Velvet Skin

第2章 回想



雨の音で目が覚めた。カミュはいなかった。
開け放った窓には薄く白いカーテンがひらひらと舞っていた。時折、雷の音が聞こえる。

嵐だった。

窓辺は雨が降り込んで濡れていた。冷たくて湿った空気が流れてきた。ミロは大理石の床に当たって跳ねる水を見つめていた。

あの日も嵐だった。
夜。
森の散歩中、突然、雨が降って来た。近くに使われていない温室があるのを知っていた。
そこまで走った。
大きな木が入り口を塞ぐようにして立っていた。枝をかき分けると、今にも壊れてしまいそうな温室が現れた。ドアはすでにない。
中に入ると花壇に腰掛け、雨が上がるのを待っていた。
雨はいっこうに上がらなかった。
突然、目の前の枝が揺れた。

紅い髪をした少年だった。

目の覚めるほど紅い色。
以前、見たことのある顔だった。
はっきり覚えている。
いつかの昼の稽古で会った。
すれ違い様に穴があくほど見つめて来た。
言葉は交わさなかった。
名前も知らない。
忘れられない容姿。

彼は何も言わずに立っていた。自分の存在意識を否定されるほど静かに立っていた。
雨が止むとそのまま出て行った。

その時からカミュを意識し始めた。

なぜなのか自分でも分からなかった。


ミロは、雷の衝撃で我にかえった。
束の間の回想をかき消されたミロの元に、教皇の使者がやって来た。
使者は一言何かを告げるとすぐ戻って行った。

ミロは教皇に謁見するための準備を始めた。



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'99.6.2
Gekkabijin