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着いた先は、カミュが行く予定だったその屋敷そのものだった。 周りは林になっていて、外側からは家があるとはわからないぐらいだ。 「これはどういうことだ!!」 カミュは車を降りるなり、怒鳴り付けた。 「御覧になった通りですが」 ザイードの答えは淡々としていた。 「私の別邸じゃないか!!」 「いいえ、今はミロ様のものです」 「証拠を見せろ!!」 「権利書はミロ様が持ってらっしゃいます」 突然、車の中で電話が鳴った。 ザイードは受話器を取ると何か話したが、すぐにカミュに差し出した。 「ミロ様です」 カミュは受話器を引ったくった。 「私の部下をどうした」 「やあカミュ、新居はどうだ?気に入ったか?お前の好きなナイフのコレクションもあるぞ」 「質問に答えろ!!」 「怒鳴るなよ、綺麗な顔が台なしだろう?」 「答えろ」 「・・・お前の部下は皆殺しにしたぞ」 「・・・なんだと」 「生かしておいてはお前のためにはならないだろう?」 「コレクションは・・・どこにある」 「?・・・ああ、ナイフ。3階の奥の部屋だ」 「帰って来たら、お前を切ってやる」 「ああ、楽しみにしてるぜ」 ミロは笑いながら、ランボルギーニのアクセルを踏み込んだ。 カミュは受話器をザイードに投げ付けると、そのまま家に走り込んでいった。 3階の奥の部屋に飛び込む。ミロがはったりを言ってない証拠に、カミュの自宅にあったナイフコレクションはそのままの状態で飾ってあった。一つ、違うのはナイフコレクションを挟むように側面の壁に飾られたカミュの写真だった。しかも、殺ったときの顔ばかりだ。 「何だ、これは・・・」 野獣のようにしなやかな身体で、殺す瞬間を捕らえた写真。まるで、映画のワンシーンを見ているように良く撮れている。 「ずっと前からお前を知ってたよ」 その瞬間、カミュは壁からナイフを取ると、投げた。 ナイフが、重い。 私の手となり足となった、あの頃の一体感がない。 「・・・ふ、流石だな」 カミュの手から飛び出したナイフは、ミロの顔のすぐ横を通り過ぎていった。金髪が、足下に落ちている。 不敵な面構えで、近付いて来るミロ。カミュは近くにあったナイフを鞘から抜いた。以前のように死臭を嗅ぎ分けられない。100種類のナイフを見れば、100種類の殺り方がすぐにでも浮かんだ・・・。 「私をはめたな」 「・・・」 「戦えないようにした」 カミュのナイフの切っ先をかわしながら、 ミロはカミュの手首を掴んだ。 「くっ」 「4年前、泊まっていたホテルの玄関で、敵を蝶のように刺した男がいた」 ミロは掴んだ手に力を込めた。 「くぅっ」 カミュの手からナイフが落ちる。 「それが、お前だ」 「なに?」 「お前の殺しのテクとその涼し気な顔に惹かれた・・・ずっと前からお前が欲しかったよ」 ミロはだんだん顔を近付けてくる。 「い、いやだ」 こんな気持ちのまま、抱かれるのは耐えられない。 「放せッ」 カミュは顔を背けてミロの手を押し退けた。 意外にもミロは素直に手を放した。カミュは背を向けたままだ。 「お前は、本望だろう、私の組織を潰した上に、この家や他の資産まで手に入れて・・・私をどうするつもりなんだ」 俯き加減で言葉を紡ぎ出す。 「さしずめ、性奴にでもして」 「わかってないな」 ミロはカミュを掬い上げた。不意を突かれたカミュはミロの肩で暴れるしかなかった。 「なにするんだ、放せ」 寝室に来たミロは、ベッドにカミュを放り投げた。 「っ・・・く」 「ザイード!!」 ミロが叫ぶと、腹心はドアの側に来た。 「誰もこの部屋に近付けるなよ」 彼は少し頭を下げるとドアを閉めてすぐに行ってしまった。 ミロはカミュに掴み掛かる。カミュの顎を持ち上げて、覗き込んだ。 「まだわからないのか!」 「・・・」 「お前のことが好きなんだ、愛してるんだよ」 激しい愛の告白に、カミュは顔を赤らめて顔を背けてしまった。 「目を閉じるな、俺を見ろ」 無理矢理顔を正面に向けさせられた。ミロと目が合う。息が詰まる。 こんな真摯な深い青は初めて見る。 呪文が解けた。 ミロは熱で浮かされたカミュに口付けをし始めた。 カミュは深く抜けるような感覚に巻き込まれ、すべての感情がわからなくなっていく。 夕闇に現れた二つの影。 言葉なんていらない。身体が知ってる。 だがこれだけは聞きたかった。 「お前・・・俺に何か言いたいんだろう・・・?」 男の言葉は、陶酔と一緒に吐き出された。 美しい肢体を広げた、愛しい者の口元を見つめる。 震える唇は、少しだけ開くと言葉を形作った。 最後の言葉は、男の胸にしまわれた。 目の前の映像が揺さぶられ、消え、長い闇に二人は消えていった。 |