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「おはよう」 昨日、まるで何もなかったかのように平然と挨拶を交わしてくるこの男。 一体、何者なのだろう? カミュは食い入るように男の顔を見ていた。今日はベッドのカーテンが開いている。 「何か?」 ミロは医学書を本棚にしまいながら聞いてきた。 「病人はこういう扱いを受けてもいいのか?」 カミュは刺すような目でミロの後ろ姿を見ていた。ミロは答えない。本棚から別の医学書を取り出して黙り込んでしまった。 「君は訴えても負けるよ・・・」 上の空のような言い方。まるで無視している。 「・・・なんだと?」 ようやく本棚から離れたミロは、カミュを見て言った。 「君は罪を犯している。法廷に立つ前に首が飛ぶ」 うっ、とカミュの咽が鳴った。 「私のところにはなぜか、情報がたくさん来るんでね。君のことはいろいろ知ってる」 「嘘だ」 「嘘じゃないさ。これから行くところを当ててやろうか」 「お前は一体何者なんだ!?」 「医者だ」 ミロはねじ伏せるような目でカミュを見た。その顔はおよそ医者とは言い難い。何か裏の職業があるはずだとカミュは感じた。 緊張の糸は、一本の電話によって切られた。受付から回された内線がプライベートルームに鳴り響く。 「何だ?」 「バランタイン様よりお電話です」 ミロは受話器を乱暴に取り上げた。 「で、買う気になったのか?・・・早くしてくれないと、新しいのがどんどん入ってくるからな。・・・買わないなら、他に回すぜ。それに早く慣れさせた方がいいだろう?薬じゃなくてお前の身体使ってな」 電話の相手と話している姿からは、医者の匂いはしなかった。 「お前の業界、儲かってただろう?1億や2億、大した額じゃない・・・ああ、また電話しろよ」 怒ったように受話器を置く。 カミュは一部始終を眺めていた。その様子に気付いたのか、ミロはカミュを見た。 「何の話だ」 「商売さ」 ミロは口の端を上げて、微かに笑った。 「流石に、そういう嗅覚はプロだな。君にも覚えがあるだろう?誘拐、人身売買・・・」 「まさか、お前」 「君は知る権利があるな、なんせ」 声色も顔つきも変わっていく。 「商品だからな」 カミュは高笑いをするミロを、火のような目で睨み付けた。 「人身売買のボスが、逆に売られるってことだ!どうだ、スリリングだろう?これ以上面白いことはないな」 歩み寄りながらミロはさらに続けた。 「しかも、今度の商品は上玉だって付け加えておいたさ。診察で実証済みだからな」 「下衆め」 唾を吐いた。ミロはかかった唾を拳で拭くと、カミュの顎を掴んだ。力の限り、上にあげた。 「ぐっ」 「商品だから傷つけられない、と思ったのか?」 「・・・」 「傷が付いてる方が喜ぶ客もいるんだぜ?」 いきなり平手打ちを食らわせる。カミュの口から血が滲み出てきた。 「その目、最高だよ。干涸びたおいぼれには最高の薬だね。・・・どこに売られたい?どこでもいいぞ。敵の組織、お前の部下なんでも来いだ。地獄までエスコートしてやるぜ」 「貴様、殺す」 「そんな暇はない。客に渡すまでの間、お前にはやることがある」 怒りで身体の震えが止まらないカミュに、冷たく放った。 「いい商品じゃなきゃ、俺の信用度が落ちるだろう?・・・それじゃあ、鍛練といくか」 「何をするっ!?」 ミロはカミュの服に手を掛けた。 |