「生」を考える場所

 

 

あたしはただ居なくなりたくて
それは元々
ここに居なかったことにしてしまいたいということで
だからそうなるよう
そういう措置を取ったの




自分を傷つけてしまったから
血が流れてしまった
何故血は赤いのかと考えながらじっと見てたら寒くなった
開いていた好きな本の上にそれは流れて
寒さが眠気に変わる




なんて心地の良い孤独なのかと
そう感じたような気がして
あたしは居なくなったような気がした
”もうすぐ居なくなれると思った”
今まで持ってた
重たい重たい孤独じゃなかった




暫くすると
寒くなくなっていて
白いカバーの毛布が
ツンと匂った




よくわからなかったけれど
あの心地の良い孤独は
まだほんわりとあたしの身体に残っていて
乳房がとても小さくなったような気がした




誰かが隣にいて
今までにない優しい目が其処にあったので
”これはあの人じゃない”と思ってしまったほど
人のしたことで
こんなにも目が変わってしまうほど
受ける影響ってあるのかしらと
孤独がまた少し重たくなった




「少しゆっくりさせてあげる。あなたは考え過ぎるから。」




そう云われて
あたし何を考え過ぎたのだろうと思った
死について?
生きることについて?




どっちを考え過ぎたのか
生きることについて考え過ぎると
人は死を思いつくなんて
ちょっと不思議だと思って
これも不条理と云えるのかしら





促されて
あたしはいつも促されっぱなしで
人があたしの運命や行く末を
決めるがままにさせている
抵抗しようと思わなかったし
なんだかその行く先には
人が決めたことだけど
何かがあると思った

 






車に乗ってどんどん市街を離れて
だんだん緑が揺れてたわわな道に変わる




太陽は美しくて優しいと思った
それほど其処に絶対的に在った
葉っぱの隙間に分散された太陽が輝きになって
そういう風にしか見なかったのに
其処に確かに在ったの




そのせいで
あたしは錯覚してしまったらしくて
この先ずっと絵を描いて生きてゆけるのだと
そう確信した




偽りを確信した




あの太陽は何処にも無くて
プラスチックの椅子が冷たい




一つ二つ何かを訊いたその人は
白い上っ張りを掛けていて
優しい眼差しの奥の
”人は皆狂人だ”と訴えかけているあの目
それをあたしは見てしまった
この人の心の奥は
コールタールの結晶の層が
ひどく厚かった




「ここに暫く居るといい。
あなたの本意でなければ強制ということで。
それでは行きなさい。」




それでは行きなさい




一緒に居たと思ったのはお母さんだったけれど
いつの間にかその姿は消えていて
心地良い孤独も消えた
絶対的な孤独?
強制的な望まない孤独
あまりの孤独
あたしはひとりだということ





それでは行きなさい




孤独よりも重たい鉄の扉が下りて
全てを支配して勝ち誇っている鍵が
傲慢そうにジャラジャラ鳴って
あたしの新しい部屋は閉ざされた
太陽が
今度は格子越しに分散してる






みんなが消えて
あたしは閉じられた
あたしは閉じられた
あたしは閉じられた







分散してしまっているのに
確かに其処に在ると思い起こさせるような
そういう風にあたしも
生きられるのかしら




この扉が緩んで
あの傲慢な鍵を 
もっと傲慢な目で見下ろすように




優しすぎてはいけない
あの白衣の人は
そう云った

 

 

 

 

 

Photo by Noi


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