S君のケ−ス :  上田 義博

私は、青春時代をサッカ−一筋に過ごしました。
大学は「道都大学」。Jリ−グにも選手を送り出し、毎年「天皇杯」にも出場している、北海道最強のサッカ−部出身なのです。私はそこの初代キャプテンでした。今も道都大学サッカ−部のOB会長を務めています。今年も大学の卒業式に出席し、頼もしい後輩達に精一杯のエ−ルを贈ってきました。

そんな関係もあってか、私のもとには多くのサッカ−人たちが治療に訪れます。
その中で、ちょっと気になった患者さんの話しを聞いてください。
「池の中の蛙」「灯台元暗し」等、我が家の小学校二年生の息子は、毎日ことわざを憶えては自慢げに話し、私達が意味を聞くと、何と!しっかり正解を答えてくれます。息子に聞くと強制ではなく、毎日、先生が楽しく少しずつ教えてくれ、自分で気が付くとかなりの数を憶え、大人の知らないことわざも話せる為、七才にして優越感に浸り、今は自然に楽しさの中で知識を増やしている様です。(ちなみに五年生の姉は毎日かなり悔しい思いをしています)。

私達の健康状態は喜怒哀楽を繰り返し、どの状態も長時間、又は慢性的に持続すると健康バランスを崩壊させてしまいます。これは怒哀ばかりでなく喜楽であっても同様です。

ここで紹介する症例は、仮にSoccerからSを頂きS君とします。S君の場合、高校進学を機に本当に大好きなサッカーで道内最高レベルを目指し(全国上位レベル)、飛び込みました。しかし現実はレベルの違いを痛感し、体育会系独特の縦社会(上下関係)に悩まされ、心身共に今まで経験のした事の無いダメージを受けてしまいました。おそらく温かい愛に包まれた実家から自分の希望した事とは言え、いきなりの体育会系の寮生活に戸惑い、自分の抱いていた意欲が…ハァー、フゥ(溜息)。

おそらく温かい愛に包まれた実家から自分の希望した事とは言え、いきなりの体育会系の寮生活に戸惑い、自分の抱いていた意欲が萎えて行き、心身共にかなりのダメージを自身の自覚の無いままに受けてしまったのでしょう。

本人はおそらく身体の不調以前に自分のブレーに対し、何故だ?どうして?と、俗に言う<スランプ>状態か、位にしか感じていなかったのではないでしょうか。しかし!この時には既に正常な神経系の働きは、所々で失われつつあり本来のプレーは影を潜め力を出し切れすに、さらに自身に対し強いジレンマを感じ出し自信を失いながら徐々に心身の健康を損なっていったと思われます。

私達も経験があると思います。朝、身体がだるい、寝付き悪く、熟睡が出来ない、まさに活発に働いてくれるべき神経系にブレーキが掛かった状態です。これではS君ばかりでなく、一流のアスリートであっても確実視されていた金メダルを逃してしまう残念な結果を招いてしまっているのです。
その後の対処、解決、答えを見つける前に、私自身の同様の経験を述べさせて頂きます。  
その昔…、サッカー少年だった私はとにかく仲間に恵まれおり練習が楽しくてしょうがなく、今では考えられませんが疲れ知らずで、一日に三試合こなした事もありました。その当時、私は個人では常にチームで最高のブレイヤーである自覚を持ち!と、言うより意識を常に持っていました。より高い意識を持つ様、努力していました。

そのひとつがイメージです。夜、布団に入りキックオフからボールの動き、試合展開を最高の状態でイメージし、全く相手にボールを奪取される事なくゴールしてしまう事を当然に毎日考えていました。その事はごく当たり前に何通りも自然と増えて行き、今考えると試合中の瞬間の局面の打破、FKの奇麗なカーブを描いての成功、そしてPKの成功への自信へとつながり、いつのまにか自分が自分の理想のプレイヤーへと変貌を遂げて行きました。(実際、練習以外でのPK失敗は生涯で2回だけです!ハッハッハァー!)

チームメイトにはスピードではかなわない!決してサッカーは上手くないのに得点を量産するサッカーセンスの抜群に良い者!逆に真面目に練習をし努力を惜しまず芽が出ない者!練習はしないのに試合では欠かせない存在の者!等、多種多様な人間がいますが、何かひとつ、これだけは相手に負けない自信を持つ事が必要です。
私は何処に行っても自信がありました。が、しかし!そうは言う私も高校時代に他校と合同チームを結成し国体予選に挑もう!となり我がチームから数名選出され練習へと自信に胸を膨らませ出掛けて行きました。

が!身体が動かない(ボールが足に付かない、息が切れゼーゼー状態で全く回復出来ない)、思い通りにボールを蹴れない、止められない、ハアーァ!これじゃ!サッカーになりません。それ所かチームと私を選んでくれた監督に迷惑をかけてしまうと考え立ち直るキッカケを模索しましたが焦れば焦るほど華麗なプレー(本当です)は影を潜めました。そんな時にも関わらず、なんと監督(当時、合同チームなので相手方のです)はレギュラーチームで使い続けてくれたのです。

そしてその裏には我がチームの監督が相手監督に私の起用を進言し続けてくれたのでした。ウゥーッ!泣けてくるなぁー!有り難う!しかし、この監督の行為(私への信頼)が、私をスランプから解き放たせてくれました。
今、考えると冒頭に話したS君状態でした。それは練習場、回りのメンバー等、環境の変化、それに一番は合同チームになり、監督が代わり私自身が戸惑ってその場の環境に適応出来なかったからではないでしょうか。それを助けてくれたのは相手監督が使い続けてくれた事と、その裏には、監督が私を<信頼>し進言してくれた事です。

私達は日々、様々な環境の変化に、ごく自然に対応し肉体的にも精神的にも実に上手く適応しながら生活しています。しかし!その適応力が薄れた時に!即ち!身体を支配している神経系のバランスが崩れて来た時に様々な異常を来し危険信号を発します。不調時には日々の生活に追われながらも、素直に察知しまず、不調を自身で認識します。そして何故(原因、キッカケ)、分からなければ、何時からか(症状の出始め)を考えて見る事が大切です。そうすると答えが見えて来る筈です。そして自分自身に言い聞かせて下さい。「今の症状はそのキッカケや原因が元凶ではなく、その事に対し自身の抱く不満、不安、恐怖等の感情が、身体を過剰に防御し過ぎている反応だから何も恐がる事はないよ!逆に、守ってくれて有り難う!」の自身への感謝が必要です。《労わって上げて下さい。》

【検証】
私のケース。何故か自信を持っていた事が効を奏し、周囲の思いやりにより、平常心(リラックス状態)取り戻し期待に応え様と最高のプレーを披露!??
S君のケース。 あまりの環境の変化に適応(経験不足もアリ)出来ず身体が悲鳴を上げたが対処出来ず!です。

しかし大好きな事が出来ている最高の環境!を…自分が忘れてしまっているのではないでしょうか?好きな事ができる。実は最高で最良の環境なのです!その代表が一流のアスリートである、松井、野茂、イチローの生きいきしたプレーと成功と言う結果ではないでしょうか!

体育会系の上下関係も経験する事により相手の気持ちがわかる立派な慕われる先輩になれます。S君!より上を目指し頑張って下さい。自分に納得出来るまで…。きっと成功しますよ!そして心身両面のお世話は任せて下さい。安心して…。応援しています。

あっ!そう言えば、今、思い出しました。

大学時代バイト先に高校卒業以来、久し振りに会った友人から「やっぱ、まだサッカーやってたか!お前ならサッカーで日本リーグに行けよ!(当時はJリーグは発足していません。また彼は野球部でしたが…。退学により野球は断念していました)。同期生の最後の綱だ!」と、激励してくれました。

その嬉しかった《一言》が私のサッカー人生を陰で支えていてくれていたのかもしれません。
感謝、感謝です。

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