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目を開けて周りを見た。 四方を薄いカーテンで遮られて外を見ることができなかった。 カーテンの向こうでは誰かいるらしく、時折ガラスが何かに当たる音が聞こえてくる。 ドアがノックされる。 「どうぞ」 男の声だった。 「やあ、ミロ。看護婦たちがここだって言うから」 「ちょっと休憩してる」 「それより、今度の学会で発表するテーマ決まったか」 「まだだ」 「早くしないと間に合わないぞ」 「論文なんてすぐ書けるさ」 「お前らしいな」 相手は笑うと話題を切り替えた。 「・・・新しい患者か?」 「ああ。手が空いてたら処置するか」 「お前の仕返しが怖いからやめとくよ」 二人一緒に笑う。 「じゃあな」 「ああ」 訪ねてきた男が部屋を出ていった。 カミュは体を動かそうとして手を上げた。 「?」 何かに引っ掛かったのか、思い通りに動かない。そればかりか、足も動かないのだ。 「何だッ!?」 思わず声を挙げた。掠れていた。 その声に気付いたのか、ミロと呼ばれた男が近付いてきた。 足音がベッドの前まで近付くといきなりカーテンが開いた。 「目が覚めたか」 カミュはそう発した男を見上げた。 白衣に聴診器という出で立ち。医者の格好をしたその男は、下品な水夫達とは違い、品があった。 「ここに君が連れて来られた時は死んでしまったかと思ったよ」 カミュの体に掛けてあった毛布を剥ぎ取った。 体は、縛り付けられていた。両手両足、頑丈なベルトで締められている。 カミュが驚愕の眼差しでミロを見た。 「悪いね、水夫達が君は暴れるって言ってたからね」 眼差しをいとも簡単に撥ね付けるように言った。 「しばらくそのままの格好でいてもらうよ。・・・診察の時間だ」 ミロは水色の患者の服を手際よく脱がせた。 「裂傷だからちょっと痛いかも知れないが」 そういうと下着に手を掛け、引き降ろした。 「っあ!!」 いきなり指を入れてきた。細くはない指が、傷付いて腫れていた空間を圧迫してくる。 カミュは気を失った。 「あいつら、楽しみ方を知らないな」 ミロは口の端をニッと上げて笑った。 ドアがノックする音が聞こえてきた。看護婦だ。 「先生、ローゼンシュタイン卿がお見えです」 「すぐ行く」 そう言うと、ミロは指を抜いた。 |