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雨の音で目が覚めた。カミュはいなかった。 開け放った窓には薄く白いカーテンがひらひらと舞っていた。時折、雷の音が聞こえる。 嵐だった。 窓辺は雨が降り込んで濡れていた。冷たくて湿った空気が流れてきた。ミロは大理石の床に当たって跳ねる水を見つめていた。 あの日も嵐だった。 夜。 森の散歩中、突然、雨が降って来た。近くに使われていない温室があるのを知っていた。 そこまで走った。 大きな木が入り口を塞ぐようにして立っていた。枝をかき分けると、今にも壊れてしまいそうな温室が現れた。ドアはすでにない。 中に入ると花壇に腰掛け、雨が上がるのを待っていた。 雨はいっこうに上がらなかった。 突然、目の前の枝が揺れた。 紅い髪をした少年だった。 目の覚めるほど紅い色。 以前、見たことのある顔だった。 はっきり覚えている。 いつかの昼の稽古で会った。 すれ違い様に穴があくほど見つめて来た。 言葉は交わさなかった。 名前も知らない。 忘れられない容姿。 彼は何も言わずに立っていた。自分の存在意識を否定されるほど静かに立っていた。 雨が止むとそのまま出て行った。 その時からカミュを意識し始めた。 なぜなのか自分でも分からなかった。 ミロは、雷の衝撃で我にかえった。 束の間の回想をかき消されたミロの元に、教皇の使者がやって来た。 使者は一言何かを告げるとすぐ戻って行った。 ミロは教皇に謁見するための準備を始めた。 |