DEVOUR GAME

10



「おはよう」
昨日、まるで何もなかったかのように平然と挨拶を交わしてくるこの男。
一体、何者なのだろう?
カミュは食い入るように男の顔を見ていた。今日はベッドのカーテンが開いている。
「何か?」
ミロは医学書を本棚にしまいながら聞いてきた。
「病人はこういう扱いを受けてもいいのか?」
カミュは刺すような目でミロの後ろ姿を見ていた。ミロは答えない。本棚から別の医学書を取り出して黙り込んでしまった。
「君は訴えても負けるよ・・・」
上の空のような言い方。まるで無視している。
「・・・なんだと?」
ようやく本棚から離れたミロは、カミュを見て言った。
「君は罪を犯している。法廷に立つ前に首が飛ぶ」
うっ、とカミュの咽が鳴った。
「私のところにはなぜか、情報がたくさん来るんでね。君のことはいろいろ知ってる」
「嘘だ」
「嘘じゃないさ。これから行くところを当ててやろうか」
「お前は一体何者なんだ!?」
「医者だ」
ミロはねじ伏せるような目でカミュを見た。その顔はおよそ医者とは言い難い。何か裏の職業があるはずだとカミュは感じた。
緊張の糸は、一本の電話によって切られた。受付から回された内線がプライベートルームに鳴り響く。
「何だ?」
「バランタイン様よりお電話です」
ミロは受話器を乱暴に取り上げた。
「で、買う気になったのか?・・・早くしてくれないと、新しいのがどんどん入ってくるからな。・・・買わないなら、他に回すぜ。それに早く慣れさせた方がいいだろう?薬じゃなくてお前の身体使ってな」
電話の相手と話している姿からは、医者の匂いはしなかった。
「お前の業界、儲かってただろう?1億や2億、大した額じゃない・・・ああ、また電話しろよ」
怒ったように受話器を置く。
カミュは一部始終を眺めていた。その様子に気付いたのか、ミロはカミュを見た。
「何の話だ」
「商売さ」
ミロは口の端を上げて、微かに笑った。
「流石に、そういう嗅覚はプロだな。君にも覚えがあるだろう?誘拐、人身売買・・・」
「まさか、お前」
「君は知る権利があるな、なんせ」
声色も顔つきも変わっていく。
「商品だからな」
カミュは高笑いをするミロを、火のような目で睨み付けた。
「人身売買のボスが、逆に売られるってことだ!どうだ、スリリングだろう?これ以上面白いことはないな」
歩み寄りながらミロはさらに続けた。
「しかも、今度の商品は上玉だって付け加えておいたさ。診察で実証済みだからな」
「下衆め」
唾を吐いた。ミロはかかった唾を拳で拭くと、カミュの顎を掴んだ。力の限り、上にあげた。
「ぐっ」
「商品だから傷つけられない、と思ったのか?」
「・・・」
「傷が付いてる方が喜ぶ客もいるんだぜ?」
いきなり平手打ちを食らわせる。カミュの口から血が滲み出てきた。
「その目、最高だよ。干涸びたおいぼれには最高の薬だね。・・・どこに売られたい?どこでもいいぞ。敵の組織、お前の部下なんでも来いだ。地獄までエスコートしてやるぜ」
「貴様、殺す」
「そんな暇はない。客に渡すまでの間、お前にはやることがある」
怒りで身体の震えが止まらないカミュに、冷たく放った。
「いい商品じゃなきゃ、俺の信用度が落ちるだろう?・・・それじゃあ、鍛練といくか」
「何をするっ!?」
ミロはカミュの服に手を掛けた。



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2000.6.6
月下