〜精神療法を考える〜 旭川支部4月定例研究会の報告

大村 和彦

日 時: 平成17年4月24日(日曜日) 午前10時〜午後2時30分
会 場: 旭川市5条4丁目「旭川市ときわ市民ホ−ル 研修室304」
会 費: 1,500 円 
出席者: 27名

10:30 研究会 「患者が本心から心を開くことの出来る精神療法を考える」
演 題: TA理論とMGコ−チングによる実践的ストロ−ク
講 師: 有限会社北海道井泉代表取締役社長  伴 野 忠 孝 先生


TA(交流分析)

TAとはトランザクショナル・アナリシスの略で、アメリカの精神分析医エリック・バ−ン博士により開発された新しい臨床心理分析システムとして、アポロ計画の宇宙飛行士や、ベトナム戦争からの帰還兵の精神療法に用いられたことで知られています。

日本でTAが紹介されて10年余りですが、今やTAはふれあいの心理学として、医療だけでなく、職場や学校、家庭など、広く一般社会から受け入れられる存在となっています。今回は、TAの研究と実践で社内を活性化し生産効率を高め、急速に事業を拡大している注目の経済人から、TA理論とそのノウハウを学びました。

私たち臨床家にとって、患者さんと信頼関係は治療効果を左右する大きな要素ですが、TAでは、それを築くために何よりも自己および他者の存在を認めるための働きかけを重視しています。その働きかけを精神分析学的に「ストロ−ク」と呼ぶそうです。

私たちが日々行なう治療は、患者さんの身体に直接触れるため「肉体的ストロ−ク」としてとても大きな働きかけになるそうです。また、患者さんに挨拶をしたり、微笑みかけたり、話しかけるという働きかけは「精神的ストロ−ク」として重要な意味を持つそうです。

人間は誰しも、自分の存在を認められたい、人と触れ合いたい、という欲求を持っているということ、人間だけが「生存本能」以上に「所属の本能」を優先するというアドラ−の研究で有名です。つまり人間がそれなしに生きてゆく事はとても困難なのです。

例えば、幼児期に「抱かれる」という肉体的ストロ−クを受け損なうと、母性愛欠如症候群として、脊髄萎縮を起こし、発育不全や知的障害を発症したり、十分なミルクを与えられても死亡するケ−スがあるということは医学的にも実証されています。

講演では、エゴグラムという性格分析法を用い、一人一人、6つに分類された自我状態を知り、無意識領域の自己分析を試みました。(具体的な内容と資料は、企業のバテントに触れるためここに記載する事は出来ません。ご了承下さい)

この構造分析と呼ばれる手法で、個々のパ−ソナリティ−を分析し、自分のプラス面とマイナス面に気づくことにより、自己変容や活性化が可能となるそうです。
(伴野先生から新たに、研究会のエコグラムで知った個々の自我状態を変容させるための具体的プログラムを頂戴しました。ここにでは公開出来ませんが、後日、聴講された出席者に郵送させていただきます)

つまり、人間同士の係わり合いの中で、ストロ−クを用いて健全な人間関係を築くために何よりも重要なことは、本質的な自己を知るということでした。

TAの狙いとは単なる心理分析ではなく、自己の持つ本質と本来の能力に気づくことにより、その能力の開発を妨げている色々な要因を取り除き、一人一人の人間が自らの可能性にむけていかに生きていくかを知ることだったのです。


MGコーチング

コ−チの概念が登場したのは1500年ころです。語源は「大切な人をその人の望むところまで送り届ける」です。コ−チがマメジメントの分野で使われ始めたのは1950年代で、マネジメントの主役である、人を生かすためにコ−チは重要なテクニックとして、ビジネスの分野で部下の育成や会社経営に欠かせない体系的手法として広く認知されているそうです。

マメジメントコ−チングの考え方は、相手の持っている可能性を本人の潜在意識に語りかけ、自発的な解決方法を探る手だてに役立てることなのだそうです。
元来は医療の分野で用いられていた手法なので、相手となる部下やクライアントを、患者さんという言葉に置き換えると、私たちが日々患者さんと接するための、また精神療法を行なうための心がまえとして治療室でそのまま実践が可能と思われます。

創始者のR・C・ロジャ−ズはこれを「積極的傾聴」という概念で具体的に説明しています。

<積極的傾聴のスキル>

  1. 傾聴はテクニックでなく心構えの問題・・単に聞くだけでなく、共感することの重要性
  2. クライアント(患者さん)が言おうとする意味を聞き、気持ちに答える・・話す事柄よりもその背後にある感情を理解し、感情的な意味の部分に対し伝え返してみる。
  3. 価値判断の保留・・自分自身の個人的な価値観や先入観を持ち出さない。また患者さんの言葉に批判や評価を下さず、その人独自の経験を理解する。
  4. 早急な結論を出さない・・相手に自分の考えを押し付けたり、指導しようという気持ちを抑える。
  5. 無知の姿勢・・相手に教えてもらう姿勢でじっくり聞き込む。
  6. 正しく理解しているかどうかを確認する・・患者さん言った事を繰り返し言ってみたり、自分が感じた言葉で言い返してみる。
  7. 患者さんの全体に気を配る・・声の調子、表情、呼吸、姿勢、手や目の動きなど、言葉だけでなく、非言語的表現にも気を配る。
  8. 自分に気づく・・自分の内面を客観的に理解する。

<効 果>

  1. 信頼関係が高まる・・自分を理解しようとする存在感を感じ、不安や悩みを分かち合える人がいるという安心感により、お互いの信頼関係が築かれる。
  2. 自己理解が進む・・相手の話を傾聴することにより自己洞察が進み、自分が変わる。
  3. カタルシス(浄化)効果・・胸の内に溜まっていたものを吐き出しすっきりする。この効果は患者さんの心にゆとりと自己受容をもたらす。
  4. 自己受容が進む・・コ−チが自分に関心を持ち、話を受け入れてくれるので、自己否定がなくなり、自分に価値観を見出すことができるようになる。結果、自己防衛的態度を捨て、新たな可能性や前向きなエネルギ−が生まれる。

ある意味で精神療法とは、治療における非技術的側面といえます。しかし自分の精神状態を満たしてくれる治療者への依存の容認を特徴とした医療行為でもあります。 実際、医学的知識や治療技術を持たない人に悩みを打ち明け苦しみから解放されるケースは、キリスト教の「懺悔」に限らず、日常生活においてそう奇異なことではありません。

MGコ−チングで用いられるテクニックは明らかにカウンセリング的手法といえます。心理学者の杉田峰康先生は「カウンセリングは、何よりもクライエントに安心感を与えるようにすることが必要です。それまでの緊張をはらんだ人間関係から解放されて、何を考えても何を言っても咎められずに受け入れてもらえるという、リラックスのできる質の高い人間関係を体験させてあげることなのです」と語っています。
長生医学では、精神療法そのものを「患者が本心から心の開く事の出来る治療師と患者の信頼関係を作る事に他ならない」と定義づけています。

感 想
MGコ−チングの蘊奥は「相手の話を聞く」、TAの蘊奥は「自分を知る」ということに尽きるようです。長生医学の概念の中にも、長生医学を行なうためには、まず自分の内面を知り、心の不安をなくさなくてはいけないということが記載されています。
こうした心理学の新しい理論が、長生医学の基本理念と一致することに、長生上人の偉大さを改めて感ぜずにはいられませんでした。

伴野先生には、通常1泊2日で行なう研修を2時間に凝縮して講義していただきました。
経済界注目の経営者の立場から実践を交えたお話しは参加者を魅了したようです。

伴野先生から研究会出席者へ届いたメールをご紹介します。

長生の皆様へ

24日には、大変お世話になりました。

日曜日という皆様にとっては貴重な休日に研修会を開催し、学ぶ皆さんの姿勢には心から
敬意を表します。

又、その大切な研修会の講師という大任を簡単に引き受けてしまった自分に反省もしてお
りました。しかし、研修が始まり時間が経つにつれ、皆さんの真剣な聴講のエネルギーに
私の方が引きづられながら、何とか最後までお話をさせて頂きました。

内容が私どもの飲食業としての話題が多く、皆様のお仕事にどれほどのお役に立つかが不
安でなりませんでしたが、皆さんからの愛情溢れるストロークを頂けましたことは、私に
は最高の贈り物です。
         
今回のTAの研修では、私の方がより多くの勉強をさせて頂きましたことに心から感謝を
申し上げます。
最後に、長生の皆様方のご健勝とご活躍を念じ、御礼とさせて頂きます。
ありがとうございました。


12:30 昼食  井泉のお弁当も多くの参加者を魅了したようです。


13:00 研究会 「医療改革最前線」
演 題: 世界における統合医療の展開と日本の教育研究の役割

新しい医学概念として世界の潮流となった第3医学への理解を深めるため、「日本統合医療学会JIM特別講演」の映像を交え、渥美和彦JIM代表の語る、統合医療の現状と未来、長生医学を含めた代替医療の将来について考察しました。

新たな医療改革として統合医療が拡大するにつれ、代替医療の大々的なスクリ−ニングが行なわれる事は必定のようです。今後、治療効果が薄く危険があると判断された医療は排除される運命にあるという現状を踏まえ、長生医学が日本の伝統医療としての地位を確かなものにするには、EBM概念に基づく科学的証拠の確立が不可欠であることを渥美教授は示唆します。つまりこれからの長生医学には、個人的な治癒体験だけでなく、よりエビデンスレベルの高い研究が必要とされることをこの講演で認識しました。

また、この中で渥美教授は多くの時間を割き、実例をあげながら「これから先、スピリチュアリティ−(霊性)を無視した医療は成り立たなくなってくる」と語っています。
そしてスピリチュアリティ−という概念を定義づけ、「将来医学は、哲学、宗教の問題と密接に結びついてくる」と断言しています。

スピリチュアリティ−とは、長生医学で言うところの「霊肉救済」の「霊」です。

この講演で、21世紀に主流となる第3医学の目指すものは「霊肉救済」であることが、渥美教授の言葉を借り明確な形となって現われます。長生上人が70年前に唱えた長生医学の根本理念は、来るべき医療システムを構築する上でも不可掘な要素だったことを知ることで、私たちは長生上人の偉大さを再認識することが出来ました。

交流分析で洞察した自分の心の中を、更に奥深く入っていくと、そこにはスピリチュアリティ−の世界が存在するといわれます。長生上人はそれを「それは本当の自分を知り、目に見えない仏に出会った自覚の体験である」と語っています。

そこに究極の精神療法があるのかもしれません。

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