|
その夜、城に戻ると王の使いが待っていた。借りていた蔵書を返すと言う。食事を勧めたが、断られ帰ってしまった。 ミロは中身を確かめて、蔵書を所定の位置へとしまった。 そうしてドアが開き、ルイが入って来た。 「お使いの方はお帰りになったのでございますか?食事を運ばせたのですが」 「ああ。帰った。食事はここで取る」 「かしこまりました」 言うが早いか、ルイは召し使いに適切な指事を出しながら、テーブルセッティングを開始した。テーブルに活けられた花。美味しそうに盛られた銀食器の数々。ミロはナプキンのリングを外して首に垂らした。 「御酒は」 「いつもより多めだ」 グラスに注がれていく葡萄酒を眺めながら民の顔を思い出した。次いで、鬱蒼とした森も。 「本日のデザートはシャルロットのプラリネ詰め、干しあんずのプディング、栗のケーキでございます」 「もう栗が?」 「領内に一本だけ早い木がございまして。パティシエの自信作でございます」 「この間、葡萄を見たのに・・・季節が巡るのは早いな」 ミロはスープを口に運び、堪能した。 「ああ、ルイ。質問があるのだが」 ミロはテーブルの脇に立っていた執事に話し掛けた。 「何でございましょう」 「私に、結婚してほしいと思うか」 ルイの顔が明るくなった。 「もちろんでございます」 「許嫁などの話は父上から聞いているか」 「いいえ、そのようなお話は聞いておりません」 察するに、どこかにお気に入りの姫君でもできたのだとルイは思ったが、それ以上は口を慎んだ。 「じゃあ、もう一つ」 次にミロが口を開いたのは今までの質問とは何の関係も無かった。少なくともルイにはそう思われた。 「私が生まれる以前に内乱などで蟄居させられた者はあったか」 「・・・いいえ、そのような類いのお話は聞き及んでございません」 ミロは短く「分かった」と言った。 「それから、お前にしか聞けないのだが・・・」 普段より声を低くした。 「陛下には御兄弟がおられたと聞いたのだが」 「はい。10人の御兄弟がおいででしたが、皆様幼くしてお亡くなりになりました」 ルイは何かが思い出せなかった。初老の男にはもう二十年前のことなど、今思い出せと言われても無理な話だった。彼は主人が食事の間中、質問を繰り返し、昔の記憶を辿り寄せていた。 |