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水夫の一人が、ドアを開け入って来た。カミュは身を硬くした。 「電気が入らないのか!?」 水夫は悪態を突きながら、階段を降りて仲間を呼び始めた。 「どこに行ったんだ!!」 カミュは水夫が歩き出すとこっそり階段を上がった。そしてドアを押す。 水夫が気付かないよう、そっと。 外に出てすかさずカギを閉めた。音がしたのかも知れない。中から足音が聞こえて来た。 「出してくれぇーーーっ」 ドアを叩く音が聞こえて来た。カミュは胸からすっと何かが引くのを感じた。 逃げ場を探そうとカミュが横を向いた瞬間、大波が襲って来た。 投げ出される! カミュは近くにあったロープで固定されていた木箱にナイフを刺した。 体は横に倒れ、背中の上を海水が滑って行く。全身が濡れてしまった。 波がなくなるまで倒れた状態でじっとしていた。不覚にも後ろで見られていることに気付かなかった。 「おい、あれを見ろ」 「何だ」 「乗客があんな格好するか?時化だって言うのに。あれは密航だぜ」 水夫はカミュの体を舐めるように見た。 波が過ぎ去るとカミュは体を起こし、ナイフに手を掛けた。 そのとき、後ろからロープが飛んで来た。とっさに指をナイフに掛けたが、腕一本では 首のロープが締め付けられて、ナイフを取るまでに至らなかった。 そのまま後ろ向きに引き摺られたカミュは、下品な声の主を初めて見た。 別の水夫だった。 |