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きらびやかな装飾、着飾った医者の妻たち、あちこちから聞こえて来る世間話、噎せ返る香水の香り。 その裏では政府の役人、製薬会社の重役、医療メーカーのトップまで揃った、三つ巴の駆け引きが繰り広げられていた。癒着は必至。明日には巨額の金がどこかへ流れて行く。今夜は顔繋ぎのための夜だ。 カミュはミロが興した製薬会社の代表取締役だった。 「こういう裏の世界もいいだろ?昔みたいで」 「今度からちゃんとスケジュール入れておいてくれないか。今日は食事会だったのに、わざわざキャンセルしてまで来たんだ。それなりの収穫はあるんだろうな」 「そりゃお前次第だ」 「期待しないな。政治に利用される程うちの会社はバカじゃない」 「少なくとも、今日会うはずだった奴らには出し抜いたぜ」 「腹黒いので有名な役人ばかりじゃないか」 「あ〜そうかもな、ま、せいぜい癒着が明るみにならないように頑張ってくれよ」 「何もやってないぞ!」 「あはは、じゃ、後でな」 ミロは笑うと、医者の集団に挨拶に出かけて行った。 カミュはミロに引き回されて、くたくたになっていた。ミロと別れたあとは何人かと名刺交換しただけで、この芝居掛かりのパーティーに飽きてしまい、ひとりバルコニーで佇んでいた。 「お一人ですか?」 いつの間に来たのだろう、銀髪の長身男性が側にいた。カミュはびっくりして、少し後ろに引いてしまった。 「これは、驚かせて申し訳ない」 そう言うと、彼は微笑んだ。 「いえ、こちらこそ。・・・今は一人ですが、連れがいますが」 「おや、お邪魔でしたか」 「いえ、構いませんよ。彼が戻るのはもう少し後でしょうから」 それならと、彼は立ち去るのを止めた。 「・・・こういうパーティーは初めてですか?」 「ええ。つい最近、会社の役員になったものですから」 それから他愛無い世間話を30分程した。 カミュは、ひとことふたこと話すと彼はここから立ち去るだろうと思っていた。 しかし、彼はカミュの側を離れない。 「あちらに戻らないのですか?あなたなら、女性も大勢待っているだろうに」 「女性?ああ・・・食い飽きました」 はっきり言う。カミュはちょっと癪に触った。 彼は手に持っていたワイングラスをテーブルに置いた。 「私から、離れない理由を聞きたいようですね」 手を広げてバルコニーにもたれていたカミュの腕の隙間に、彼は腕を伸ばした。 「あなたから竜涎香の香りがするからだ」 カミュは男を睨んだ。 「悪趣味な」 「竜涎香を移したのは待ってるという人なのかな。非常に興味がある」 「あなたにプライベートを詮索される義務はない」 男は笑うと、カミュから離れた。 「いや、冗談です。では、またどこかでお会いしましょう」 彼はバルコニーからガラス張りの扉を開けて、元の世界へと戻って行った。 カミュは、怒っていた。 あの銀髪の男と、不注意だった自分に。 |