DEVOUR GAME

17



「ザイードが迎えに来るぞ」
乱された格好のまま、胸元を掴んでカミュは聞いていた。
ザイードとは、誰だろう・・・?思考がまだおぼつかない。
「新しい家に、お前を連れていってくれる」
そしてミロも、背中に十の赤い斑点を付けたままだ。
「いつ?」
「ああ、もう来てた」
ミロは笑いながら言った。
カミュは、跳ね起きて衣服の裂け目を重ね合わせた。
ミロの陰で見えなかったが、肌の浅黒い、野性的な男が立っていた。
ああ、そう言えば、昨日から停泊してたな・・・。
カミュはぼんやりと思い出した。ここは、カミュが行くはずだった目的地に近い。
ミロは、背中の傷やカミュの姿を隠すでもなく、見せつけるでもなく男に話しかけた。
「連れていってくれ。俺も後から行く」
「わかりました。では、着替えられるまで外で待ちます」
そういうと、男は部屋を出て行った。
「驚いたか?ザイードは俺の腹心だ」
カミュに服を渡しながら、話す。カミュは着替えてしまうと、部屋を出て行こうとした。
「なんだ、つれないな。さよならのキスもしないのか」
上半身裸の男は、カミュの腕を掴んで圧倒的な力で引き寄せた。顔を近付けてくる。
「待たせてる」
カミュは身体を反らせながら、当たり前の理由を言い訳に使った。
違う、本当は紅潮した顔を見られたくないだけ・・・。
そして抵抗する間もなく、顎を掴まれた。
激しいキス。カミュの身体に呪文をかけた。
頭の芯が痺れた。


カミュは、この地に不釣り合いな高級車の後部座席に座って、すり抜ける街並みを見ていた。
その目は、ほとんど何も映してはいなかった。
私はどうしてあの男のいいなりになっているのか。
身体は自由だというのに。

一緒にいたいと思うのか?

良くわからない。

・・・あの男を愛している?

良くわからない!!


ナイフを持ってみれば、気が変わるかも知れない。
「君は、ナイフを持っているか?」
運転中のザイードに聞いてみる。
「・・・持っておりますが?」
ザイードは訝しるように、ルームミラー越しにカミュの顔を見た。
彼等の嗅覚は鋭い。
「私は、ナイフを集めるのが好きだったんだ。家に帰れば、100本ものナイフが出迎えてくれるよ」
カミュは目を瞑って、居間に飾られたコレクションを思い出していた。
実戦用にもなるそれを。
「・・・」
ザイードはカミュをまだ良く知らない。情報網から来る彼の話なら、良く知っている。
ナイフの名手だった。時間が経って、ナイフの感覚が鈍っていたとしても、いつ豹変するかわからないのだ。
ザイードは懐からナイフをとって、片手で持ち上げた。
「これなら持っています」
それは、長であるミロからもらったナイフ。手入れの行き届いているそれは、よほど大切にされているようだった。
次の瞬間、ザイードの手は降ろされ、カミュは落胆した。
カミュの視線は窓の外に移った。ぼんやりと眺めている目がだんだん疑問の目に変わっていく。
ここは、私のために用意された屋敷に通じる道ではないか?
車は山の手を走っていた。
「後もう少しで着きます」



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2000.7.12
月下