<フロリダ州マイアミでケナフが帰化>

 情報提供者はKathy Burksと言う方で、FLORIDA Department of Environmental Protection のBureau of Invasive Plant Managementに所属するBotanistです。

メールその1(帰化の報告)
メールその2(帰化した場所の環境について)
日本での帰化の可能性についてのコメント(小南陽亮:森林総合研究所九州支所・暖帯林研究室)
日本での帰化の可能性についてのコメントその2(山本聡子:(財)上越環境科学センター・環境調査課)


Hello Sayoko,
You are correct to be concerned about the spread of kenaf
(H. cannabinus) such that it displaces your native plant species
or becomes an agricultural weed.


It is a common weed of arable lands in tropical Africa, India, and parts
of SE Asia, and is considered an economically important foreign weed
i n the U.S. A 1977 weed handbook from the U.S. Dept. of Agriculture
notes that it is a "weed" also in Okinawa.

Here in Florida, it is only known as an escapee from cultivation in
Dade County (the highly populated county that includes Miami).


You will need to watch for it turning up on its own outside of
where it is being cultivated.
And surely there is a beautiful
Japanese plant species that could be used instead for the
fast-growing "green effect" that people want.


Kathy Burks, Botanist
Bureau of Invasive Plant Management
Fla. Dept. of Environmental Protection

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I don't have the herbarium label to look at, but it is said to be in
"open disturbed sites" in the Miami area, which would mean
that it does well in sunny, well-drained places where the soil
is disturbed.


This makes sense since it is a coarse annual herb (relying on seed
fall and soil disturbance for regeneration). This plant is from tropical
Africa, so it may not escape as easily in cooler-climate Japan.

However, any introduced species that is a problem is usually one
that
adapts to a wide range of conditions.
Keep an eye on it, and please encourage the use of native plants.

Cheers,
Kathy

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 Kathyさんの情報を拝見しました。ケナフが帰化する可能性について考えてみましたので、お答えします。

 Kathyさんの情報をまとめると、マイアミ一帯の日当たりと水はけが良く、土壌撹乱を受けたような場所にケナフが帰化していることがあるということですね。

 マイアミあたりの気象は、日本の暖温帯〜亜熱帯域(西日本〜南西諸島)に気温では類似しているのですが、降水量が半分ぐらいしかありません。地形は大部分が平地で、立地条件としては単調です。そのため、日本の照葉樹林と似たタイプの森林も成立しているのですが、種組成は日本より単純になっています。また、人為的な撹乱や野火も多い地域で、多分そのような場所でエスケープすることがあるのでしょう。

 Kathyさんは原産地より気温が低い日本では簡単にはエスケープしないだろうと述べておられますが、これは東日本の気候(冷温帯)をイメージされているからだと思います。日本の気候がケナフにとって成長困難なものでないことは、品種改良もしていないのに各地で栽培に成功していることからみて明らかです。

 そこで、以下の条件がクリアされると、帰化する可能性が高いということになります。
 (1)種子をうまく生産できる。
 (2)種子の発芽条件を満たす環境がある。
 (3)発芽直後の幼個体(実生)が定着できる。


 ケナフの種子生産・発芽特性や更新に関する研究例を知らないので、以下は一般論 から考えられることですが・・・・

 (1)について
 1年生草本で良好に成長できるならば花もつけるはずですので、ポリネーション(送受粉)の成否が第一関門となります。目立つ花をつけて蜜腺もあることから虫媒か鳥媒と考えられますので、他家受粉には花粉媒介者となる動物が必要です。ただし、自家受粉で種子をつける可能性もあります。

 次に、受粉に成功しても、生育条件が悪いとabortionを起して種子が成熟しません。長寿命の樹木では気候条件が悪い年にわざとabortionを起すことがありますが、1年生草本ではそれは考えられません。

 以上の点がクリアされるか否かは、野外で栽培されているケナフが健全な種子をつけるか否かをチェックすれば、大まかには確認できます。

 (2)について
 Kathyさんの情報から判断して、ケナフは嵐や竜巻、野火、洪水、地滑り、伐採や開発行為などによって植生が撹乱された場所に先駆的に侵入できる植物のようです。このような植物の種子はしばしば強い休眠性をもち、発芽条件がかなり限定的です。撹乱が発生するまで長期間休眠し、撹乱時の環境変化(地温や光条件の変化)に反応 して一斉に発芽するのが有効な繁殖戦略だからです。

 ですから、自然環境下で種子がなかなか発芽しない場合でも、帰化の可能性が無いとは言えません。無秩序に蒔かれた種子が長期的に休眠し、ちょっとした環境変化で一斉に発芽することもありえます。日本の自然条件下でケナフ種子が発芽するか否かは厳密には発芽特性を実験的に調べてみないとわかりませんが、マイアミの例をみても、普段は冠水せずに乾燥している河川敷、荒れ地、土木工事の後などでは発芽条件がそろう可能性はあると思われます。

 (3)について
 日本の環境下でケナフ実生が定着できるかどうかについては、予想できません。発芽後のプロセスには生理的な要因だけでなく生態的な要因(他植物との競争や植食者の影響など)もからんでくるからです。帰化の可能性を検証するには、例えば河川敷 などにおいて在来種もある状態で実生の生残・成長を観測する必要があります。

 ただ、先駆的な一年生草本ですので、発芽してしまえば一気に成長して繁殖する可能性は十分あります(実際、そういう特性が注目されて、CO2吸収能が高いと称されているのですから)。

 私から帰化の可能性についてコメントできることは以上です。帰化の可能性については、ケナフを推進している団体の方に検証を行う責任があるはずですが、科学的な検証はしていないのでしょうね。

 帰化の可能性の有無にかかわらず、在来植生を破壊してケナフを植栽することには、通常の土木工事等に対して法的に義務づけられている程度の環境影響評価が最低必要なはずです。すなわち、ケナフ推進団体が行っていることは、環境アセスメントもせずに無許可で開発行為を行うことを一般市民に奨励しているようなものです(しかも、環境保全に役立つと称して)。もしケナフ帰化の可能性が無いとしても、この点が問題であることにはかわりません。
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  小南陽亮(KOMINAMI, Yohsuke)
  森林総合研究所九州支所・暖帯林研究室
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メールの内容から考えると、
> This makes sense since it is a
> coarse annual herb (relying on seed fall and soil
> disturbance for regeneration).

「攪乱依存の、通常の一年生草本である」ということですから、おそらく種子は休眠状態で散布され、埋土種子集団に加わって発芽条件が整うのをじっと待つのではないかと思います。ということは、散布された種子が翌年すぐに発芽しなくても、忘れた頃にいっせいに発芽する可能性がある、ということです。

 発芽可能な種子が日本でも結実しているのなら、その発芽率がいくら低くても「帰化する可能性は低い」とは言い切れません。ケナフの「一晩水につけないと発芽しにくい」性質から考えても洪水により既存の植生が流された河川敷で、水が引いたあとにいっせいに発芽する可能性が十分にあります。梅雨の増水のあとなら発芽条件20度Cもクリアされているでしょう。

 山本聡子((財)上越環境科学センター 環境調査課)


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