シリアの治安-1


シリアの治安は日本人の私ですら驚くくらい良い。

日本に入ってきている情報はテロリストの国であるとか、

戦争ばかりしているとか、とにかく危険というイメージが強く

治安が良いといわれても信じられない人が大半ではないだろうか。

しかし、私の感じたところでは日本よりも良いのではないかと思う。

少なくても通り魔による犯行や発作的な暴行事件など、日本にいても

いつ巻き込まれるかわからないような事件は耳にしなかった。

シリアの治安が良いので、日本に帰国してしばらくは

外を歩くのが怖かったくらいである。

私が赴任してしばらくたった時、ダイヤモンドがらみの殺人事件が起きた。

日本だと、「ふーーん、物騒やなぁ、怖いなぁ」くらいで

次の瞬間にはもうあまり関心を示さなかったりする。

殺人事件そのものはそんなに珍しいことではないからである。

しかし、その時はその話題で1週間くらいシリア人は騒いでいたのである。

会う人、会う人、知ってるか、知ってるかと聞いてくるし、えらい騒ぎだった。

ひとつの強盗殺人事件が1週間も世間話のネタになるなんて

普段よっぽど犯罪が少ないんじゃないかと思ったくらいである。

シリアの治安が良い理由はいろいろあるがその一つとしてやはり宗教がある。

シリアはイスラム教やキリスト教の教えが生活に密着し、

シリア人は悪い事をしてはいけないという自戒の念が強い。

私は日本式の宗教は嫌いだったが、子供の頃に悪さばっかりしてると

閻魔様に舌を抜かれるとか、神様のバチがあたるとか言われ、

悪い事をするたびに必ずバチが当たってきているので

神様や目に見えない力というものはあると信じている。

シリア人に聞くところによると、自分には見えないが自分の肩に天使が二人乗っていて、

一人は良い事を一人は悪い事を記憶しているらしい。

そして、死んだ時に裁判所のようなところで二人の天使が言い合いをし、

良い事が多ければ天国へ、悪い事が多ければ地獄へ行くらしい。

彼らはそれを信じていて、良い事をしようと懸命なのである。

天国のイメージはそれぞれ違うようだが、男性の場合

わずらわしい事などない、気候の良い景色の良い所で、

働かずにおいしいものを食べ、綺麗なお姉ちゃんに囲まれて過ごすという

ようするに酒池肉林の世界というのが天国らしい。

「あんたら実は煩悩のかたまりやねんな」と思わずにはいられないが

彼らは「生きてるうちは良い事をしなくては」と思っているようだ。

その上シリアは犯罪に対する刑罰がきつい。

殺人犯と政治犯は死刑らしい。

しかも悪質なものは公開死刑なのである。

シリアの道路システムは交差点が少なく、サークルシステムで

私の住んでいた家の近くに大きなサークルがあった。

普段は花壇があったり、噴水があったり、夜になるとライトアップされて

公園風なのだが、実はそこは公開死刑場のひとつだった。

タクシーを利用する時は、家の前の道で待っていると

2、3分に一度くらいは通るのに、ある日の朝、待てども待てども来ないことがあった。

変だな、と思って、サークルの近くまで歩いていくと、

ものすごい数の警官や兵隊がサークルにひしめいていた。

「何事やろ」と思って近くにいる警官に何があったのか聞くと

手を首のところに前から当てて、何やら言っている。

首をかしげながらサークルに目をやると

でっかいてるてるぼうずのようなものが下がっていた。

死刑というアラビア語を覚えたのはこの時である。

どっひゃーえらいもん見てもーたー

と思うと同時に心臓がバクバクし、頭がクラクラして気分が悪くなってきた。

警官の話しでは殺人で死刑になったらしい。

公開死刑は通常夜明けに行ない、すぐに引き上げるらしいが

この日に限って、長時間つるしたままになっていた。

公開死刑も犯罪が少ない理由のひとつだろうと思っている。

死刑については賛否両論あるだろうが、

少なくてもこれを見てしまった後には

犯罪を犯そうなんて気にはならなかったというのが

正直な気持ちである。

 

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