「ケナフによる環境学習の誤り」(九州大学理学部生態科学講座教授 矢原徹一)
「ケナフの生産性」は本当に高いのか(藤井伸二:大阪市立自然史博物館)


「ケナフによる環境学習の誤り」

九州大学理学部生態科学講座教授 矢原徹一

 ケナフは「二酸化炭素固定効率が良い」という理由で、環境にやさしい植物として宣伝されています。しかし、この説明は、二酸化炭素問題の本質を見誤らせるものです。

 二酸化炭素問題は、地球上に森林・石炭・石油などとして、固体(あるいはそれに類する状態)でストックされていた炭素が、森林伐採や化石燃料の使用によって気体化し、その大気中の濃度が増加し続けていることから生じています。したがって、その対策は、大気中の二酸化炭素を再び固体に戻す以外にありません。

 その一つの方策は、植物による二酸化炭素の固定です。「二酸化炭素の固定」というと何やら難しく聞こえますが、要するにそれは「植物が成長すること」です。植物は、二酸化炭素から炭水化物を作って成長するのです。植物体の大部分は炭水化物ですから、どれだけ固定されたかは、植物体の大きさ(より厳密には乾燥させて量った重さ)で簡単に判断できます。

 つまり、植物体が大きいほど、炭素のストックは大きいのです。この判断規準から、ケナフの畑と森林とで、同じ面積あたりどちらがより多くの炭素をストックできるかは明らかです。小学生にも、きちんと説明すれば必ず理解してもらえるはずです。「炭素のストック量」で、「環境にやさしい」程度を量れば、ケナフ畑よりも森林の方が、間違い無く環境にやさしい。

 ケナフによる環境学習は、「二酸化炭素問題の解決には、森林をいかに増やすかが重要だ」という肝心要の点を教えず、「ケナフ」という「理由はわからないけど先生が環境にやさしいと言っている植物」への信仰を植え付けるだけだと思います。

 ”自分たちの植えたケナフが地球を救う”ではなく、”自分たちの植えたドングリが地球を救う”で、どうしていけないのですか。その土地にもともと生えていた樹種を使って森林を復元していくことが、環境教育としても、また炭素のストック量を増やす意味でも、ケナフ栽培よりはるかに有益です。子供達に間違った夢を与えないで下さい。

 ケナフが普及する中で、その土地にもともと生えていた植生を剥いでケナフ畑を作っている場合があると聞いています。これはばかげたことです。もし校庭の木を切ってケナフを植えたとすれば、炭素のストック量は減ります。それは、きびしく言えば地球環境の破壊を促進する行為です。

「二酸化炭素固定効率が良い」という説明にまどわされないでください。問題は効率ではなく、炭素のストック量(植物の現存量)なのです。いくら固定効率が良くても(成長速度が早くても)、植物体の現存量が小さいと、それだけ炭素のストック能力は小さいのです。だから、二酸化炭素問題への対応策として、ケナフは木に劣ります。木が育たないような環境なら、ケナフを植えることも一つの選択肢として有効です。しかし、日本は木が育つ気候の下にあります。日本列島は本来、森におおわれた土地だったのです。ケナフに頼らず、木を植えましょう。

 なお、紙をつくるという教育のためなら、私は日本にもともと野生する多年草である、カラムシを奨めます。成長速度も、ケナフと比べそれほど遜色はありません(草丈はケナフより低いけど、地下茎を作りますから、その分の成長を考えに入れてください)。さらに、カラムシは多年草なので、冬期にも地下茎によって炭素をストックしてくれます。ケナフは1年草なので、ケナフによる炭素固定は一時的なものです。

このページのトップにもどる


「ケナフの生産性」は本当に高いのか

藤井伸二(大阪市立自然史博物館)

 生産性は気候,土壌などの諸条件で大きく変化することに注意.二酸化炭素の吸収だけなら,水草がダントツのようです.でもすぐ分解してしまうので,削減に結びつかないけど・・・.

ホテイアオイ 200t/ha・year以上(栽培条件下,たぶんギネスブックもの)
ガマ 45t/ha・year(ヨシなんかもだいたいこのあたりだろう)
パピルス 19.8〜24t/ha・year(この値は非木材繊維の集荷量,たぶん葉の重量が入っていない)
ケナフ 7.4〜24.7t/ha・year(この値は非木材繊維の集荷量,たぶん葉の重量が入っていない)
オオブタクサ 16.4t/ha・year

 感想:ケナフの生長は,日本のような温帯地域ではオオブタクサくらいの程度と考えたらいいのかもしれない.

 ちなみに,群落別の順位は,以下の順になる。

抽水植物群落 (30〜80t/ha・year)
熱帯林 (40〜60 t/ha・year)
温帯林 (10〜40t/ha・year)
草原 (10〜35t/ha・year)

 まぁ,生産量なんて栽培条件なのか自然群落なのかで全く変わるものですから,比較する際は慎重に!
 森林(アカマツ林とか)とケナフを比較すること自体,自然群落と栽培植物を比較しているという愚を犯していますよね.

<参考文献>

●Arnold H. Pieterse & Kevin J. Murphy (ed.) 1990(paper back 1993). Aquatic weeds -the ecology and management of Nuisance aquatic vegetation. Oxford Univ. Press.

●鷲谷いづみ.1996.オオブタクサ闘う-競争と適応の生態学.平凡社.

このページのトップにもどる


「ケナフで温暖化は防げない!?」のトップへ           What' newへ