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         もの      


                        全ての作品は、本人の許可なく複写することをお断りしています



                ビルヂングの中の青空

                とても古いビルの中、ふと見上げてみると
                青空がポッカリ浮かんでいた
                もう外は深い夜だというのに
                そのビルの中には真っ青な空があった
                あったかくて、鳥が飛んでいて、子供の声が聞こえた
                それから僕は、夜になると
                この古いビルに来るようになった
                雲はゆっくり流れ、青はどこまでも青かった
                ビルヂングの中の青空は
                僕が帰っていくところ 



                喫茶 あるく

                「あるく」という喫茶店で
                僕は、コーヒーを飲んでいる
                いつものように、新聞を読みながら
                いつものように、テレビの音を耳にしながら

                一杯のコーヒーを飲み終え
                350円支払って、外へ出た

                すると、今夜はアフリカの月の下だった



                透明なしっぽ

                風さん、風さん、しっぽを落としましたね
                郵便ポストの上に置いときますから
                今度、来たとき持って帰って下さい。



                僕は知っている

                お医者さんは 僕を診て
                「どこにも悪いところは、ないです」と言う
                だけど、僕は知っている
                昨日の夜、ついつい星をひとつ
                食べてしまったことを



                猫が水たまりの月と何かお話している

                朝まで眠らない、都会の路上で
                猫が水たまりの月と何か、お話している
                「ニャーゴ」と、月にお話すると
                水たまりの中で、魚たちが泳ぎだした
                「ニャーゴ ニャーゴ」と、お話すると 
                水たまりの中から、森のいびきが聞こえた

                突然、酔っぱらいの足が、
                「バシャン」と水たまりを壊したかと思うと、
                猫は急いでどこかへ逃げていった
                フニャフニャになった月は、ようやく元にもどって
                「ニャーゴ ニャーゴ」と、鳴いている



                えんぴつ削り

                朝起きると僕はえんぴつ削りになっていた
                2cm四方の四角い旧式のやつ
                どうして僕がえんぴつ削りになったかはわからない
                妹は僕の穴にえんぴつを突っ込んでガリガリ削っている
                僕は木屑をせっせと吐き出し
                次から次へと妹のえんぴつを削っている
                汗をびっしょり掻いて僕の一日は終わった

                だけど、えんぴつ削りもまんざらじゃない

                               

                二等辺三角形

                一辺から長い坂を登っていき
                一辺から急な坂を下っていく
                すると僕は底辺の分だけ前に進んでいた
                いつでも遠回りは楽しい



                落とし物

                電車の中で星が落ちていた
                僕は急いでポケットの中に星を入れて帰った
                星は今でも僕の部屋に浮かんでいる



                牛ガエル

                もう何年も聞いていないあいつの声
                昔、家の裏にため池があって
                夜になると「グルル グルル」と鳴いていた
                大きなあいつは、まるで戦車のようだった
                 林を撃ち  子供を撃ち  
                 月の夜まで撃っていた
                
                今では大きな道路が走り
                牛ガエルの物語は終わってしまった
                まさか、本気であいつを撃つなんて



                お風呂

                お風呂につかっている僕は
                まるで北極の海に浮かんだ氷山のよう
                頭と肩を、ちょこんと出して沈んでいる
                熱くなったら「ザバァー」と立ちあがって
                髭などそって、また氷山になる

                それにしても北極は、なんてあったかい



                石鹸

                石鹸は、うんと白いのがいい 
                うんと泡立って、ブクブクなるのがいい
                お腹の中もブクブクしたいから
                僕は石鹸ひとつ食べちゃった

                すると、海の底でいつのまにか
                僕は真っ赤な蟹になっていた
                ワカメさんに聞いてみたらば、
                 「あなたも石鹸食べたのね。」
                太刀魚さんに聞いてみたらば、
                 「私も石鹸食べたのです。」


                
                お風呂のフタ

                お風呂にフタをするのは
                お風呂がおしゃべりだからです
                今日一日あったことをまた1からしゃべってしまわぬように
                お風呂にはちゃんとフタをするのです
                そうして朝になると
                お風呂は全部流してくれて
                また今日一日が始まるのです
               


                月の裏側

                月の裏側には何がある
                天文学者は、
                 「太陽の影がある」と言い
                心理学者は、
                 「兎が二匹、休憩している」と言う
                歴史家は、
                 「アメリカとソビエトが棄てた、人工衛星のごみがある」と言い
                物理学者は、
                 「引力を引くための、大きな滑車がある」と言う
                
                わからなくなった僕は、外へ出た
                ふと夜空を見上げると、月がヒラリとひっくり返った
                 「なんだ、そっか」
                僕は、もう少し夜道を歩いた



                何でもないということ

                何でもないということ
                 痛くないということ
                 空が青いということ
                 両手で水をすくっているということ
                 子供が路上で走っている、ということ

                何でもないということ
                 海がさざなむということ
                 家族と一緒にいるということ
                 チョコレートが甘いということ
                 朝がくる、ということ

                何でもないということ
                 歌が聴こえるということ
                 グレープフルーツが香るということ
                 額の汗をふいているということ
                 鳥が水を飲んでいる、ということ

                そして、何かがあるということ
                 地球が欠けてしまったということ
                 僕も欠けてしまったということ
                 君の声が聞こえなくなってしまったということ
                 気付く、こと

                何でもないということ
                 それは、全てがある、ということ



                夕日があんまり赤いので

                夕日があんまり赤いので
                目にしみて痛いのです
                心も真っ赤に腫れ上がり
                地平線に溶けてしまうのです
                
                赤よりも赤い夕日
                夕日よりも赤い気持ち

                僕はこの影と一緒に歩いていくのです
                遠い遠い僕の中へ
                童歌がどこからか聴こえてきます
                夕日があんまり赤いので
                まぶたを閉じても赤いのです



                捜索願い

                海が海から消えちゃった
                山では、葉っぱ達が「たいへん、たいへん」と困り
                川では、ザリガニ達が「あらら、あらら」とあわてた

                僕は、今日も学校が終わって家に帰った
                すると、引出しの中に、海がいた
                「……」
                もう一度、見たらば、やっぱり海がいた
                少しの間、僕は考えた
                みんなには悪いけど、しばらくのあいだ黙っていることにした
                海の捜索願いは、まだ掲示板に貼ってある



                喫茶 あるく

                「あるく」という喫茶店で
                僕は、コーヒーを飲んでいる
                いつものように、新聞を読みながら
                いつものように、テレビの音を耳にしながら

                一杯のコーヒーを飲み終え
                350円支払って、外へ出た

                すると、今夜はイタリアの石畳の上だった



                夜風

                今夜は馬鹿に夜風がきつい
                あんまり強いので、夜風は僕の家をひっくり返した
                ひっくり返して ひっくり返して 
                朝になったら、太平洋の真ん中にいた
                それにしても、もう働きに行く時間だ



                時間を売る男

                「時間はいらんかえ。どんな時間も取り揃えてありまーす。」
                男は、たくさんの時計を鞄に入れて、歩いていた。
                「ひとつ、いただこう。どんな、時間がある?」
                「はいはい、お客様の今までの時間、全て揃えております。
                 えっと、、お客様ですと、、、はいはい、
                 小さい頃、船に乗った時間
                 二十歳のとき、夢中で本を読んだ時間
                 ニューヨークへ行ったとき、お茶を飲んだ時間、、、、。」

                僕は、「幼稚園のころ、バスを待っている時間をひとつ。」と注文した。
                すると、男はポケットから腕時計をひとつ取り出し、
                「270円になります。ありがとうございました。」と言って、歩いていった。
                僕は、その腕時計をはめてみると、たちまち影が縮んでしまった。
                そう、僕は270円分、幼稚園のバスを待っていた。




                夜にひなたぼっこ

                月の光でひなたぼっこをしていたら
                誰もいない遊園地の観覧車がゆっくり回り始め
                交差点では道化師がトランペットを吹き始め
                水槽の金魚は「ポチャン」と宙返りをし
                藍色の海は得意の歌を歌い始めた

                青い光が僕のおでこに降りかかったとき
                世界はゆっくり動き始めたのです



                ビルヂング

                ビルを建てよう
                コンクリートも鉄の棒も使わない大きなビルを
                僕たちの胸の中、いくつもいくつも
                色を塗って、木を植えて、鳥を放そう
                僕たちのビルは決して壊れない
                根っこを生やして立っている
                僕たちのビルはどんどん大きくなる
                光を浴びてのびていく
                いつの日か屋上に上って見てみたい
                どこまでも続く、たくさんのビルヂング




                パントマイム

                僕の影が、突然パントマイムを始めた
                僕も急いでマネをした



                頭の上にギターをのせていると

                頭の上にギターをのせて歩いていると
                頭の上にお花畑をのせた女の人が通り過ぎていった
                しばらくすると
                スカートが水族館になった少女が通り過ぎていった
                しばらくすると
                帽子がスペインの空になった男の子が通り過ぎていった
                しばらくすると
                キツネうどんを頭の上にのせたおじさんが歩いていって
                しばらくすると
                お腹が湖になった犬が通り過ぎていった

                そしてついに道がなくなり後ろを振り返ってみると
                いろんな形をした僕の影が地平線まで伸びていた
                頭の上にギターをのせて歩くのは本当に楽しい



                星が咲く

                蝋梅(ろうばい)の枝
                黄色い星が咲いている
                銀の風が吹いたなら
                夜空に飛んでいくんだろうな
                チンチラ、ホラホラ雪だろか
                降りる白色、昇る黄色
                銀の風なら知っている
                誰もがみんな星になる



                小舟

                小舟に寝ころんで
                僕はいつのまにか眠ったらしい
                瞼を開けてみると
                僕は空の上に浮かんでいた
                小舟にはもう一人の僕が寝ているのが見える
                僕はどっちに帰っていったらいいんだろう
                ゆらーりゆらゆら舟の上
                ゆらーりゆらゆら雲の上



                電話線

                電話線は君の声を運んで
                僕の家に来る
                電話線は僕の声を運んで
                君の家に行く
                行ったり来たりしているうちに
                どこか違う家に間違えたりしないのかな




2005年2月27日 三重県宮川村で行われたワークショップで
絵たちを見ながら、即興で書いた「詩のようなもの」UPしました。


2005 7.9に行われたワークショップ
「君にしか描けない絵がある」
の模様UPしました。


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