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また、夜がやって来た。長い長い一人だけの夜。毛布を掴んでいる指先が白くなるほど、苦しみに耐えていた。強烈な欲望。冷や汗が額を横切って、シーツを濡らす。昼間、必死に押さえていた息継ぎも今となっては押さえようがなかった。この乱れようを誰にも悟られまいと、カミュは歯を噛んでいた。 本能の導くままに、身体の疼きを鎮めよと悪魔が囁く。 何も怖がることはない。 誰も咎めない。 カミュは指を見つめた。 まるで自分の指が救世主であるかのように惚けていたカミュは、物音で我に帰った。隣のベッドの患者が寝返りを打った。その夜着とベッドの衣擦れの音がはっきりと聞こえてくる。深夜の音の響き方に、悪魔の囁きも消え失せた。 また戦いが始まった。 朝になった。一睡もできなかったカミュの目は、隈ができていた。食事の時間になると、カミュはドアに面している方のカーテンだけを開けた。向いとその隣の患者の様子がうかがえた。 向いの患者は、カミュよりも年下のようだった。フォークを突き刺して食べ物を口に運び、噛んで飲み込む。その様子を一部始終見ていた。フォークを握っている手。食べ物が近付くと開く口。カミュの視線はさらに、別の場所に移動した。食事用のテーブルの下にある、身体。まるでそこに見えているかのように凝視した。 ぽとり。 カミュの手から、綺麗なままのフォークが毛布に落ちた。 その音に、彼は気付いてカミュを見た。自分を見つめている。目の下に隈ができて、昨日来た時よりも妖しくなった向いの患者。いや違う。自分の口や手を見ているのだ・・・。 彼は少し赤くなると、朝食を片付けて食べた後はすぐ寝てはいけないのに、横になってしまった。 カミュは、彼が横になるまで気付かなかった。少し経って、はっと気付いた。私は朝食も取らずに何をしているのだ?フォークは手から転げ落ちていた。恥ずかしくなって、食べるのを止めた。心の中で何度も彼に謝罪した。そしてカーテンを閉じてしまった。カーテンは、その後開かれることはなかった。 夜になると体温が上がる。淫らな妄想が止まらない。 理性が劣っていたら、すでに性奴と化している自分。 今夜も一睡もできない。 きっと向いの患者から、薄いカーテンを隔てて見られているに違いない。 様々なことが、カミュの脳裏を走る。すべての感情は、沸き上がる欲望にかき消されていく。 薄っぺらなカーテンの向こうでドアの開く音が聞こえた。この部屋の誰かかが看護婦を呼んだのか・・・。 カミュの考えは、外れた。その証拠に、自分のベッドの前に足音は止まった。 カミュの身体に甘美な戦慄が走り抜ける。 シャッ。カーテンが勢い良く開かれた。 立っているのは、ミロ。 カミュは驚愕を隠せなかった。その表情の変化は、ミロを楽しませた。 「驚いたか?」 「・・・」 「自分の患者のことが心配でね。仕事も早く終わらせて来た」 本当かどうかは定かではない。だが、ここにいるのは紛れもなくミロだった。 ちゃんと白衣を身に付けている。 ミロはベッドに乗り、答えないカミュに制裁を加えるように毛布を引き剥がした。 「やめろ」 何も言わずにミロは抵抗するカミュの顎を掴み上に向けると、噛み付くように口付けした。 カミュはミロの胸板を力の限り押していたが、ミロの両手に押さえ付けられてしまった。 ミロの舌は抵抗していたカミュの歯と歯の隙間を捻り、無理矢理入り込んで来た。理性に押し付けられて、身体の中に潜んでいた強烈な欲望の火が噴く。 ミロは引いていくカミュの舌を捕まえては絡ませた。だんだんカミュの身体から力が抜けていく。片手でカミュの身体を弄りながら服を剥ぎ取っていく。腰や太腿に手が触れただけで、身体が震える。 下着の中に手を滑らせて、中心にあるものを力の限り握った。流石に堪えられなくて、カミュの喉から声が漏れる。 「うっ」 すぐに手を放す。カミュの性は弾けた。 ミロは全て剥ぎ取ると、根を入れられていたところへ指を入れた。待っていた、と言わんばかりに内壁が蠢いた。 カミュの反応は今までのものと打って変わって、凄まじく色気を帯びた。息が深くなる。 ミロは口を放して笑った。 指は暴れて、カミュに声を挙げさせる。 「っん」 その動きと同じように、カミュから声が漏れてくる。ミロは指を突き上げた。 「あ、んっ」 「そんな声を出して俺を誘ってるのか」 抵抗の言葉は出て来なかった。代わりに出るのは、誘うような声ばかり。 「あんまり大きな声出すと聞こえるぜ?」 びくっとカミュの身体に戦慄が走った。ミロは満足気に鼻で笑う。 カミュは声が漏れそうになるのを、必死で止めていたが、それは無理なことだった。 擦り上げ、突かれ、回されると、身体の中で波が引き始めた。別の何かが訪れ始める。 「あぁ・・・はぁああん・・・」 官能の渦が回り始めた。 |