おじさんがしゃがれた声で歌い始めた。 レイラ!

ギターで何かが起こった。 一本のギターからいっぺんにたくさんの音がする。 流星がはじけているようだ。 指の動きが見えない。

ミスター・スローハンド。 タカと同じにゃっ。(ちがう。 こっち元祖。)

合奏は楽しいのにゃ。

ぱちぱちぱちぱち。 男爵が立ち上がって拍手をすると,焼いたソーセージをくれた。 「河原でこんなセッションを聞いたなんて,誰も信じてくれないだろうな。」 (ま)

< 056 >マラソン 1

今日も寒い朝にゃ。落ち葉掃きしてると回覧板が回って来た。
『秩父っ子マラソン』

にゃ!

『マラソン後ほうとうのサービス付!みなさんの参加待ってます。』

参加するにゃ!ほうとうにゃ!

マラソン大会は一週間後だ。

一週間たった。

子猫たちも一緒に参加。
秩父の山の中をマラソン大会の矢印にしたがって走る。

「よーいドン!」
子猫たちいきなりぴゅーっと突っ走る!
「あにゃああ!は、早いにゃ!」

猫神様遅いけどてけてけマイペースで走る。
「はあはあ、みんなどこに行ったかにゃ?」

しばらくすると前方に丸い影が見えてきた。

子猫たちだ!みんなで仲良く丸くなってる。

「にゃー!みんなどーしたのにゃ、ぜはぜは」

猫神様疲れたにゃもん! 泣きべそだ。

「ほいたら猫予備肺使うのにゃ」 ←そーゆーものがあるらしい。

みんなでならんで走った。

猫神様みんなに元気に走れるよーに歌を歌った。
歌ったけどすぐにやめた。

「さ、酸欠になるのにゃ、ぜはぜはぜは」

しばらく静かに走る。

峠をこえると懐かしい茶色いお店が見えてきた。

「猫神さんがんばれ〜!」

見るとあの蕎麦屋のおじさんとおばさんが応援してくれてる。 中間点でつめたいそば茶のサービスをしてるんだ。

「おじさんありがとにゃ〜ぜはぜは」

そば茶を飲んでまたまた元気に走っていく猫神様たちでした。 (あ)

< 057 > マラソン 2

そば茶を飲んで爽快に走ってゆく。
どどどばりばりばきーっ。 倒れる木と巨大な影が道を横切った。

動体視力のいい猫神様には見えた。 次郎がVサインしてた。 次郎もマラソン大会に参加してるんだけど,コースは勝手に作っているらしい。

「先行きまーすよ。」男爵がにっこりして追い越して行った。 「先いくぜっ。」タカがひゅんっと追い越して行った。 猫神様の肩を軽くたたいて,リッチさんもどどどどどっと追い越して行った。

「にゃ,どんどん追い越されるにゃ。 一番になるとほうとうの南瓜がおおいのにゃっ。」←そんなことはない。

子猫たちに「つかまるにゃ!」と言うと,奥歯をカチッと噛んで加速装置のスイッチを入れた。

猫待峠のゴールで待つ大会役員の人達。 猫神様と子猫達がばひゅっとゴールを通り過ぎ,それから衝撃波が来てみんな吹っ飛んだ。

ゴールの向こうにはテントが張ってあって,大きな鍋でほうとうがくつくつと煮えている。
「ほうとうくださいにゃ。」

「はい。」と言って振り向いたひとは目も無くて真っ白。
ぎゃーっと言って逃げる猫神様。 お化けこばいのにゃダメなのにゃ逃げるのにゃっ! でも猫襟首をつかまれた。

「あたしだってば。」
真っ白なあにゃこさんだった。 初めてほうとうを打って小麦粉で真っ白になったんだって。 「ほうとうの極意」というメモを持っている。

子猫たちが猫手で粉を払うと,いつものあにゃこさんになった。
「今日はね,野菜だけじゃなくて,お肉や油揚げも入ってるんだよ。」

ずぞぞずぞぞぞぞー。 鍋から直接すすっているのは ... あ,次郎だ。 次郎は加速装置より早かったのだ。

大丈夫,お鍋はひとつじゃないからね。 吹っ飛んだ役員の人達も崖を登って帰ってきて,みんなでお椀によそってもらってほうとうを食べた。 やっぱり,南瓜が美味しいにゃ。 (ま)

< 058 >温泉ツアー 1

てけてけてけ。
軽自動車に乗ってあにゃこさんが猫神様の神社に遊びにきた。
「猫神様おはよー!」

だけど境内から返事がかえってこない。
「あり?」

本殿の壁に張り紙がしてあった。

「温泉ツアーに行ってきます。2、3日留守にします。よかったら、下の段ボールにある干し芋もっていってにゃ。 猫神様」

秩父っ子マラソンで2位に入賞した猫神様たちは温泉ツアーの招待券をもらった。
「にゃー、温泉て初めてにゃ、わくわくにゃー!」
子猫たちもなんだか分からないが喜んでる。みんなそれぞれのポシェットにおやつをつめこんだ。
猫神様はいっちょうらのハンカチも用意した。
「留守中にお参りにきてくれた人に悪いから干し芋用意しておくにゃ」

今朝の早いうちに猫神様たち秩父駅に向かって出発した。
(駅から観光バスに乗ることになっている)

「にゃんだー、ほいたら帰るか」
せっかくだからあにゃこさん、お参りにしてから帰る事にした。
「あ、パンジーにお水あげておこ」
パンジーにお水あげると、干し芋一袋もらって帰った。

もうすぐ駅につく猫神様たち。
「にゃっ!花壇にお水あげるの忘れちゃったにゃ!あうあう。帰ってくるまで元気にゃといいけど。。」

駅の前に観光バスが一台止まっていた。ツアーの添乗員さんと参加者がならんでいた。

「にゃ!」

列の一番先頭にならんでいるのは、次郎だ。

マラソン大会で一位だった次郎も招待券をもらってたんだ。
猫神様たちを見つけた次郎、ちゃっとピースサイン。

猫神様もドキドキしにゃがら猫ピでかえした。

時間になるとみんなバスに乗り込んで出発しました。 (あ)

<059 > 温泉ツアー 2

「にゃうにゃう〜」
初めてのバス旅行に興奮する猫神様。 シートにガジガジする。

「まあ,落ち着きなさい」
3位だった男爵も乗っていた。 大きなタッパーを持ってきてて,ひとつを次郎に渡すと,もひとつを開けた。

おいしい匂いにゃ〜。 ま,まさかその塊は!
猫神様は目の前が真っ白になった。
「肉の塊にゃー!」

「これは,ローストビーフという食べ物です。」
男爵はよく切れるナイフできれいにスライスして紙皿に載せると,猫神様たちにくれた。本場の紅茶もサーモスから注いでくれた。

「こんな美味しいものは生まれて初めてにゃ。」セブンのハンバーグよりもっと美味しいんだもの。 奇跡のように美味しいんだ。

次郎はローストビーフを縦に持って丸ごと食べてる。 ちょっと羨ましい。

猫神様はみんなに干し芋をあげた。
「ずいぶん灰色の食べ物だね」おっかなびっくりな男爵だったが,一口食べると素朴な味わいが気に入ったようだ。
「芋を茹でて切って干したのは子猫達なのにゃ。」

旅館に着いた。
女中さん達が並んでお辞儀をしてお出迎えだ。
ひとりひとりにお辞儀返ししながら入って行く猫神様。 「こんなにいっぱいお辞儀を見たのは初めてにゃ。」

さっそくお風呂だ。
旅館の薄いタオルを肩にかけると露天風呂へ向かう。 子猫達も真似して肩にタオルをかけるけど長くてひきずる。

かけ流しの温泉は,湯気がもうもうと上がっている,誰か奥に入っているようだ。 桶でお湯を汲んで体にかける。

「あちにゃ〜!」
水道のホースから水を出す。

湯気の向こうの誰かが振り向いた。 次郎だった。 次郎は猫神様の手元を見ている。 熱い風呂が好きらしい。

「温泉は熱くにゃいとねー。 それが通ってもんさ。」と訳のわからないことを言う猫神様。 水でうめるのを諦めてそーっと体を沈めてゆくと ... ぼちゃんぼちゃんと子猫達が飛び込んでは飛び出た。 あっついのにゃ〜!

次郎がVサインしている。 猫ピを返して,肩まで浸かって数を数える。「1,5,100っ。 ふーいい湯だった。」と温泉を飛び出した。 (ま)

< 060 > 温泉ツアー 3

のぼせて ゆで猫になった猫神様。

ぼえーっと部屋に戻った。

先にお風呂をあがった子猫たちと男爵がトランプで遊んでいた。

男爵「猫神さん、顔あかーいですよ、大丈夫ですか?」
ちょっとのぼせ気味の猫神様はマッカッカにゃ。
「だ、大丈夫にゃ!温泉は熱いのにかぎるのにゃ!」

しばらく部屋でトランプしてると、夕食がはこばれてきた。
前菜、刺身、天ぷら、グラタン、エビフライ、鍋もの、カニ、蕎麦、ごはん、デザート…

のぼせ気味の猫神様はくらくら。

焼きたての魚が運ばれてきた瞬間、猫神様と子猫の目付きが変わった。

しゃぐしゃぐしゃぐ、はぐはぐはぐはぐはぐ、ぺちゃぺちゃ。
皿の上の魚が綺麗に骨だけになった。

男爵「綺麗に食べますねー」

次郎が帰ってきた。手を合わせていただきますすると、豪快に料理を食べ始めた。
焼き魚なんて、バリバリと骨ごとたびる。
男爵「おー綺麗に食べますね!」

猫神様も負けずに魚の骨を口にほうり込んだ。

バリバリバリ。
アガアガアガ←骨が喉につっかえた。

「痛いのにゃ〜!」次郎がスッとごはんがはいったお椀を猫神様に渡した。

ごはんを飲み込んだら骨がとれた。

よかったにゃ〜!

ごちそうさましたらみんなでくつろぎタイム。

子猫たち ゆかたの手と足のでるところがめちゃくちゃだ。しかも帯が長くてひきずってる。
男爵は浴衣の着方がわからない。
サラッと浴衣を着こなしているのは次郎だ。

次郎がみんなに浴衣の着方を教えてあげた。

にゃー、みんなカッコイーにゃ!

みんなでおそろいの浴衣きておみやげ売り場にいきました。 (あ)

< 061 > 温泉ツアー 4

お土産売り場で目立つ一行。

なんかみんなこっちを見てるにゃ。 ちょっと子猫達の頭をなでたりして余裕を見せる猫神様。 べしゃ。 つまづいて猫鼻から転んだ。

あ,漬物の試食コーナーがある。 ざざーっ。 ぜんぶ次郎が口に流し込んだ。
おせんべいの試食コーナーにゃ。 ばりばりばりーっ。 ぜんぶ次郎が食べた。

干し芋の試食コーナーだ。 今度は子猫達が猫神様を半円形に取り囲んでガードする戦法だ。 あむっと口に入れる。

「あれー? これお日様の匂いがしないにゃ。」
売店の人はびっくりした。 「お客さんよく判るねー。 これは機械乾燥なんだよ。」

「お日様に干さないと美味しくないのにゃ。」猫神様はポシェットから干し芋を取り出すと売店の人にあげた。
「ふうっ。 さわやかな甘み,そして鼻に抜けてゆくお日様の匂いはどうだ。」
「もっといいのがあるのにゃ。」 猫神様は,飴色の干し芋を一袋わたした。 素晴らしい香りだ。

「こっ,これはっ! 伝説の琉球干し芋!」
「そーにゃ。 絶えていた技法を古文書を解読して再現したにゃ。 干し芋をクースー(泡盛の古酒)に浸して干し,十分に乾燥したらまた浸して干す。 それを飴色になるまで繰り返したものがこれにゃ。」

震える手で口に運ぶ売店の人。 静かに噛むと涙が頬を伝う。 「これは ... 野を渡る風だ。」

売店の人は旅館の主人だった。
「お客様方の明日の朝食には,目玉焼きの代わりに,焼き秋刀魚,鯖の味噌煮,ぶりのカマ焼きをつけさせていただきます。」

ガッツポーズする一行。 (ま)

< 062 > 温泉ツアー 5

みんな部屋に戻ってきた。

男爵が「こんなもの持ってきましたよ。」と何やら渋いラベルのついたワインのボトルを出した。

ごそごそっと、次郎も風呂敷包みから何やら取り出した。
「秩父錦」だ。

子猫たちがコップを手にして,ちょーだいにゃ! とあつまる。

「こにゃっ!こりはお酒にゃから駄目にゃよー!ほいたらオレンジジュースにゃ。」
とぷとぷと子猫たちのコップにジュースを注ぐ。
「ほいたら猫神もジュースっと」
ジュースを自分のコップに注ごうとしたら、次郎がもう秩父錦を注いでいた。

にゃ!

「や、やっぱり大人は秩父錦にゃよね!ほいたらいただきます!」
甘酒と梅酒くらいしか飲めない猫神様。がんばってぐいっと流し込んだ。

ぽー!に、にゃんか暖かいにゃ!

さて、ジュース、と思ったら、今度は赤いワインが注がれていた。

にっこりと男爵がほほ笑んだ。

猫神様、余裕の猫ピをして、ごきゅっとのんだ。
にゃうにゃう〜
なんかいー気持ちにゃ〜☆

酔った猫神様、いきなり「猫だにゃ音頭」を踊った。
「はあ、猫だにゃ音頭で、よよいがよいっ!」

「。。。にゃはは!」
ばたん。←つぶれてしまった。

朝,目が覚めた猫神様。「地球が回ってるにゃ〜」

二日酔いだ。
あう〜頭が重たいのにゃ。駄目なのにゃ。 (あ)

< 063 > 温泉ツアー 6

子猫達の朝は元気,大好きな猫神様にジャーンプ! ジャーンプ!
その衝撃でぐわんぐわんする猫神様。

苦しそうな猫神様を見て,次郎がすっと立ち上がった。 ばりばりと裏手の山へ登って行くと,自分の姿が隠れるくらい熊笹を持ってきた。

熊手でぎしぎしと熊笹を搾る。 コップに少しずつ透明な緑色の液体がたまる。 さすがに次郎でも熊笹を搾るのは大変だ。 やっとコップ7分目ほどのジュースができた。

熊笹ジュースを猫神様の鼻先に突き出す。
勢いに押されて飲み干す猫神様。 爽やかな香りが全身をつきぬける。

「気分すっきりにゃ〜!」

ホールにあったピアノを男爵が弾き始めた。 「わたしの祖国(くに)の作曲家です。」 ポロネーズのリズムが暗く力強く響く。 「ショパンを繊細とだけ表現するのはおかしいのです。」

胸に響く6番のポロネーズを聴いたら,みんなすっかりお腹が空いた。

朝ごはんの用意ができましたよ,と宿の主人から声がかかった。
約束の焼き秋刀魚,鯖の味噌煮,ぶりのカマ焼きが,お膳で湯気を上げている。 贅沢にゃ! 大好きにゃ!

「奥さんにも食べさせてあげたい。」と男爵が呟いた。 荒川のS字カーブの空間を越えて秩父へ来られるのは男爵だけらしい。

「簡単にゃよ。」猫神様は言うと,ポシェットからサブスペース・コミュニケーターを取り出した。 ←どこから持ってきた!

「ジャン・ルーク?」
「おお,ネコカミ! ひさしぶりだ,元気かい?」
「お願いがあるにゃよ。 鯖の味噌煮は艦長にあげるから,秋刀魚の塩焼きをイギリスに送って欲しいのにゃ。」
「おやおや。 そんな簡単なことならいつでも。 それに鯖の味噌煮はわたしの大好物さ。」
「ありがと,ジャン・ルーク,また遊びに行くにゃ。」
「いつでも来てくれ。 エナジャイズ!」

秋刀魚の塩焼きは光の粒にきらきらと変化すると消えた。

ぶりのカマ焼きはとても大きかった。 みんなで分けて美味しく食べた。 朝からモノスゴク幸せにゃー。 (ま)

< 064 > 温泉ツアー7

朝ご飯を食べ終わった猫神様たち。
荷物をまとめてチェックアウト。
またまた大勢のおじぎに、おじぎをかえす猫神様。ちょっとくらくらする。
玄関の前で女将さんが記念写真を撮ってくれた。

景色を楽しみながらバスに乗るみんな。

にゃうにゃう〜
猫神様無意識にシートにがじがじしてる。
秩父駅に着いた。
子猫たちなかなかバスから降りようとしない。

ばいばいはいやなのにゃ〜。 子猫たちが泣きべそだ。

男爵が子猫たちをなでながら
「またいつでも会えまーすよ」
次郎が子猫たちの猫背をポンとたたいて、バスから降ろしてあげた。

あれ、猫神様も目頭が少しあつくなっちゃった。
「ま、また会えるにゃ!ほいたら行くにゃよ!」
みんなばいばいして、それぞれの帰途についた。

神社に帰ってきた猫神様たち。

「みんな干し芋たびてくれたかにゃ〜」
段ボールをのぞくと、大きなリボンのついた赤い紙袋が入ってた。
差出人の名前はなかった。

「猫神様たちへクリスマスプレゼント☆」

にゃ〜!
開けて見ると小さな毛糸のマフラーがたくさん入っていました。 (あ)

< 065 > 猫走1

猫走(ねこわす)の12月。
猫神様も境内の大そうじやなんかでちょっと忙しい。

小さな神社だけど、お正月には近くの人たちがお参りにきてくれる。
「えーと、甘酒と干し芋を用意して、リッチさんに蒸し猫の屋台出してもらって、そーにゃ、おみくじ作らなくっちゃにゃ!」

「おはよ〜!猫神様いる?」
あにゃこさんが遊びにきた。

「おみくじ作るの?手伝うよ!」
あにゃこさんが藁半紙を小さく切ってくれた。

猫神様マジックでカキカキ。

『大吉にゃ! 超いいにゃよ!いい事いっぱいあるにゃ!』
『中吉 なかなかいいにゃよ!美味しいものたくさんたびて元気に過ごせるにゃ!』
『小吉 えーと、小さくても吉は吉にゃよ!きっとしゃーわせにゃ事あるにゃよ!』
ふぅ。いっぱい書いたにゃ。

「凶は無いの?全部吉ぢゃん」
あにゃこさんに指摘された猫神様。

凶か。にゃ、ほいたら一個だけ作るにゃ。
『凶 でも大丈夫にゃ!気を落とすにゃ!』

できたっ!
おみくじ用の小さな木の箱に入れてまぜまぜする。

「試しに一個ひいてみるにゃ!」
ごそごそごそ。
これにゃっ!

『凶 でも大丈夫にゃ!気を落とすにゃ!』
にゃーっ!

猫神様おみくじをぽいっと投げた。
えいえいっげしげしっ!←ふんずけてる。

あまった紙にマジックでカキカキ。

『お楽しみ 結果はみてのお楽しみにゃ!』

これでいーにゃ!
ふんふーんと次の仕事にとりかかる猫神様でした。 (あ)

< 066 > 猫走2

「あにゃこさん,お正月におみくじ売りになって欲しいにゃ。」
巫女さんのことかなー,とあにゃこさんは思った。

「お正月のお昼はスパゲッチにゃ! (すごくご馳走らしい) しかも,鰹節かけ放題にゃっ!」
なんか変なスパゲチだけどいっかー。

「お守りも作らなくちゃ。」
小さな布の袋はもう子猫たちが作ってくれていた。 猫手で縫ったので,ひとつずつ形がいびつで違う。

荒川の河原で拾ったきれいな石を詰めればできあがり。

手先の器用な男爵が破魔矢を作ってきてくれた。 平仮名で「ねこかみじんじゃ」と書いてある。

あにゃさんがお茶をいれ,猫神様がしゃくし菜漬けを切る。 縁側で渋茶をすすりながらちょっと休憩。

「男爵なんで日本語書けるのにゃ?」
「奥さんぬ日本人でーす。」

次郎がお餅をかついでやって来た。
色とりどりの毛糸のマフラーをした子猫たちがにゃーにゃーと集まってきた。 (ま)

< 067 > 猫走3

猫走の夕方は早い。 たちまち暗くなる。

猫神様は子猫たちに言った。 「銀杏の木に登ってほしいのにゃ。」
色とりどりのマフラーをした子猫たちが,にゃーにゃーと銀杏の木に登って行く。

「光って」と猫神様は言った。

子猫たちは細胞内のミトコンドリアの機能を調節すると,エネルギーを皮下の発光組織に送った。

銀杏の木の枝の色とりどりの子猫たちが静かに光り始めた。

あにゃこさんも男爵も次郎も,茫然と見上げている。

そんなこともある猫走。 (ま)

< 068 > 猫走4 年越し蕎麦

大晦日にゃ〜。
かあぶり峠のおじいさんとおばあさんが蕎麦をたくさん打ってきてくれた。

次郎が境内に石を積んで竈を拵えた。 猫神様と子猫たちが裏山で拾った枯れ枝と枯葉は山と積んである。 不燃ゴミで拾った盥を竈にかけて,お湯を沸かす。

おばあさんはガス台で,猫神様の凹んだ鍋で甘くないつゆを作る。

煮立ったお湯に打ち立て蕎麦を全部投入っ! おじいさんが茹で時間を見切ると,次郎の熊手を借りてザーッと大きな笊にあける。 ちょろちょろ水で一気に蕎麦を引き締める。

おばあさんがつゆを入れる。 次郎のお餅は,子猫たちが小さく切って焚き火で焼いた。 リッチさんは竹輪の天ぷらをたくさん持ってきた。「子猫たちには蒸し猫でお世話になったからね。」

お蕎麦に,力餅,竹輪天,くらくら茸を入れて,みんなで食べる。
うみゃ〜い!

仕事を終えてあにゃこさんも駆けつけてきた。
山のお寺の除夜の鐘が鳴る。

「来年はもっといい年でありますように。」 (ま)

< 069 > がしょー1

猫神神社にも,朝早くから近所の人が初詣に来てくれた。

「おみくじ安いよ! 大吉 \100,中吉 \50,小吉 \20 にゃよ!」
猫神様,なんかそれ違う。

破魔矢の売り方には,アメ横方式を採用した。 (年末のアメ横では,例えばスルメの束を客に向かって投げる。 思わず受け取った客に \500にしときますよと売る。売り子と目が合うと危険だ。)

お金持ちそうな人に破魔矢をひゅんと投げる。 はしっと受け取ったのは,アウトドア・大黒堂の主人,玄さんだった。

「あれ,君は釣竿を買いに(正確には貰いに)来た猫じゃないか?」
「そ,そうにゃ。 お陰様でお魚釣れましたにゃ。 その破魔矢はお礼です。」
縁起物だから,とちゃんと \300で買ってくれた。 いい人にゃー。

竈で甘酒を作って,あにゃこさんが初詣の人に配っている。 秩父錦の酒粕だし,おろし生姜も入れたから体が温まる。

う,うまいにゃよ〜! 猫舌を忘れておたまで飲んでる猫神様をげしっと殴ると,おたまを取り返した。 「にゃ〜。 あにゃこさんこばいのにゃ〜。」

男爵が着物を着てやって来た。 メガネをかけたすらっとした女の人と腕を組んでいる。 も,もしかして! 「お正月はメビウスの道,通れるみたい。」

「は,はじめまして!」初対面の猫神様とあにゃこさんは,緊張して挨拶した。

焼きたてのお餅を醤油につけてまた焼き,香ばしくなったところで海苔にくるむ。 磯辺巻,渋茶,よく煮えたおでん,大きな肉まん,甘酒 をお盆にのせて次郎が持ってきた。 男爵の奥様はご満悦だった。 (ま)

< 070 > がしょー2

お昼になると,初詣の人たちも少なくなった。
「約束のスパゲッチ作るにゃよ。」

玄さんは破魔矢を買ってくれただけでなく,賞味期限の切れたロースハム!もくれた。 年末にバイトした越後屋さんで,野菜ももらってある。 大根の葉っぱ,キャベツの青いところ,少ししなびたにんじんとタマネギ。 しおれたところを取れば,キャベツの青いところは歯ごたえがあって美味しいにゃよ〜。

中華なべに油を引いて,小さく切ったロースハムと野菜を炒める。 十分に炒まったらシマダヤのうどんを入れる! 醤油を回しがけして,焦げ付かないように手早く炒める。

皿に盛り分けて,紅生姜をのせると出来上がり。
「スパゲッチ・ナポリタン,鰹節かけ放題にゃっ!」

「ね,猫神様それは焼きう ... 」あにゃこさんが言いかけると「こんな美味しいナポリタンは初めてでーす。」と男爵が言った。

うどん,ぢゃなくナポリタンの表面が見えないくらい鰹節をまふまふとかけると,しゃぐしゃぐと食べる,猫神様と子猫たち。 みんなも真似して食べたらとても美味しかった。 (ま)

< 071 > 神様会議

今日はお正月神様会議の日。
ポシェットにごそごそ物を詰め込んで本殿を走り回る猫神様。
「にゃ〜遅刻しちゃうにゃ〜」

べし!
猫鼻から転んだ。←大晦日に次郎がよーく磨いてくれてあるので、床がツルツル滑る。

「痛いのにゃ〜!あうあう、えーと鉛筆と藁半紙も入れて…」
小さいポシェットから鉛筆がはみ出ている。

時刻は昼過ぎの2時。子猫たちは縁側でお昼寝している。
「にゃー、風邪ひくにゃ!」
猫神様子猫たちを発泡スチロールのお布団まで運ぶと
ふわっと掛け布団をかけてあげた。

イチョウの木の下でにゃうにゃう唱えると、ワープ!

神様会議の会場はすでに沢山の神様たちで賑わっていた。
全国の有名な神社の神様たちには専用の大きな席が用意されている。

猫神様用の席は、ない。
折りたたみの椅子が並べてある、後ろの方が空いていた。
「あそこに座るにゃ〜」

今日の会議のメインは猿神様から酉神様への干支のバトンの受け渡し。
猫神様うらやましそうに見てる。

「にゃんで猫年ってにゃいのかにゃぁ。。。」

続いて、昨年のお賽銭が沢山寄せられた神社への表彰式。
猫神様ちょっとしゅーんとなる。

会議は順調にすすんでいく。猫神様少しお腹が空いて来た。
ポシェットに詰め込んだ蒸し猫をあむっとたびる。
となりのおじいさん(きっとどこかの神様)が羨ましそうに見てたので一つあげた。
その瞬間!
「あー、うしろの饅頭たべている君!」
「にゃっ!」
いきなり指される猫神様。
「お正月の報告を皆から聞いているところなのだがね、君の神社ではどんなお正月だったかな?」

いきなり意見を求められて、げほげほとむせ返る猫神様。
「は、はい。えーと、ね、猫神神社ではおみくじを作りました。
手作りの破魔矢も作りましたにゃ。」

「なんだそんなのあたりまえだぞー!」
会場からブーブー野次を飛ばされる猫神様。
半猫泣きになる。

そのとき、となりのおじいさんがすっと立ってマイクを持った。
「猫神さんの神社では新しい試みを2つしたようです。
一つはお賽銭箱のまえの美化です。バンジーを植えて参拝の人々の目を楽しませてくれました。 もう一つはこれです。」
といってさっきあげた蒸し猫をみんなにみせた。

「蒸し猫です。猫神社にちなんで、猫型のまんじゅうの屋台をだしたそうです。
甘酒を出す神社は多い。けれど今の若い人は子供は飲めない人が多いじゃないですか。
だけどこの蒸し猫は中身のバリエーションも豊富でだれでも美味しくたべられるんです。」

会場のみんなが関心して見ている。
「なかなかいいアイディアですね」
みんなからそういわれて猫神様嬉しくってちょっと涙目。

隣りのおじいさんがにこっと笑って猫神様にピースをした。

「ありがとうにゃ、おじいさんどこの神社の神様にゃんですか?」
「名乗るほどの者じゃないよ。ただね、小さくてもあなたのような真心こめて一所懸命やっている神様だって評価されるべきなんだと思ってね。」

おじいさんの言葉にお腹のあたりがぎゅっと熱くなる猫神様。
「にゃ〜!」がしっとおじいさんの手をつかんで何回もおじぎした。

会議も最後になって、立食パーティが始まった。
猫神様ポシェットから出したタッパーにおかずをつめこんでいく。
「子猫たちにあげるのにゃ!」

会議が終わってみんなそれぞれの神社へ帰っていく。
さっきのおじいさんを探したけれどもういなかった。
「また会えるかにゃー。」

神社に戻ると子猫たちが猫神様に集まってきた。
「いー匂いがするにゃ!」

タッパーにつめてきたおかずをみんなで分けて食べました。 (あ)

< 072 > 切札

歯にしみるつめたいちょろちょろ水で歯を磨いて,あにゃさんにもらったあったかいフリースの膝掛けもかけて(猫神様にはちょうどいい大きさなの)子猫達と一緒に寝ました。 外は氷点下になるにゃもん。

夢の中に,おじいさんの神様がにこにこしながら現れた。

君は,十二支に入っていないことを悲しんでいたでしょう? 昔話でも,猫はだまされて順番に遅れて十二支に入れなかったなどと言っておる。
だが,それは違うのです。
光があれば陰があり,善が在れば魔も在るということじゃ。 いつか起きる邪悪なものとの戦い,そのために君は地上で自由になっておる。 君を十二支の枠に入れることなんてできないのさ。 君は危険すぎるからな。

びっくりしてフリースに爪を立ててがばっと起きた
あのおじいさんは,天界で一番えらい大神ではないか!

「にゃっ」猫爪を見て猫神様は思った。 たしかに危険にゃ。 ←それは違うけど。 (ま)

< 073 探偵 >

今、推理小説にハマっている猫神様。
その日も図書館で借りてきた推理小説を読んでいた。

にゃにゃっ!犯人は誰にゃ!現場に残された足跡は誰のにゃっ!
もー、どきどきハラハラだ。

ゴロゴロと縁側で本読んでいたらいつのまにかうたた寝していた。
「…にゃ、いつのまにか眠ってしまったにゃ。」
おにゃにゃっ!
猫神様が寝ていたすぐわきに小さな猫の足跡が!

「こ、これは!」

宝物箱から虫眼鏡を出してきた猫神様、探偵風に腰に猫手を添えて
ちょっと難しい表情をしてみた。
「謎にゃっ!」

じーっと足跡をみる猫神様。
「んー、こりは推測するに、子猫たちの足跡にゃ!」
次郎が綺麗に磨いた廊下に、濡れた泥まみれの足跡がついていた。
小さな足跡は子猫用の入り口からずっと伸びていて、猫神様のわきで終わっている。
そして、不思議な事にその足跡の続きが無くなっているのだった。

「子猫たちがここで消えちゃったのかにゃっ!」

しかし子猫たちは奥のちいさな発泡スチロールのベッドの中でスピスピ眠っていた。
虫眼鏡で子猫たちの足の肉球を見る猫神様。
「にゃ、おかしーにゃ、足濡れてないしにゃー。」

とにかく廊下を拭こう。
とてとてとてーっと廊下をぞうきんがけしているところにあにゃこさんが遊びにき
た。

「あれー、今ごろ掃除してるの?もう夕方なのに。」
「にゃい、廊下に足跡があって、汚れちゃったのにゃっ!事件にゃっ!」

とてとてーっと向こう側へ雑巾がけする猫神様を見てあにゃこさんが笑った。
「あはは!猫神様、自分の背中最初に拭いた方がいいよ!」
鏡で見ると猫神様の背中が子猫の足跡だらけになっていた。

「にゃっ!」

どうやら外で遊びまわった子猫たちが、寝ている猫神様にじゃれついていたらしい。
「猫神様に乗っかって遊んでるうちに足の汚れつけちゃったんだね、きっと。」

謎はすべて解決した。しゃかしゃかと背中をぬぐう猫神様でした。 (あ)

< 074 少し酔拳 >

猫神様がぬる茶(猫舌用)を飲んでいると,がらの悪い連中がどかどかと神社に入ってきた。

「あんた猫上さん?」
「違うよ猫神にゃ。」
「あんたこの土地,不法占拠してるよ。」
「選挙なんかしなくても猫神だもんっ。」

「馬鹿な猫だな。 この土地は所有者が曖昧なままなんだよ。 それで,バブルよ永遠に!をモットーとする我々のグループがここにレジャー施設を作ることにした。 すでに悪徳政治家に話は通してある。」
「悪徳と言っちゃまずいですぜ。」
「うるせぇ。 こんな猫に判るか。」

「猫神神社はずうっと昔からあるんだよ。」

紙切れをひらひらさせながら男は言った。
「もう,この土地は俺のものなの。 さあ,出てゆきな。」

なんにゃ〜? と子猫達が出てきた。
「邪魔だっ。」と男は子猫を蹴飛ばした。

猫神様は甘酒を作るための酒粕を一気に口に詰め込むと,ぬる茶で流し込んだ。

頬を赤くして,猫神様はゆらりと立ち上がった。 よろける,でも転ばない,よろける,でも近づいてくる。

「叩き出せ!」
男達は猫神様に飛びかかった。 正拳突きは,ふらりとよろけた猫神様の真後ろの子分をノックアウトした。 よろけて戻った猫神様の猫パンチが逆襲した。 金属バットを持った子分もお互いを殴り合った。

リーダーの男はウィスキーを出すと飲み干した。 猫神様よりもさらにゆらゆらしながらパンチを繰り出す。 猫神様は避けきれず,何発か重たいパンチをもらった。

秩父錦の一升瓶が宙を飛んだ!
読者は想像するであろう,一升瓶をはしっと受け取った猫神様が秩父錦をがぶ飲みしながら戦い,勝利する姿を。

でもね,次郎はもっと実際的だったの。
一升瓶は男の頭にボコッと当たった。 次郎は男達を派出所まで引きずって行き,お巡りさんに敬礼すると山に帰っていった。

紙切れはお風呂の焚き付けによく燃えました。 (ま)

< 075 お洒落1 >

今日もいー天気。
猫神様街へ出てきた。「都会の人たちはみんなお洒落にゃ〜」
てけてけ歩いていると本当にいろいろな格好、髪型の人がいる。

「ね、猫神もお洒落するにゃっ!」

『バーバー秩父』
カラン(ドアを猫手で押した)

「いらっしゃいませ〜!」
店のスタッフがニコニコしながらドアの方を見ると猫がいた。
(ね、猫だ…)

「あ、あのにゃっ、お洒落にしてほしいのにゃ!」
そー言って空いてる椅子にストンと腰掛けた。

(お洒落にっていわれても…)
椅子に座ってわくわく猫の猫神様。

「じ、じゃあとりあえず、頭洗いますね」
椅子を倒すけど頭がシャワーに全然届かない。
「あの、もうちょっと上にいってもらえますか?」

「にゃい!」
猫足を使ってずりずりっと移動する猫神様。
ぷ!(わ、笑っちゃだめだ!本人(猫)は真剣なんだし!)
美容師さんもプロだ。心では腹を抱える位大笑いだけど、もちろん顔には出さない。

「熱かったら言ってくださいね」
シャワーの蛇口をひねると暖かいお湯が出てきた。

「にゃーっ!猫耳に水が入るのにゃっ!こばいのにゃこばいのにゃ〜っ!」
暴れる猫神様。
美容師さんが猫耳にキャップをしてくれるとやっと落ち着いた。

「痒いとこがあったら言ってくださいね」
「んー、あごの下が痒いにゃ」
(あ、あごの下!なんか勘違いしてる、この猫)
でも美容師さんもプロだ。猫神様のあごのしたをかいてあげた。

ゴロゴロゴロゴロ♪
(猫はあごの下気持ちいいにゃの)

頭を洗い終わると美容師さんは言った。
「ど、どういたしましょう?」

「あのにゃ、お洒落にしてください」
頭洗って気持ちよくなった猫神様、うつらうつら眠くなってきた。 (あ)

< 076 お洒落2 >

気持ち良さそうに寝ている猫神様を見ながら,ロンドン帰りの神田さんは腕組みをして考えていた。
これは,あたしへの挑戦なのかしら。 ロンドンから新潟から秩父までハサミ一本で渡り歩いてきた,あたしへの。

猫神様の猫耳を撫でてみて,だいたい髪の毛なんてないじゃないと思った。 全身つながった一枚の毛皮だわ。

後ろを通った店長が神田さんを見て,ピッと親指を立てた。
ありがとう店長! あたしやるわ。

切るところが無いならカラーでしょ。 猫神様をよいしょと持ち上げると洗面台に入れた。 漂白剤をかけてよくなじませる。 シャワーで洗い流すとアザラシの赤ちゃんみたいに真っ白になった。

たしかにこれだけでもかわいい,でもまだアートじゃない。

カラーを入れる戸棚の秘密の引出しを開けた。 「これを使う日が来たのね。」
薬を猫神様にかけてよくなじませる。 シャワーで洗い流すと,大きなタオルで水気を拭きとり,全身をドライヤーで乾かす。

あったかいにゃ〜,とごろごろしている猫神様。
ブラシをかけると,猫神様の猫頭をぼこっとなぐって起こした。
「完成しました。」

鏡の中には,ほわほわでピンクの猫神様。

「にゃ〜っ!」
ガラス張りのお店の外では,女の子が集まってきて猫神様を指差したり笑ったりしている。
「ほら,大した人気ですよ。 すごくトレンデーですし。」
「そ,そ〜かにゃ。」と,その気になちゃう。すっかり都会的に洗練されちゃったにゃ。

「お幾らですにゃ?」
「普通でしたら \6,200のところを ... 」 ぎくっ,\520しか持ってにゃい。
「非常に実験的な仕事でしたので,猫割引で \300にさせていただきます。」

街行く人達が振り返る中を,意気揚揚とお家へ帰った。 (ま)

< 077 いるかのまぁちゃん >

ピンク色の猫神様、なんだかフカフカのぬいぐるみみたい。
意気揚々と帰る途中、いきなり猫クビをつかまれた。

「にゃっ!何するにゃっ!」
ジタバタするけど、猫クビつかまれてるから抵抗できない。
ひょいっと小さなワゴン車につめこまれてしまった。

『トイザらス』
小さなワゴンは今日開店の大きなおもちゃ屋さんに向かっていた。
「あにゃにゃあ、ど、どこにいくにゃー!」
ぬいぐるみの山に詰め込まれて身動きがとれない。
ぬいぐるみの中の猫神様の言う事なんて全然聞こえないみたいだ。
しばらく走るとおもちゃ屋に到着した。

「おいっトイ坊、遅いぞ!商品がなくちゃ店開けられないだろうが。」
「店長ごめんなさい。でもいろいろ面白いもの拾ってきました。これ売れるかな。」
そう言って猫神様をひょいっと店長に差し出した。
「なんだこれ? 変なモン拾ってきたな。ま、ピンクだし女の子にうけるか。特売シール付けて並べとけ。」

「に"ゃ〜っ!勝手に売るにゃーっ!」

店長がジタバタ暴れる猫神様のお腹のところにタンバリンをひもでくくりつけた。
タン,タタタン,タタタタタッ☆
「おい、面白いなこれ。」
そう言って店長は店の奥に行ってしまった。
トイ坊も本日の特売シールを猫神様のお腹に貼って奥に行ってしまった。

お腹のところをくくられて身動きがとれない猫神様。少し半泣き。
開店時間になると沢山の親子連れが店内に入ってきた。
人気はキャラクターグッズにゲーム機だ。ぬいぐるみコーナーはまだそんなに混んでない。

女の子が猫神様を指差してやってきた。
「ママこのピンクの猫がほしい。」

にゃっ!か、買われたら困るにゃっ。
猫神様その子のお母さんに向かっておもいきりアカンベした。
「まーっ,ぶさいくなぬいぐるみっ!さっちゃん、こんなぬいぐるみ良くないわ。あっちの楽しいお稽古セットを買ってあげるから、さあいきましょ。」

女の子はヤダと言ってふてくされながらも母親に引っ張られて行ってしまった。
ふーセーフにゃ。

午前中いっぱいこのアカンベ作戦でなんとか売れ残った猫神様。
お昼になると人が大分少なくなった。

「ねぇ、ピンクの猫しゃん、なんでみんなにアカンベするの?」
となりに売られている水色のイルカのぬいぐるみがしゃべりかけてきた。
「にゃっ,ぬいぐるみなのにしゃべれるにゃね!」

「うん。まぁちゃんねーちょっとなら浮けるよ」
そう言ってイルカのまぁちゃんは浮いて見せてくれた。

「にゃ!すごいにゃ、まぁちゃんは」
「でもねー誰もまぁちゃんのこと買ってくれないよ、なんでかな。」
「にゃ。まぁちゃん元気だすにゃ。 猫神がいるにゃっ!」

午後になってまた人が増えてきた。
「イルカのまぁちゃん、かばいーまぁちゃん♪タンタタタン♪」
猫神様そう歌って、まぁちゃんのアピールするけどなかなかみんな買うまではいかない。
「ピンクの猫しゃん、ありがとう、まぁちゃんね、いつか空飛んで海ってところにいくんだ。だから一人でも平気だよ。」

入り口から大きな花束を持った女の子が入ってきた。
「開店のお祝いのお花でーす!はい、じゃあここにサインください。」

あにゃこさんだっ!
猫神様、おもいきりタンバリンを叩いてあにゃこさんをよんだ。

びっくりして振り返ったあにゃこさん。
「げ、猫神様なにやってんのっ。」

今までの事を説明した猫神様。

「そっかー大変だったね、こんなピンクに染められちゃって。」
「にゃっ!これはトレンドにゃ。美容院でお洒落にしてもらったにゃよ。」

お腹のヒモをといてもらってやっと自由になった。
「さ、猫神様帰ろう。」

イルカのまぁちゃんがおっきな目でちょっとウルウルしてる。
「あにゃこさん、お友達ができたにゃ。イルカのまぁちゃんにゃ。」
あにゃこさん、まぁちゃんを見ると一目で気に入ったみたい。「かばい〜!まぁちゃん、あたしのうちにこない?」
まぁちゃん嬉しくてあにゃこさんに ぴとっとくっついた。

あにゃこさんの車でやっと猫神神社まで帰ってこれた猫神様たち。
まぁちゃんも子猫たちを乗っけて遊んでる。
「さてと、じゃそろそろ帰るかな、まぁちゃん行こ。」

嬉しそうにあにゃこさんについてくまぁちゃん。
本当によかったにゃ。猫神様もひと安心だ。

「あ、そうそう、猫神様、お腹のシールとらなきゃだめだよ〜。 じゃあまたね〜。」

にゃっ!
すっかりシールの事忘れてた猫神様。
『本日の特売品』シールを,お腹からぺりっと剥がして本殿に戻っていきました。 (あ)

< 078 春こいっ >

神田さんが使ったのは食紅だったのですぐに色落ちして,いつもの薄ぼけた色に戻っている猫神様。 縁側で紅茶を飲んでいる。

猫神様は立ち上がると右猫手をクイッとした。
「春こいっ」
猫神様の後ろの子猫達が揃って,小さな猫手をクイッとした。
春こいっ!

冷たさと明るさが同居する季節。 初めて春を確信するとき。
日差しが明るくなった。 (ま)

< 079 ばにゃにゃ丸1 >

越後屋の売り出しの卵を茹でた。 茹で上がったら,つめたいちょろちょろ水に浸す。

にゃ〜にゃ〜さわぐ子猫たちに一個ずつあげる。 小さな猫手でパリパリ殻を剥いて食べている。 みんなもらったかにゃ〜? あり,猫神様の分がない。

床下でがさがさ音がする。 こわごわ縁の下を覗き込む猫神様。 小さ目な生き物が,はうはう言いながらゆで卵を食べている。

「こにゃっ!」
生き物はゆで卵を急いで飲み込むと,てててーっと走り出てきた。 猫色の忍者服に刀,じゃなくて三峰山の杖をしょっている。

「わ,われこそは ばにゃにゃ ... 」パタッと倒れた。

だ,だいじょうぶかにゃ。 駆け寄る猫神様。 顔色が白っぽい。
「ぐ−。」
お腹空いてるみたい。

本殿の柱の影から,大きなバナナの房を持って次郎が現れた。 猫忍者は「ばにゃにゃっ!」と叫んで飛びかかった。 右手と左手に一本ずつ持ってあむあむ食べる。 あむあむあむ ... 。

20本全部食べた。

「わ,われこそは強きを助け弱きをくじく ばにゃにゃ丸にゃっ。」
弱きをくじいちゃまずいにゃーと猫神様は思った。 (ま)

< 080 ばにゃにゃ丸2 >

お腹もいっぱいになってご満悦のばにゃにゃ丸。
まわりを見渡すと猫とか熊とかがいる。

「お前たちは一体何者であるか?わ、われこそはばにゃにゃ丸である!」

猫神様ばにゃにゃ丸の頭をなでなでする。
「ばにゃにゃ丸はちっちゃいにゃ。ここは猫神神社にゃ。どっからきたにゃの?」

ばにゃにゃ丸は周りを見回すとびえぇーっと泣き出した。びっくりした猫神様。
子猫たちもつられて泣き出した。

「にゃっ、ど、どーしたのにゃ。にゃんかあったのかにゃ?話してみるにゃよ。」

「うぅ、おうち分かんないよぅ。ずっとおうちわかんない。うぅ。。。」

ばにゃにゃ丸はまだ忍者の子供。先輩忍者と一緒に忍術の修行をしていた。
ある日隠れ身の術の練習をしていたばにゃにゃ丸。
「えいっ!」
白い煙がモワッと立ち上るとばにゃにゃ丸の姿が消えた!
(やった、うまく隠れられたみたい!よし、もとにもどれっ。)

モワーン。次に現れたら見たことも無い場所に出ていた。
「あ、あれ、ここどこだ?」
どうやら術のかけかたを間違えたらしい。何回やっても元の屋敷にはもどれなかった。
たくさん歩き回ってもといた場所も分からなくなって心細くなっていた。お腹も空いていた。

「そーにゃったかー。ほいたら大変にゃったにゃ。
でももう遅いしおうちに帰れるまでしばらくここにいればいーにゃよ、ほら、もう泣いちゃだめにゃ。目が溶けるにゃ!」

猫神様ばにゃにゃ丸に布団をしいてあげた。
猫神様のふかふかの猫手で頭をなでなでされたらなんだかホッとしてきちゃった。
ばにゃにゃ丸の両隣りで子猫たちも一緒に眠った。

次の朝、朝ご飯を食べていたら境内から白い煙がモワーとたちこめると、藍色の忍者が1人現れた。

「ばにゃにゃ丸!やっと見つけた!」

藍色の忍者はばにゃにゃ丸の先輩忍者だった。
「せ、先輩ー!うぁーん。」

またまた号泣するばにゃにゃ丸。よかったねこれでおうちに帰れる。

「今度修行を積んでまた猫神様に会いに来るよ。ありがとう。」
「みなさん、ばにゃにゃ丸がお世話になりました。さぁ、帰ろう」

白い煙がたちこめて、2人の姿が消えた。

「にゃー、よかったにゃ、おうち帰れて。はーやでやで。」

ばにゃにゃ丸ともっと遊びたかった子猫たちちょっと残念そう。
でもきっとそのうち遊びにきてくれるよね。

「だけどばにゃにゃ丸のおうちってどこにあるんだろにゃ。」
ちょびっと猫疑問に思う猫神様でした。 (あ)

< 081 ばにゃにゃ丸3 >

子猫達のにゃーにゃー声で目が覚めた猫神様。

枕元に小さなバナナの房があって一本残っている。 あとは子猫達がもう食べた。 包んであったラップを見たら「猫Sサイズ」と書いてある。 ばにゃにゃ丸がお礼にくれたんだなー。 食べたら,ほっぺたが落ちるほど美味しかった。 でも,ちっちゃいのにゃっ。

また遊びに来てにゃ,ばにゃにゃ丸。 (ま)

< 082 海へ行く >

最近あにゃこさんはとても忙しくて半透明になっている。
朝は「に”ゃーに”ゃーっ!」と猫耳をかきむしりながら出て行く。
夜遅く「にゃ ...」と小さい声で帰ってきて,いるかのまぁちゃんをギュッと抱くとすぐ寝てしまう。

なんとか慰めたいと思うのだけど,口ベタで無口なまぁちゃんだった。

今日もあにゃこさんはお仕事に行ってしまった。 お外はいい天気。 うとうとするうちにふんわりと浮いて,風に流されて窓から外に出てしまった。 どんどん高く上って行く。まぁちゃんは空色なので,晴れた日は空にとけこんで見えない。

「あれ?」気がつくとお空の上だった。
ねこしゃんのお家が見える。 ねこしゃんはヌイグルミじゃなくて,猫神様だったんだっけ。 縁側でお茶を飲んでるのが見える。

すーっと下りて行くまぁちゃん。

「お昼寝してたら,お空に浮かんじゃったの。」
「一緒にお茶飲むにゃよ。」
猫神様は,男爵にもらったダージリンを煎れてくれた。 まぁちゃんはC の形になって紅茶を飲んだ。 いい香り〜。

「せっかくお外へ出たから,海っていうところに行ってみたいと思ってるの。」
「春の海か。いいにゃね〜。」
「ねこかみしゃま,背中に乗っていいよ。」

にゃうにゃう興奮して,でも気をつけて爪を立てないように まぁちゃんの背中に乗る猫神様。

「ねこかみしゃま,どっちが海なの?」
あっち,と猫神様は指さした。 ← ほんとか。

「なんだか,なつかしい匂いがする。」
「これは潮の香りだと思うにゃ。」

春の陽にきらきら輝いている海が見えた。 海岸からすぐのところに島があって塔が立っている。 海岸から島には橋がかかっている。

「江ノ島にゃっ。あっちには富士山も見えるよ。」
初めて海と江ノ島を見た まぁちゃんは大感激だ。 細道にそっと下りると,今度は猫神様がまぁちゃんを脇に抱えて歩いていった。

まぁちゃんのヒレに何か挟まって光っている。 \500玉にゃっ! あにゃこさんが落したんだ,きっと。

新しい橋の上に古い屋台がある。 平日のせいかお客さんはいない。
「サザエの壷焼き \500分くださいっ。」
「本当は一人前 \400なんだけど,しようがない,二人前 \500でいいよ。」と焼いてくれた。

壷焼き美味しい。海がきれい。

「猫とイルカのお客さんじゃしようがないね。」
と笑いながら,おばちゃんが ジャガイモと大根とハンペンもお皿に盛ってくれた。

お腹いっぱいになって,屋台のおばさんにお礼を言って,江ノ島の橋の下からふわりと浮きあがった。

帰ったら,あにゃこさんに,海は大きかったよってお話するんだ,とまぁちゃんは思った。 (ま)

< 083 ジンジャー・ナッツ・ビスケット >

久しぶりにあにゃこさんが遊びに来た。 いつもより にゃあとした顔をしている。 買ったばかりのパソコンを自慢しに来たらしい。
猫Sパソコンを開くと猫神様の顔に うにゃうにゃと押しつける。 ←無意味。

( 猫Sとは ... 猫←猫のようにちびっこいもの,もしくは猫程度のもの。 S←スモール。 猫S=超ちっこいという意味。 )

「あれ,無線LANがつながるよ,どうして?」
だって猫神様は無線LAN使ってるにゃもん。 あの人がセットしてくれたからねー。

男爵がワープ便で送ってくれた紅茶とビスケットを出した。
「この正露丸の匂いのするお茶美味しいにゃよ。」
「猫神様,これはアール・グレイって言うの!」と偉そうに教えるあにゃこさん。

「じゃあ,これは?」
Ginger Nuts Biscuit と書いてある。
「ギンガーナッツビスクイト!」と 猫まるだしであにゃこさんが叫んだ。

「ちがうにゃ。 神社ビスケットって男爵ゆってたよ。 神社で食べるために素材から吟味して開発された特殊なビスケットなのにゃ。」

「そ,そっかー。」ちょっとしゅ〜んとなる あにゃこさん。

舞っていた雪もやんで,風は冷たいけどいい天気になってきた。 縁側でウェッジウッドのワイルドストロベリーの茶碗に紅茶を注ぐ。 正露丸茶と神社ビスケットはとてもよく合う。 美味しくって思わず微笑んじゃった。 (ま 5.3.4 )

< 084 香港の休日 >

糸電話が着信した。 あの人からだ。
「猫神様あのね,いま香港に居るんだけど部屋が大き過ぎるんだ。 友達のところに泊まるから,ここ使ってくれない?」

「ホンコンってどこにゃ〜?」
猫神様は NASAが配布している World Wind で検索して場所を確認した。

「行くにゃよ。」
子猫たちを集めるとポシェットをかけてあげる。

自分達を j次元に投影すると,時空間座標を変化させて香港へ再投影した。
「ジャン・ルークも知らない,一番エネルギー効率のいい方法にゃ。」

すごーい。 大きな部屋の黒く磨き上げた床には埃ひとつない。 25mプールくらいあるベッド(大袈裟)には枕が7つもある。 ばにゃにゃ,林檎,洋梨,グァバのウェルカムフルーツもある。 子猫達がさっそくベッドでジャーンプ,ジャーンプ!

ピンポーン。
ホテルのきれいな制服を着た女の人が立っていた。 フルーツのバスケットを間違ってもうひとつ持ってきたみたい。
" Another one? (おかわりにゃ?)"と,猫神様が聞くとあうあうしながら,フルーツをくれた。 これでけんかせずに皆で食べられるにゃー。

子猫達はグァバの匂いが好きじゃないらしい。 やっぱり,ばにゃにゃが人気。

ピンポーン。
「わたくしケントと申します。 香港をご案内するように言いつかって来ました。」
丸い眼鏡をかけて痩せて背の高いスーツを着た人だった。

黒子のように目立たない案内人と,にゃ〜にゃ〜歩く猫神様達。 まずはご飯だ。
「ペキンダックはいかがでしょう。」

焼くのに時間がかかると店のおじさんが言うので,海老と野菜を頼んだ。 あ,さん・みげぇるも忘れないでね。

熱い鉄板をテーブルに持ってきた。 おじさんは,覗き込む子猫達を手で押し戻すと,鉄板に海老をのせる。 その上からチリソースをかけると,ジュワーッ!と音がしてソースの中で海老が煮え立つ。 いい香り〜。 子猫たちにちょうどいい甘いチリソースだ。 がうがうたべる。 野菜のあんかけも美味しいー。

ペキンダックが焼けた。 クレープに,胡瓜と葱の細切りと一緒にダックをのせ,甘味噌をつけてくるっと巻く。 味噌は甘くてコクがあって,ダックの皮の焼けた香りがおいしいっ。 はぐはぐしゃぐしゃぐぺちゃぺちゃ。

100万ドルの夜景を見に行く。 出来立ての地下道を通ってペニンシュラとシェラトンの前を抜けてゆく。 横浜の夜景に似てるけど,細い海を間に挟んで向こう側の街が見えるのがきれい。 霧がかかってかえって幻想的だ。 いつの間にかケントさんは居なくなっていた。

お腹も旅心もいっぱいになって部屋に帰って,おっきなお風呂に泡をいっぱい立てて入った。 おっきなベッドでみんなで寝たけど,それでも余裕があったよ。

朝食は,トーストにスクランブルエッグ,果物たっぷりと紅茶のイギリス風だった。 子猫達はスクランブルエッグ大好き。

10階のエグゼクティブルーム専用デスクへ行く。
「快適にゃったよ。 お幾らにゃ?」と,500円玉をポシェットから出す猫神様。
「お部屋でしたら1,500HK$ですが,もう頂戴しております。」
せっ,せんごひゃくえん! 危なかったにゃーと汗をぬぐう猫神様。

香港の地下鉄から秩父鉄道に乗り換えて帰りました。 (ま 5.3.13)

< 085 水族館1 >

青空の木曜日。
今日はあにゃこさんとまぁちゃんと一緒に水族館に行く約束をしていた猫神様たち、朝からわくわく。
「にゃごにゃご〜♪お魚にゃごにゃご〜♪」歌いながら駅に向かって歩いていった。
秩父線に乗って熊谷で待ち合わせ。

改札口にあにゃこさんとまぁちゃんが先に着いてた。

「にゃっ,まぁちゃん、あにゃこさんお待たせにゃ〜。」
「猫神様おはよー。 子猫にゃんたちもおはよー。」
子猫たち嬉しくてぴょんぴょんジャーンプ!
今日のあにゃこさんはとっても元気だ。まぁちゃんも嬉しそう。

電車のボックス席にみんなで仲良く座った。「にゃうにゃう〜」
猫神様ちょっと興奮気味。
あにゃこさんがまぁちゃんのリュックから大きな包みを取り出した。

「はい、おにぎり作ってきたよ。 うでたまごにみかんもあるよー!」
みんな大喜び。おにぎりには小さなシールがついていた。
『ねこかみさま 鮭』『まぁちゃん オカカ』

あにゃこさんの手作りおにぎりは美味しいにゃ。
「にゃけどちょっとごはんがびちゃっとしてるにゃ。」
あにゃこさんが猫手チョップ!
「あにゃっ。やっぱりおにぎりはびちゃびちゃに限るにゃよ。 にゃ、にゃはは。」

「今日はイルカショーもあるんだよ。」
まぁちゃんおっきな目をキラキラさせた。
「猫神しゃま、イルカショーってどんなの?」
「にゃっ!?まぁちゃん、そりは神の味噌汁にゃよ。」(かみのみぞしる)

まぁちゃんよくわからないけどニコニコしている。ニコニコしてたけどいきなりケホケホむせた。
「あ、あにゃこさん、うでたまご茹ですぎっ!」(黄身の外側が青くなるくらい固茹でにゃった。)

たくさん乗り換えしてやっと水族館についた。
「イルカショーは11:30からだから、それまで中で魚みていよー。」

水族館はとっても広い。大きな水槽の前に釘付けになって魚をみた。
(にゃ、お魚美味しそうにゃっ。)
子猫たちは泳ぎ回る魚を見て猫手から猫爪が出がち。
「水槽に猫パンチしちゃ駄目だよ。」

水中エスカレーターではお魚のお腹も見えたにゃもん。

館内アナウンスがながれた。
「まもなくイルカショーが始まります。みなさまイルカプールへお集まりください。」 (あ)

< 086水族館2 >

いるかプールは巨大な水色のプール。
観客席にお客さんが集まってきた。 フィッシュ&チップスとコーラを売りに来る。

売り子さんが,猫神様たちの前を往復する。 じーっと見つめる子猫達の顔が左から右に動く,右から左に動く。
「しょーがないなぁ」あにゃこさんが千円札!を出して,みんなにフィッシュ&チップスを買ってくれた。

とその時,鳩が超低空で突っ込んできた。 がっ,子猫達の猫手がひゅんっと出るのはもっと早かった。
鳩はぎりぎりで旋回して猫手を避けると,他のお客さんのポテトをかっぱらって行った。

きれいなお姉さんが舞台に出てきて,オットセイ,イルカ,ペンギン,小さいクジラの演技が始まった。
そして最後はイルカのショーだ。 イルカはものすごく早く泳ぐ。 お姉さんを空中へ飛ばしてじゃーんぷ!
そして6匹のイルカが空中を信じられない高さまでじゃーんぷ!

「すごいねぇ,まぁちゃん!」
あれ,まぁちゃんがいない。

お客さんは気づいていないみたいだけど,いつの間にかイルカが7匹になっている。
1匹だけ水色で一番高く飛んでる。

大喝采でイルカショーは終わった。 びしょびしょになってまぁちゃんが戻ってきた。
「濡れちゃったね」
「だいじょうぶ」
まぁちゃんはシッポを支点に自分をねじって雑巾のように絞ると,じゃーっと海水が流れでた。
まぁちゃんはウレタンでできてるからすぐ乾くんだ。

「そしたら,うどんを食べに行こうよ。」迷わずに新宿に行けるかなぁ。 (ま 5.3.15)

< 087 水族館3 >

新宿駅に着いた猫神様たち。電車の暖房でまぁちゃんもすっかり乾いてる。

新宿駅は超複雑怪奇な構造になっている。
私鉄各線、地下鉄、駅ビル、万年工事がミックスされているし、人の数も半端ぢゃない。
あにゃこさんは自分のバッグに子猫たちを入れた。←顔だけバッグからでてる。
まぁちゃんは猫神様が抱えてる。

「みんな絶対に離れちゃ駄目だよ。ちゃんと私についてきてね!」改札をくぐると焼きたてのパンのいい匂い。あにゃこさんがふらふらーっとショーケースに引き寄せられる。
「猫神様、みてみてこのパン美味しそう!」振り向いたけどすでに猫神様はみあたらない。
「げ!猫神様たちとはぐれちゃった。」

その頃猫神様とまぁちゃんはシューマイ屋さんのショーケースの前にいた。
「にゃ〜っ。 みてみてあにゃこさん,このシューマイ美味しそうにゃっ!」

振り向いたけどあにゃこさんたちはいなかった。
「おにゃっ。あ、あにゃこさんがいにゃい!」

いきなりはぐれちゃった猫神様たち。
あっちこっち歩き回るけど見つからない。小田急のエスカレーターを上がって外に出たあにゃこさんが,道路の向こう側にあるビックカメラの前にいる猫神様たちを見つけた。
「いたっ。 おーい猫神様ー!」
大きな声で猫神様を呼ぶが、目の前の車の音で声が届かない。
歩道の信号も赤のままだ。

「しょーがない地下の階段であっち側にいこう!」

階段を下って迷いながらなんとかビックカメラの前に出てきた。
「あれ、猫神様たちがいない。あぅ〜。」

猫神様たちは今度は小田急の前にいた。
「あ、あにゃこさんだっ!」
まぁちゃんが道路の反対側にいるあにゃこさんを見つけた。
信号が青に変わってやっとみんな集まった。
「パズルにゃっ。」
バッグから子猫たちが頭をだした。
「んーパズルぢゃなくて迷路だよー。」

うどん屋さんに入る頃にはお腹ペコペコ。
あったかいうどんと揚げ立ての天ぷらが美味しーい。
猫神様、ゲソ天が噛み切れなくて,あがあがしている。
あにゃこさんがおビールを頼むとつまみにうどんのカリントウをつけてくれた。
甘くてカリカリしていて美味しい。子猫たちも喜んでたべた。
「こにゃこにゃ、よく噛んでたびるにゃよ、口のまわりにお砂糖がついてるにゃよ!」

まぁちゃんがさっきのイルカショーの話を始めた。
「水の中を泳ぐのって難しいんだ。でもねみんなは空を飛ぶ方が難しいって言ってたんだよ。」
「そっかー、まぁちゃんが一番高く飛んでたもんね。」
まぁちゃんちょっと満足そう。
帰りの電車の中は満員だったけど、子猫たちはあにゃこさんのバックの中ですぴすぴ眠ってた。
大活躍したまぁちゃんもうつらうつらしてたので猫神様が背中におぶってあげた。

「猫神様も眠いでしょ。」
「大丈夫にゃ!」
熊谷駅まであにゃこさんに送ってもらって猫神様たちは秩父線に乗って帰った。
眠っているまぁちゃんをそぉっと受けとってあにゃこさんたちも帰った。
ふー今夜もよく眠れそう。猫あくびをするあにゃこさんだった。 (あ 5.3.17)

< 088 新宿を救え1 >

バンコクの市街地を抜け,街の喧騒も届かない場所にそのコンドミニアムは建っていた。 4棟のビルは,12階でプールと植物園のような空中庭園で繋がっていた。 更にその庭園を見下ろす20階に,黒い三つ揃いを着た痩せて背の高いケントの姿があった。

2001号室のドアノプを回すと,ドアは音も無く開いた。
「ケントか」
「薄荷様,鍵もセンサーもお付けになっていないのですね」

薄荷は長い髪をポニーテールにまとめた美しい人だった。 大きな黒檀の書き物机の上には3台のLCDがあり,刻々と変化するディスプレイの表示が薄荷の白い頬を染めていた。

「K国から核が持ち出された形跡がある。 日本へ。」
「公安と警察,陸自の特殊ユニットも平服で動いているという噂を聞いております。」

ピアノを弾くようにキーを叩く。
「ここには何もないが,10Gbpsの回線がある。 短時間なら軍事衛星を使うことも可能だよ。」

古めかしいダイヤル式の電話機を取り上げると日本に電話した。
「ひさしぶりだね」
「あっ,その声は粗大ゴミでパソコンを作ってくれた人にゃ。 まいにち便利に使っているにゃよ。」

「頼みがあるんだ。」
「ごっ,ごはんはちょっとびちゃっとしてるけど,白菜炒めが美味しくできたから,一緒に食べるにゃよ。」
「ありがとう。 ケントを行かせる。」 (ま 5.4.1)

< 089 新宿を救え2 >

春の朝,ケントが猫神神社の開きかけた桜を見上げながら,やって来た。

「香港では失礼いたしました。 お土産持ってきました。」
崎陽軒のシュウマイに子猫達は大興奮。 こらこら,ひじきの煮付けも食べるにゃよ。

「薄荷様があなた以外には止められないとおっしゃっています。 今回は危険です。 子猫たちは連れて行けません。」
「にゃぐにゃ?」 ←口の中がシュウマイ。

西新宿7丁目の讃岐うどんのお店で,いかげそ天と酢橘を添えたぶっかけを食べながらふたりは話した。
「K国から核が流出しました。 薄荷様は無政府主義者の手に渡ったと考えておいでです。」
「げそ天うまいにゃー。」
「都心に撃ち込むつもりかもしれない。」

「あまり付き合いたくはないのですが蛇頭からも情報がありました。」
「そろそろ行くにゃ。」

ふたりは立ち上がった。 (ま 5.4.1)

< 090 新宿を救え3 >

そのアパートの一室には生活感が一切無かった。 ベランダには数本の鉄パイプがさまざまな方向に向けて,鉄の枠に固定されていた。

「発射装置は完成した。 これで日本は無政府状態に陥るだろう。」

アパートの入口に,ケントと猫神様が着いた。 猫ヒゲがぴりぴりと震えた。
「放射能だ。 ここからは猫神だけで行くよ,大丈夫にゃ。」

返事を聞かないうちに,猫神様はケントをおいて階段を登って行った。

「こにゃっ!」
「猫っ?」

男は何が起きたか判らなかったが,猫神様が邪魔者なのは判った。
「手製ミサイルの発射装置のスイッチは入れた。 もう俺にも止められない。」

猫神様はベランダに飛び出すと,猫手チョップで鉄管を切断し(空手バカ一代参照)ミサイルを両手に持つと,窓から飛び出した。

3,2,1 ... ばっバカな,俺の作ったミサイルが爆発しないわけがない。

ごおっと熱の柱が天に向かってのぼった。 だが,それだけだった。 猫神様は爆発のエネルギーを吸収し,熱に変換して空に放った。 黒雲がもくもくと湧きあがり,雷が鳴り,ざーざー雨が降り出した。

少し白っ茶けた猫神様が窓をよじ登ってきた。
「神様にゃもん。」

男は泣いた。
「あんた神様ならよぅ,なんで俺が子供の時に奇跡を見せてくれなかったんだよ。」

ポシェットから蒸し猫を出して男に渡すと,猫神様は帰って行った。
男は蒸し猫を噛みしめると,新しい気持ちになっていることに気づいた。 (ま 5.4.1)

< 091 手羽先猫1 >

猫まねきは,手をくいっとする。でも,その猫がくいっとする手首の角度は,90度を超えてもっと鋭角になって手羽先みたい。 だから手羽先猫と呼ばれて,ちょっと仲間外れだった。

「いっぱい曲がる方がべんりにゃのに。」手羽先猫が棲家にしている 桜公園の近くに,猫っぽい女の子が住んでいて,困った猫には親切にしてくれるという噂を聞いていた。

あにゃこさんは一日の仕事を終わって,お風呂に入ってご飯をたべて,屋根裏部屋のロフトに上がって寝ようとしていた。 毛布をかけて,もうお目々とろとろにゃ。

そのとき,屋根裏の天窓を小さくノックする音がした。 誰かしら〜と思って開けると,猫だった。

入っておいで。
天窓から入ってきた猫は,お日様の匂いのするきれいな猫だった。
「なにか困ってるの?」
手羽先猫は手をくいっとした。

か,かばい〜!
あにゃこさんは,手羽先猫の猫手を持つとくいくい曲げたりして遊んだ。 柔軟にゃっ。 便利にゃっ。

手羽先猫は気づいた。あにゃこさんの手首も柔軟であることを。

「ほいたら寝よう」
いるかのまぁちゃんと一緒のベッドに手羽先猫を入れてあげた。あにゃこさんと手羽先猫の手はくいっと曲がるので,毛布のふちにかけるのに便利。 いるかのまぁちゃんはちょっとうらやましかった。

あにゃこさんとおんなじ〜と手羽先猫は思った。 明日から胸を張って くいっとするのにゃ。 (ま 5.4.22)

< 092 手羽先猫2 >

翌朝,あにゃこさんが目玉焼きと焦げたトーストを作ってくれた。 目玉焼きは黄身がとろりとしておいしいにゃ。 でも焦げたトーストで上あごがむけた。

あにゃこさんと一緒に家を出る。 バス停に立ってあにゃこさんが手を くいっとした。「バス来いっ!」 四つ角をひゅんっと曲がってバスがきた。 バスに乗ってあにゃこさんはお花屋さんに行った。

手羽先猫も真似してみた。「バス来いっ!」手をくいっとすると,反対側の四つ角からバスがひゅんっと来た。駅と反対方向へ行くバスに手羽先猫は乗り込んだ。 (ま 5.4.22)

< 093 手羽先猫3 >

バスはどんどん走る。 お客さんはひとり降りふたり降りて誰もいなくなった。「次は終点,熊森です。」ちょっとこばそうな名前だけど降りてみよう。 運転手さんも降りたので,そっと後から降りる。

風が,森の匂いがする。 手羽先猫は遊歩道のようなところを歩いて行った。 小さな流れにかかる丸木を渡ったり,朽ちた木を越えてゆく。 木漏れ日がきらきらする。

どこかからいい匂いがしてきた。 道を離れて熊笹の中へ入って行く。 サッポロ一番味噌ラーメンにキャベツの入っている匂いだ。

ゴアテのテントがひとつあって,小さな袋を開けて一味唐辛子をラーメンにふりかけている熊がいた。 振り向くと胸に「次郎」と名札が付いている。 大きなお鍋にいっぱいラーメンができている。 お椀にたっぷり入れると,手羽先猫にくれた。 お,おいしいにゃー。

手羽先猫がお腹いっぱいになってから,次郎は残りのラーメンをずぞぞぞと一気に食べた。 デザートは次郎の手作り笹団子だ。 笹はいっぱい生えてるからね。

熊笹茶を飲んで,猫手を合わせてごちそうさま。 次郎は買い物かごを持って立ち上がった。 かごには,コシアブラの若芽がたくさん入っている。

手羽先猫は次郎と一緒に歩き出した。 (ま 5.4.22)

< 094 手羽先猫4 >

次郎は,麦藁帽子をかぶったので熊には見えない。
でもバスには乗りにくいので,国道の端で親指を立てた。

ピカピカに磨かれた,秩父運輸と書いたトラックが来た。 長い髪を束ねたきれいな女の人が運転席から顔を出した。

次郎が,秩父と書いた紙を見せた。
「ちょうど帰るところだ,乗って行きなよ。」

次郎が乗るとシートがきしんだ。 シートベルトを無理やり締める。

「きみ,熊っぽいけど逞しくていいね。 あたし,けい子っていうんだ,よろしく。 猫ちゃんもよろしくね。」

けい子さんは,大きな袋のポテトチップスと,小さな袋の戸隠の蕎麦カリントウを投げてくれた。
次郎はポテチをざざーっと一気に飲み込むと,蕎麦カリントウはひとつずつカリカリ食べた。手羽先猫も食べた。

「おいしいものを知ってるね。 前に京都から面白い猫を乗せたことあるよ。そのとき猫にガムもらったんだ。 今でもお守り代わりに持ってるけどね。」

「そろそろ秩父だけど,どの辺がいい?」

次郎は山へ向かう細道を指差した。
ちょっと遠回りだけどいいか,でもこの道通ったことあるなぁと思った。 道は猫神神社に続いていた。 (ま 5.4.22)

< 095 手羽先猫5 >

猫神様は,かまどでご飯を炊いていた。

次郎は背中に背負っていた風呂敷を下ろし,コールマンのピーク1と鍋を出した。 コシアブラを薄塩で湯がき,半分に分け,酒・醤油・ダシで濃い目の味付けにする。 残り半分は水に放って色鮮やかにしてから細かく刻む。

ご飯が炊き上がると,猫神様を押しのけて味付けしたコシアブラをご飯に入れ,切るように混ぜる。 更に湯がいて刻んだ緑のコシアブラをさくっと混ぜる。

大きなお茶碗でみんなで食べた。 山に吹く風をそのまま食べているようだ。
食べながらけい子さんが涙をこぼした。 「母さん,あたし一所懸命やったけど,うまくゆかないこともあったよ。」
気づかないふりをして,次郎はばくばくコシアブラご飯を食べた。

猫神様は手羽先猫の手を くいっとして感動した。すごい可動域,ニュータイプ(機動戦士ガンダム参照)にゃっ。

猫神様にも誉めてもらって,手羽先猫はすっかり自信が付いた。 だから,コシアブラご飯をたくさん食べた。

猫神様も子猫達もあまり美味しくてだまって食べた。 (ま 5.4.22)

< 096 グラタン >

鯉のぼりがはためく子供の日。今日も猫神様は縁側で日向ぼっこ。
「にゃ〜あんなにおっきいお魚あったらいいにゃあ。」

そうにゃ!今日は子供の日にゃから子猫たちのたびたいものを作るにゃっ!

早速 神社でトカゲと追いかけっこしながら遊んでいる子猫たちに聞いてみた。

「今日はみんなの一番たびたいもの作るにゃよ!お魚でもお肉でも好きなの言うにゃっ!」
子猫たち、円くなって考えた。ほいで、ピンとひらめいた!
グラタンてゆーのたびたいにゃっ。

にゃっ!予想外のメニューに猫神様ちょっと猫のけぞり!
(グ、グラタンて作ったことないにゃ。でも子猫たちのリクエストにゃもん!)
「わかったにゃ!今夜はグラタンにゃ!」
にゃ〜にゃ〜グラタンにゃグラタンにゃっ。
子猫たち大喜び。

ぴゅーっと本殿にもどった猫神様。
ぱそこんで「グラタン」を探してみた。
「にゃににゃに、ふんふん、ほわいとそーすにゃ?まかろににゃ?ぱ、ぱるめぢゃんちぃずにゃ?」
(んー!グラタンって難しそーにゃね…)
「…オーブンもないにゃし、困ったにゃ。」

とその時、
キーバタン!てけてけてけっ!
「猫神様〜!いる〜?」
あにゃこさんが遊びに来た。

「にゃー!あにゃこさん、グラタン作りたいのにゃ!」
「グラタンなら作れるよ!ほいたら手伝ってあげる!」

よかったにゃ〜!
早速あにゃこさんの軽自動車に乗って街のスーパーでお買い物。
小麦粉とバターと生クリームをカゴにいれていく。
「おっと、マカロニも入れて、と。」
(あにゃこさんがいてよかったにゃ〜!)
マカロニをとろうとしてマロニーをとりかけてた猫神様。あぶにゃいあぶにゃい。

目の前に今日のお買い得コーナーがあった。『本日海老サービスデー!つめほうだい300円!』
横に置いてあった小さな容器に海老を詰めていく。ぎゅうぎゅう。
「にゃっ!まだ入るにゃよ!」
容器から海老の尻尾が少しはみ出て蓋がしまらなくなっちゃった。猫手で蓋を抑えて猫走りでレジまで持っていった。
レジのおばちゃんは猫神様をちらっと見ると少し大きめの袋に海老をさっと包んでくれた。

お買い物が終わって神社にもどった猫神様たち。
「あにゃこさん、オーブンがないにゃよ。」「あーそっか。どうしようかなぁ…」
ふと神社の脇にとめてあるヤキイモリヤカーに気がついた。
「あれで焼こう!」

裏の畑からジャガイモとネギをとってきた。子猫たちがきれいに土を落として洗ってくれた。
「あにゃこと猫神様のスペシャルグラタンだよ!」

にゃ〜!
まず猫神様はリヤカーの竈に火をつけ始めた。あにゃこさんはとれたてのジャガイモを固めに茹でると、皮つきのまま輪切りにして小麦粉をまぶした。マカロニも茹でておく。
鍋にバターをしくと、殻つきのままの海老とジャガイモを炒める。少しキツネ色になったら海老をとって、塩コショウしてネギを加え、さっと混ぜる。

「にゃ〜あにゃこさん、いい匂いにゃ〜!」竈の準備ができた猫神様がやってきた。子猫たちもみゃーみゃーよってきた。
「あ、竈の準備できたんだね!ちょうどよかった!」
鍋に生クリームとマカロニを加えて混ぜ合わせ、殻をとった海老を上にならべていく。
戸棚にあった少し固くなったパンをズリズリと大根おろしのスリガネでおろしてその上にかける。おやつ用のチーズを薄く切ってさらに上にならべた。

「あとはこのまま竈で焼くにゃね!」
リヤカーの竈に蓋なしのまま鍋を入れてしばらく待つと、なんともいえないいい匂いが神社中に広がってきた。
猫神様が竈から鍋を取り出すとぐつぐつと音をたてながら、美味しそうに焦げ目のついたグラタンが出てきた。
にゃーにゃ にゃーにゃ!子猫たち嬉しくて思わず猫ダンスを踊っちゃう。

「グラタンの出来上がりにゃ〜!」
小さなお皿に子猫たちのぶんをふぅふぅしながらよそってあげる。たっぷりと海老ものっけてあげた。

チーズがとろけて美味しそーう!
海老もプリプリだ。

「あっついからよーくふぅふぅしてたびるにゃよ!」

いただきま〜す!
みんな猫舌だからふぅふぅ、アチアチしながら夢中でたびた。

はぐはぐぺちゃぺちゃ。
おかわりにゃっ!
子猫たちもたくさんおかわりをして、あっという間に鍋のグラタンはなくなってしまった。みんなの一番たびたかったグラタンが作れてよかったにゃ。ほっとする猫神様のレパートリーがまた一つ増えたのでした。 (あ 5.5.16)

< 097 黒谷 >

まだ,雪の残っていた頃の話。

風は冷たいけど空の明るい日に,縁側でおとなしくごろごろしていた猫神様は,郵便受けに葉書が入っているのに気づいた。

「おてまみにゃ〜!」
はぁはぁしながら 郵便受けを開けてみたら,それはお隣の猫上さんへの葉書だった。
お隣と言っても山ひとつ向こうだ。 でも,葉書は猫上さんのおばあちゃんへみたいだ。猫神様は届けてあげることにした。

お釜に残っていたご飯でおにぎりを作り,茹で卵ひとつと一緒にポシェットに入れた。 細い山道を辿って行く。 山はなかなか深い。

暗い谷にさしかかった。 こばいから早く行こうっと。 山道で黒いものが動いた。 うぎゃにゃっ! 猫神様は木に駆け登ってズリ落ちた。
それは真っ黒でわずかに茶色い毛並みの混じった犬だった。 山道の脇の木につながれている。 黒犬は道に顔を伏せると,猫神様を見た。

なんでこんなところに繋がれてるんだろう。 お腹が空いてる顔してる。 猫神様がおにぎりを一個あげると黒犬はがつがつ食べた。 飼い主がいるのにご飯あげちゃいけなかったかにゃ。 ほいたら,ばいばいにゃ。 黒犬はひゅーひゅー鳴いた。

峠の二番目に高いところまで登って,猫神様もおにぎりをひとつ食べたけど,黒犬のことが気にかかった。 登っている途中,猫神様は黒犬に黒谷(くろや)という名前を付けていた。 なんで黒谷はひとりぼっちであんなところにいるのにゃ? まさかあんな淋しい処に捨てられたわけじゃないだろうし ...

どうしても気になって猫神様は,また谷まで下りていった。
猫神様を見て,黒谷は興奮してひゅーひゅー鳴いた。 まだ,つながれている。 おかしいよ。 ずっとこんな谷につながれているなんて。 猫神様はどうしようか悩んでどきどきした。 でも,でも。

茹で卵の殻を剥くと,黒谷にあげた。 黒谷は茹で卵が食べ物だとわからないのか,鼻先でつつくと谷の深い落ち葉の中に落としてしまった。 にゃ〜っ勿体ない。

猫神様は綱を外した。 でも,黒谷はその場に座ったままだった。 おにぎりを二つに割ると口に押し付けた。 黒谷は匂いが判らないのか目が見えないのか,お腹が空いているはずなのにおにぎりを転がして泥だらけにしてしまった。

そして黒谷は少しずつ動き始め,山道を登ったり下ったりし始めた。 だんだん大きくだんだん激しく動き出した。 猫神様は怖くなってきた。 黒谷は中型犬にゃもん,その気になればガブリだ。

縄は外した。 あとはお家に帰れるなら帰りなさい。 猫神様は黒谷を残して山道をどんどん登っていった。

しばらく登ると大きな音がした。 いや,それは声だった。 捨てられたことを理解した絶望の叫び声だった。 猫神様にいまできることはない。 耳をふさぐようにして山道を登って行った。

手紙を届けてもらって,猫上さんのおばあちゃんはとても喜んだ。しゃくし菜漬をお茶受けに,縁側で渋茶をご馳走になってから猫神様は下っていった。 黒谷はいるのかしら?

暗い谷から少し離れた日向の藪に黒谷はいた。 猫神様を見るとひゅんひゅん鳴きながら出てきて,ポシェットの匂いを嗅ぐ。 さっき,ぜんぶ泥だらけにしちゃったから,もう食べ物はないにゃよ。 猫神様はなんとか黒谷を山から下ろそうと,引っ張ったり押したりしたけど,黒谷は動かなかった。 まだ待っているのだ。

猫神様は猫神神社へ向かって下りていった。

しばらく天気の悪い日が続いた。

猫神様はもういちど峠を登り暗い谷へ来てみたけど,もう黒谷はいなかった。 空を見ながら猫神様はこう思うことにした。 黒谷はどこかで楽しく暮らしているにゃよ。 淋しくなったら猫神神社に来ればいいにゃ。 (ま 5.5.17)

< 098 もうすぐ夏 >

ガサッゴソッ。
「あにゃ〜このあたりにしまったはずにゃけど…」

神社の裏庭の物置でほこりまみれになっている猫神様。

「ないにゃあ。あ、すだれはあった。これも出すにゃ。」

ほこりまみれのすだれを出すと、また物置でガサゴソと探し始める。

猫神様何やってるにゃ〜?
庭で遊んでた子猫たちが集まってきた。
みんな物置の中に興味深々。
探検にゃっ!

「こにゃこにゃ、物がたくさん積んであるから危ないにゃよ。」
子猫たち夢中で猫神様の言うことが聞こえないみたい。
にゃっ!猫神様これ何のお菓子にゃ?
子猫が手に持ってるのは蚊取線香の箱だ。
「にゃっ!それにゃ、それを探してたにゃよ!えらいにゃ!」

子猫たち、誉められたのが嬉しくてにゃあにゃあしている。

隅の方に小さなダンボールが置いてあった。
猫神様、あれ何にゃ?
開けて見ると古い図鑑が出てきた。
『昆虫図鑑』『きのこ図鑑』『植物図鑑』
いつの間にこんなのがしまってあったのかにゃ。
夏に使う物を一通り出し終わるとみんなで本殿まで運んだ。

ポツリポツリ。
雨が降ってきた。
「みんな中に入るにゃ。」
子猫たちは縁側でさっきの図鑑をめくっている。
猫神様これそこにあるのと似てるにゃ。 図鑑に載ってる写真を見て子猫が言った。
「アジサイっていうにゃよ。」

さっき見つけた蚊取線香に火をつけると猫神様も縁側に座った。
「梅雨にゃね〜。」
猫神様、つゆって何にゃ?

「たくさん雨が降るにゃよ。アジサイも沢山咲くにゃ。」
図鑑のページをめくった。
「雨が降ってカタツムリとか、カエルが元気なんにゃよ。」

縁側に座ってると風が流れてきて気持ちいい。
カエルの鳴き声が雨の中から聞こえてくる。
子猫たち、いつの間にかうたた寝している。子猫のお腹にタオルをかけてあげた。
少しずつ夏が近づいてくるにゃね。

大きな猫あくびひとつして、まったりとする猫神様でした。 (あ 5.6.16)

< 099 桜桃 >

子猫達は原っぱでシロツメクサを摘んで,ぶつけっこして遊んでいた。 その時,草叢から痩せた黒犬が飛び出した。

走るのは犬の方が早い。 子猫達は走った。 犬は追いかけた。 もう少しで柿の木だ,でも黒犬が一番後ろの子猫に迫る。

空気を歪めて,しかしまったく音を立てずに何か飛んできた。 黒犬の足元の地面に当たると,衝撃で黒犬を吹っ飛ばし,少し経ってズンッと腹に響く音がした。

「大丈夫ですか。」
丸い眼鏡をかけた痩せて背の高い男が立っていた。 両手の親指と人差し指で三角形の印を結んでいる。 その中心の空気が歪んでいるように見えた。

香港を案内してくれたケントさんだ。
子猫達は,ケントさんの両肩によじ登ると,にゃーにゃーにゃーにゃーお礼を言って,シロツメクサで作った花輪をケントさんの首にかけてあげた。 表情を表さないケントさんが少し微笑った。

「薄荷様からのお届けものです。 持っていっていただけますか。」

子猫達は,ケントさんから下りてもう一度お辞儀をすると,箱をもらって猫神神社へ帰っていった。 怖かったにゃもん。

黒犬はもう息を吹き返していて,ひゅーんと鳴いた。
「わたしと一緒に行こう。」
痩せた黒いスーツの男を追うように痩せた黒い犬が歩いていった。

さわぐ子猫達を押しのけて猫神様が箱を開けてみると,見事に粒の揃ってツヤツヤした紅い実がぎっしりと詰まっていた。 ちょろちょろ水で洗ってみんなで食べる。 甘い!夏の香りがする。 さくらんぼ だった。 ( ま 5.6.21)

< 100 天丼 >

今日は越後屋でバイトだった猫神様。閉店後売れ残ったお惣菜は一人3点まで持って帰れる。パートのおばちゃんたちにもみくちゃにされながらもにゃんとかおかずをとれた。
急ぎ足で神社に帰るとお腹を空かせた子猫たちがよってきた。
猫神様お帰りにゃ〜!

釜に残ってたご飯を小さなお茶碗によそるともらってきたおかずを上に並べた。
メインは天ぷらだからいちおう天丼にゃっ!
「できたにゃよ!」
ご飯に天カスをのせて醤油をかけたものが天丼だと教えられていた子猫たちは,猫天丼を見て、目をまんまるにしてる。
「いただきま〜す」
はぐはぐペチャペチャはぐはぐ。
美味しいにゃー!
(明日は牛コロッケをゲットしてくるにゃ!)お茶をすすりながら思う猫神様だった。 (あ 5.6.27)

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