シューティングスター☆







その日、みんなが帰ったあと部長と副部長はまだ部室にいた。
「益玖!!」
「なんだよ薔薇」
「お前、わざと負けただろう。その上相沢にまであんなこと言わせて。入部してからやりづらくなるだろうが」
「あ〜はいはいはいはい。お前もあの豪腕が欲しかったろ〜?ん〜?」
「そりゃ欲しいに決まってる」
「じゃいいじゃねえか。それと俺はお前みたいに根回し得意じゃねーから。バレー部の部長に助っ人として貸し出してもいいって言ったらしいな!この策士!!」
「なんで知ってんだよ!」
「俺んとこにはいろんな情報が来んの。あと相沢とは打ち合わせとかしてないぞ」
「ますます悪い」
「可愛い舎弟だからゆるしてやれよ」
「しゃ、舎弟って」
「それよかさー、なんか食っていかね?俺めっちゃ腹へって」
そのとき、部室のドアが思い切り開いた。
「あれ?まだいたんですか?」
相沢神遊だ。さっきのあの喧噪ぶりはどこへやら。
「遅くまでどうした?マネージャーは?」
白井薔薇が聞いて来た。
「ゴミ捨てです。あと、マネージャー帰ったんで俺が気圧とかのチェックしておきました」
相沢神遊はこうやって遅くまで、部の仕事をすることが多い。先輩から言われてするのでなく自ら進んでやる。面田益玖に最高の環境でプレーしてもらいたいらしい。そのことがかえって部内で評価されているらしく、今日のような口の悪さでも皆にけっこうかわいがられている。
「ありがとな。鍵、ここ置いて行くぜ」
「はい!お疲れ様でした!!」
2人は部室を出て歩き出した。
「・・・嬉しそうな声出させやがって、てめーも策士だろうが」
薔薇が軽く益玖の尻を蹴り上げた。益玖は返事をする代わりにニッと笑って見せた。

翌朝。
「うーっす、本城〜〜〜!!」
教室に入りながら笑って近づいてくるこいつは、杉崎獅子。サッカー部でFWやってるんだと。転校初日から話しかけて来たりとか屈託なく女の話とかできて気が合う。
両手をポケットに突っ込んだまま、足で椅子を引き寄せ、ドカッと座った。
「なんだよ、朝からデカイのに前塞がれたら息できねーんだよ」
「今日も機嫌悪いっすねー!」
「ああ。俺は昨日からずっと機嫌が悪いんだ」
「なんで?昨日あの面田益玖とやりあったそうじゃん?」
「呼び捨てすんな。これからバスケすんだからさ」
「へ?バレーは?」
「もうやんねー」
「強化選手のくせに、いいのかよ」
「プライドの問題なの。あいつ俺を馬鹿にしやがって」
「誰それ。面田?」
「違う。名前知らねーよ。あ、でも相沢って呼ばれてたな」
「あいざわ!!」
「なんだ知ってんのか」
「知ってるも何も、あいつ超有名なんだけど」
「へ〜」
「面田益玖と同じ中学だったんだよ。おっかけてこの学校に来たの。面田信者だから。もうこんな感じよ」
そういうと杉崎は顔の前で両手を組んで、「せんぱい!!」と乙女な声を出した。
「だからあいつに近づかない方がいいぜ!相当なバスケ馬鹿で会話するのも大変らしいからな」
説明があまりにだったので、俺はプッと吹き出してしまった。
「はは、なんだよそれ」
それから予鈴が鳴ったので、相沢の話題は終わってしまった。

授業はそれなりにこなして放課後になった。
昨日急いで帰ってシューズとか一式揃えた。俺はやってやる。本当に。
そう思いながら部室のドアを開けた。
けっこう早く部室に来ていた数名がさっそく着替えて出ていくとこだった。中にはまだ何人か残っていた。その中に副部長もいて、さっそく呼び止められた。
「本城!」
「はい」
「お前のロッカー用意しといた。相沢のとなり。仲良くな」
「あたーっす!・・・え?」
マジかよ・・・。最悪じゃねえか!!地獄へ突き落とされたような気分だよ!!
こうなったらヤツが来る前に着替えてしまわないと。徹底的に顔を合わせないようにするんだ。
そうして俺は荷物を押し込み、ソッコーで着替えて部室を出た。
「お〜豪腕!やる気満々だな」
さっそく2、3年の先輩たちから冷やかされた。
チガーーーーーウ!!
「来たヤツからコート50周な」
反論できないまま副部長の声で練習突入した。




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2008.8.16
Gekkabijin