中古の買い方

 はじめに、C3コルベットを購入するに当たり、私見を述べよう。まず、購入してから維持する自信がなければ100%後悔するので購入は見送った方がイイだろう。ここで言う自信とは、経済的なものでもありメンテなど技術的なことでもある。自分で車をいじれる人は全く問題ない。むしろ不具合が楽しくなってくるので維持は比較的簡単。自分でいじれない人は車屋に任せるわけだが、多くの人がこの後者だろう。現代の車と違いあれこれ手が掛かるので相当の出費を覚悟しよう。普通の30代前半サラリーマンを例にとると、給料の税引き後、財形や保険なども引いた後の手取り分60〜70%はコルベットに捧げる覚悟をして欲しい。月15〜16万くらいは見た方がよい。つまり今まで小遣いだった分を全てコルベットに捧げるのだ。なかなかできるもんじゃない。この点自分でいじれる人は部品代だけで済むので経済的負荷は小さい。
 普通の収入で家族を養ったり、その他のローンをかかえているような方はまず維持は不可能。半年ほどで転売となるのが関の山。ファッションや憧れで購入する事に反対はしないが、世間を見渡すと維持する自信が無くて手放す人が殆どだ。手放すときには買い取り相場なんかはミソカスで、ローンだけを残す結果となる。
 要するに、一度決めたら一生コルベットと付き合う覚悟をしなさいということだ。自分の子供以上に可愛がる自信がなければ維持は無理。それが出来ない人は自分の子供さえ蔑ろにしている事が多い。そんな人には維持することは不可能だ。よーく自問自答して決断しよう。

 '81コルベットを購入するに当たっての主だった注意点を紹介しておこう。さすがに19年落ち(2000年現在)ともなると、なかなかコンディションの良い物は見つからない。そこで、これから車探しをしようというあなたに、少しでも状態の良い物を選んでいただくために、ショップ選びと重要な鑑定箇所を紹介しよう。

 まずお目当てのコルベットが置いてあるお店を探さなければ何も始まらない。この時、自分の家から近いショップと、遠いショップがあるはずだ。もし、あなたが整備に自信があるならばどちらのショップでも構わない、極力程度の良い物を探せばよい。整備に自信がない場合、やはり近くに頼れるショップが欲しいところだ。近い順にショップ巡りをしよう。

 ショップに着いたらまずは外観検査だ。今、あなたが見ているコルベットはきっと綺麗に塗装し直してあるに違いない。ファイバーボディは錆びることなく、化粧さえしておけば十分店頭に出せるほどの美しさになるからだ。また、パテ盛りで修正してあっても磁石が使えないので非常に判断し辛い。日本でファイバー修理された物は、技術の低さと湿度の関係から後で水膨れになることが多い。”ニューペイント”響きの良い言葉だがショップの騙し文句でもある。「ペイントひび割れ現象」でも説明したが、”重ね塗り”物は塗装面がしわしわになっていないかよく観察しよう。又、全剥離で塗装されることは滅多になく、ウェザーストリップさえ外さずに塗装される場合が殆どなので、Bピラーのウェザーストリップをめくってみて仕上げを確認しよう。下地の色が出てくるはずだ。マスキングの仕事を確認しておこう。
 もし見ている車がセントルイス生まれのオリジナルペイントのままだったら、全体的に余り艶が無く缶スプレーで塗ったような感じになっている。セントルイスかボーリンググリーン生まれかの判断はVINナンバーで確認する。ドライバーサイドのAピラー近くにリベット止めしてある。例えば1G1AY8764BS****の様に、***の前が”S”ならセントルイス”5”ならボーリンググリーン生まれだ。

VIN
VINナンバー

 外観OKなら、おもむろに下をのぞき込んでみよう。鏡が有れば便利だが、いやな顔されること請け合いだ。そんなショップはランクを下げておこう。まずパワステのコントロールバルブ周りを見てみよう。ここもトラブルが多いだけに、オイルが滲んでいない物を探す方が難しいかも知れない。が、極力乾いている物を選ぼう。滴っているような物は避ける。次にミッションオイルパン周りを見よう。きっとこれも乾いている車は無いと言って良いだろう。ただ店に置いてあると、動かさないためににじみ程度の物が多いため、これも滴っていないかチェックしよう。エンジンオイルパン周りはどうだろう?きれいに掃除されているだろうか?もし拭いた後さえもなければ、即その場を立ち去ろう。そんなショップには二度と用はない。

コントロールバルブ
パワステ周り

 そろそろショップの人が一言二言声をかけてくる頃だ。ここでおもむろにエンジンをかけるようにお願いする。すると「この車、まだ入荷したばかりで整備前なんですよ」「バッテリーが上がらないように外して有るんです」等と言い逃れをする場合がある。整備前であってもそんなショップでは後に整備などされるはずがないし、バッテリーも積んでないなら、過去エンジンを回したことが無く動かないと言うことだ。そのボロ車をよく見てヤバそうな箇所をチェックしてさっさとその場を立ち去ろう。

 もしエンジンをかけてもらえたならしばらく放っておこう。その間もただ放っておくだけでなくフードを開けて異音やオイル漏れがないかチェックしよう。5分も放っておくと水温も大分上がる頃だ。ラジエターホースやインマニのボルト周りをよく見よう。インマニのボルトはウォータージャケットまで貫通している物も有るので”プチプチ”とクーラントが吹き出してこないか観察しよう。エンジンの振動にも気を付けよう。初めてこのエンジンの振動を見て感じた人は驚くかもしれないが、ディーゼルエンジン程度の振動ならOKだ。”ガタガタ”とミスファイアをしているようなら避けるべきだろう。
 また、開いたフードにオイルがライン状に飛び散っていないかチェックしよう。このようになる原因として、パワステポンプ、ファンクラッチ、A/Cコンプレッサーのオイル漏れが挙げられる。特にA/Cコンプレッサーからのオイル漏れを起こす物が多いので、フード右側に痕がある場合A/Cは効かない又は後に効かなくなると思った方がよい。この場合コンプレッサーを交換しないと、ガスをいくら補充してもすぐに抜けてしまう。
 ”カタカタ”音がする場合、カム山が減ってそのままクリアランス調整されていないと考えられる。”ピューピュー”音がすると、どこからかのバキューム漏れが考えられる。コルベットの場合いろんな物をバキュームでコントロールしているので、漏れがひどいとそれらが機能しなくなる。とにかく変な音のする物は避けること。

 次に、エンジンをかけたまま車に乗り込んでみよう。まず左手にあるライトスイッチを引っ張ってみる。ライトは上がってくるだろうか?この時左右で時間差が大きい場合アクチュエーターがダメになっている、マイナスポイントだ。センターコンソールのエアコンスイッチをいろんな位置に切り替えてみる。すると”シュー”という音と共に吹き出し口が変わるはずだ。もし”シュー”音がいつまでも止まらないときはどこかのホースからリークしていて、吹き出し口が変わらない。

ライトスイッチ
ライトスイッチ

 メーター類も動くがチェックしよう。センターコンソールのメーター類には既に欠品している物があるので動かない物は修理不能だ。また、エンジンを切った状態ではタコメーターの針は0を指していないと思う。しかし異常ではない。キーをONの位置にして0を指せば正常だ。

 次はミッションチェックだ。ATの場合を説明しよう。ブレーキを踏んでバックに入れてみる。駆動力が伝わるまで2秒も3秒もかからないだろうか?時間がかかる場合オイルが少ないか、ミッション内のブレーキバンドがスリップしている。ドライブ、リバースを何回か行いその度に”カキン”と音がしないか?音がするようならUジョイントが逝っている可能性大だ。

 では、試乗できないか聞いてみよう。しかし返ってくる答えは”NO”だろう。「当店は試乗OKです」等と広告で謳っていてもナンバー無しを理由に試乗など出来るところは無いに等しい。仮に出来ても注文した後ならOKだったりする。これでは試乗とは言えない。自社の駐車場などで乗せてもらえれば、良いショップだと言えよう。

 内装は、シートが本皮かどうか見てみよう。本皮の場合ひび割れ、破れはチェック対象だ。合成皮革に張り直した物も多く見かける。この場合、一見本皮と区別付かないが妙に艶があったりする。耐久性は本皮より良いので気にしない人は良いが、見分けるには臭いで判断しよう。

 ブッシュのチェックもしておこう。フロントのアッパーコントロールアームのブッシュはエンジンルームから容易に観察できる。ゴムが潰れて無くなっていないか見てみよう。アッパーアームのブッシュは、特に操舵性に影響するので慎重に選ぼう。観察ポイントはロアブッシュよりアッパーブッシュに重点を置く。リアタイヤに妙にキャンバーが付いていないかも見ておこう。工場出荷時は0度±0.5度なので、鬼キャンになっていたらブッシュが潰れているか、ミスセッティングだ。余りキャンバー角を強くしていると、Uジョイントに負担がかかり、高速走行時に振動が出始める。

 ブレーキも弱い部分とされるが、エンジンを切った状態でペダルを何回か踏み込んでみよう。ちゃんと踏み代は出ているだろうか?完全にエア抜きされた状態ではノーマルホースでも”カチッ”とペダルの沈み込みは止まるはずだ。ふわふわ沈み込むことは決してない。店員からは「こんなもんです」という言葉が聞こえてきそうだ。いじりたおしてさっさと店を後にしよう。

 機関が大丈夫そうならドアや窓の閉まり具合も見てみよう。ドアは軽く閉まるだろうか?店員曰く「アメ車の中には思い切り閉めないと、閉まらない物があるんですよ。こんなもんですよ」真っ赤な嘘だ。ドアが沈んでいる場合が殆どだ。フレームもヤバいかもしれない。コルベットのフレームは意外に剛性があり、ジャッキアップした位ではドアが閉まりにくくなるということはない。事故歴があってフレームの曲がりを疑った方がよい。完全に調整されたドアは、実にスムースに開閉できる。国産車より遙かになめらかだ。
 ドアを閉めて、窓を開け閉めしてみよう。ガラスはちゃんとウェザーストリップに密着しているだろうか?、ウィンドウモーターの回転ムラは無いか?、ガラスが内側に入り込んだりしていないか?、これらはある程度修正が利くので他の部分が気に入っていれば、妥協できる部分だろう。しかし、余りひどい物は避ける。

 たまに、80年や81年式のものでコンバーチブルの車を見かけるが、この年式にコンバーチブルは存在しないので注意が必要だ。それらは、Tバールーフ車のルーフを取り去った改造車だ。Tバーとタルガでフレームの強度を持たせてあるのに、それが取り払われたらどうなるか想像がつくだろう。本来のコンバーチブル車は、補強のメンバーが入っている。絶対に手を出してはならない1台だ。
 ライト、ノーズ周りを変更してある物は事故車と思った方が無難だろう。このライト周りは、一度ずれてしまうと調整がやっかいなのだ。調整が面倒なので埋め込み式の物に変更したりするわけだ。
 また、80年式にはカリフォルニア専用モデルが存在することも忘れてはならない。排気量が小さく、5.7Lだと思っていたら5Lだった、と言うことにならないようにしっかりチェックしないといけない。この年式の正規輸入物は全て5Lモデルなので、ディーラー車だと言ってうかつに手を出してはいけない。

 以上、参考になっただろうか?これ以外にも細かいチェック箇所はあるが、購入した後に”やっぱりアメ車はこんなもんか”と言われないように最低限の鑑定ポイントを挙げたつもりだ。しかし、これら”最低限”でも条件を満たす車は数えるほどしか無いのが現状だ。皆さんも良く研究してから購入に踏み切っていただきたい。

 最後に、「こんなもんです」は絶対に無いので、そんなことを言い出すショップは捨てぜりふでも吐いて、さっさと立ち去ろう。

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