心と疼痛
〜長生医学における疼痛と心身相関関係の考察〜

大村 和彦

W おわりに

 インタ−ネットで、平成10年度厚生省国民生活基礎調査の健康に関する項目を閲覧したところ、日本国民の有訴率(人口千対)は304.8で、平成7年の有訴率283.3に比べ、上昇していることが分かった。(表2)

 この中で目を引くが、有訴率の最も高い症状に、男は腰痛77.5、女は肩こり122.8といった筋骨格系疾患が1,2位を独占し(表3) 、受療率も呼吸器疾患を抜き堂々の第3位である。推定患者も2.500万人を超えたといわれ、前回の調査と比べ大幅に上昇し、その伸び率は生活習慣病に匹敵する。

 更に興味深いことは、筋骨格系疾患で医療施設に通院する人は、腰痛33.2、肩こり54.0で民間療法が病院を抑えトップ。その治療には毎年、推計2兆円が費やされているという。我々が力を尽くしているにも関わらずこれは由由しき問題である。

 急性腰痛の患者各々1.500名が、整形外科専門医、プライマリケア医(地方の診療所で内科からお産まで全ての診療科目に携わっているお医者さん)とカイロプラクタ−に治療を受けた場合、その回復率に全く差がないという調査結果が出た。また治療開始から6ヶ月経過しても各々30%予後が芳しくなかった。この治癒しなかった30%に重要な意味が隠されている気がする。(但し「成人の急性腰痛治療ガイドライン」では、現存する治療法の中で、マニピュレ−ションは急性腰痛に効果的だという勧告を出している。)

 この調査における3群に共通する事は、急性腰痛の原因を、脊椎や筋肉の構造異常(医学的に科学的根拠の認められていないサブラクセイションも含む)でのみ捉えているところにあるのではなかろうか。ここには当然ながら長生療術師のデ−タは含まれていないが、我々とカイロプラクタ−が決定的に違うのは、筋骨格系疾患を脊椎の構造異常という単一原因論で捉えていないことである。脊椎矯正同様、信心に基づくプラナと精神療法が、脊椎へのアプロ−チだけでは治癒しない残り30%のぎっくり腰にアプロ−チするのではなかろうか。但しこの数字は対象を急性腰痛に限定している事を忘れないでほしい。その対象を慢性腰痛や肩こり、関節痛、などもっと複雑な要素の連鎖する筋骨格系疾患に置けば、非治癒率が更に上昇することは明白と思われる。それは私自身、脊椎の構造異常のみを治療対象としていた時、治癒率が大幅に下がった苦い経験から実感出来る。

  この原稿を作成するにあたり、様々な文献、論文に目を通し、多くのWebサイトから検索、照合したが、調べれば調べるほど、学べば学ぶほど、まるでベ−ルを剥ぐように長生医学の正しさが証明されていくのは驚きであり喜びであった。この原稿で私が長々と述べた事は、精神療法のほんの一面をすくい上げたにすぎない。精神療法の根底には「信仰」というとてつもなく深遠なテ−マが待ち受ける。その奥深さは長生上人の偉大さを実感するに十分である。

 精神療法をまとめるだけで、少なくとも百科事典数冊分の容量は必要になろうが、今回参考にした文献の中で「新長生医学」ほどこの問題の核心をつき、簡潔的確に知らしめてくれる文献はなかった。このような素晴らしい文献を我々に授けてくれた、著者である長生上人、柴田正義博士、柴田修伽先生、と諸先輩に心から感謝するとともに、未熟な私にこのような機会を与えてくれた学術研究部、北長連会長と会員、そして義父である大村基實にお礼を述べ、おわりの言葉とする。

 


参考文献

  1. 柴田純宏、柴田正義、柴田修伽:新長生医学
  2. 柴田純宏:長生医学上巻基礎編
  3. 柴田純宏:長生医学下巻臨床編
  4. 柴田正義、柴田修伽:長生健康読本
  5. 五島雄一郎:内科必携
  6. 仁冨彌:小整形外科書
  7. 米国厚生省ヘルスケア政策研究局:成人の急性腰痛ガイドライン
  8. ワイル・アンドル−:癒す心・治す心
  9. 川村則行:自己治癒力を高める
  10. 口義臣:腰痛症の疫学、整形外科MOOK
  11. ケン・ウイルバ−:意識のスペクトル、グレ−ス&グリット
  12. 加茂祐樹:腰部伸筋群の筋内圧と筋血流量との関係
  13. カ−ル・ユング:無意識の心理
  14. 小此木啓吾:フロイト
  15. 西村書店:体の構造と機能
  16. フロイト:ヒステリ−の研究
  17. 箕輪良行:医者患者関係の自記式スコアによる行動科学的検討
  18. 総合医学研究会:慢性疼痛の概念とその問題点、逆転移、変形性膝関節症の治療法ならびに症例にみる緊張性筋炎症候群理論、その他、論文、会報
  19. アラン・ウォルタ−ズ:ヒステリ−痛と呼ばれる心因性限局痛
  20. 塚原純博士:整形外科と災害外科
  21. 平成10年度厚生省国民生活基礎調査
  22. スティ−ブン・ロックとダグラス・コリガン:内なる治癒力
  23. 菊池臣一:臨床整形外科、腰痛をめぐる常識のウソ
  24. 安徳恭演:しびれ
  25. ジョン・サ−ノ:Healing Back Pain
  26. 長谷川淳史:腰痛は<怒り>である

その他、新聞切り抜き、雑誌、インタ−ネット、参照の資料多数

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