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息を潜めて獲物が来るのを待っていた。目は、すでに野獣と化している。 美しいケダモノ。彼は昂りを押さえきれず、指の腹でナイフをなぞった。 流れ出た血を舐めて、変貌していく自分が最高に背徳を感じる瞬間。 そのとき彼は死臭を嗅ぎ分ける。目の前に獲物が無惨な姿を曝している画像が広がる。 水夫は声が出なかった。 最後の瞬間、カミュの釣り上がった口を見ただろう。ナイフを捕らえた灯は自己防衛には役立たなかった。 するどく光ったエッジは水夫の心臓を突き破った。喉元がひゅっと鳴っただけだ。隣には懐中電灯が転がっていた。 懐中電灯を取り上げて、照らし出す。 「一発で殺してやったことをありがたく思うんだな」 と、冷たく一言放つ。 水夫の死体からナイフを引き抜いた。血が、どくどくと流れ出て、床を、荷物を染めていった。 ドアは開いたままになっていた。今がチャンスだ、どこか他に隠れる場所を探さなければ。 帰りが遅い水夫を探しに他の水夫がやってくるだろう。その前にここを出なければ。 水夫の死体から倉庫のカギを取り出すと、カミュはポケットに突っ込んだ。 ドア目掛けて進んでいく。階段を登り、途中まで進んだ時、ドアの外で話声が聞こえて来た。 「あいつ、遅すぎるな。何やってるんだ」 カミュはひらりと飛び降りると、階段の脇に隠れるようにしてうずくまった。 |