シリアの野菜


スークが近いので、私は毎日スークに出かけていった。

日本人は珍しいし、シリア人は好奇心旺盛なので、私はすぐに覚えられてしまった。

アラビア語も少しずつ覚えてきたので、うろたえる事も少なくなってきた。

シリアのイメージは砂漠というのが大半だろう。水がなくて作物も枯れているような気さえする。

しかし、シリアはオアシス地帯で、レバノン山脈から流れ出した雪解け水が大地を潤し、

名前くらいは聞いたことがあるだろうユーフラテス川の恵みもあった。

ごぼうや大根といった根菜はなかったが、たいていの野菜は調達できた。

しかも日本に売っている野菜とは比べ物にならないほどおいしい

日照時間が長く、朝夕の気温差が激しいシリアでとれる野菜は、まさに完熟という

言葉がぴったりで、甘く濃厚な味がした。

そして野菜は地栽培がほとんどなので、私はシリアで旬の野菜がなんなのかということも知った。

果物もそうである。

私は七月に赴任したので、そのころメロンがおいしい季節だった。

ラグビーのボールのように少し楕円形で、中身はオレンジ色をしていた。

これが、めちゃくちゃおいしいのである。

たとえて言うならば、夕張メロンを濃厚にしたような感じだ。

メロンというのは高級な感じがするし、実際おいしいメロンを日本で食べようと思うと簡単にはいかない。

「さっ、メロン食べたいな、買〜おう」とお気軽に買える値段では売っていないからだ。

しかし、シリアでは、1個日本円で50円くらいで買えた。

完熟なので、皮からもメロンの芳醇な香りがしたし、一口食べると、甘さが口の中いっぱいに広がって

疲れも一気に吹っ飛ぶくらいである。

「タイベー、タイベー、タイベー、クティール!

おいしいという意味のアラビア語を三連呼し、なおかつ非常にという言葉までつけてしまうほどだった。

もう、私はメロンに心を奪われ、朝昼晩とご飯のかわりにメロンを食べたくらいである。

帰国してから8年経つが今でもそのメロンの味が忘れられず、

夏が来ると特に、「あぁ、シリアのメロンが食べたい」と恋しがっているくらいなのである。

 

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