2003年読了本リスト(毎月初め頃に更新)

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順不同で今年のオススメ本 一作家につき一冊で

『たたり』         雨宮町子
『アラビアの夜の種族』   古川日出男
『アンダー・ユア・ベッド』 大石圭
『天使はモップを持って』  近藤史恵
『冬の伽藍』        小池真理子
『岡山女』         岩井志麻子
『学校の事件』       倉阪鬼一郎
『恋文』          連城三紀彦

 1月 2月 3月 4月 5月 6月

 7月 8月 9月 10月 11月 12月


 今年読んだ本のリストです。


1月の読了本
1  『たたり』         雨宮町子
2  『姦の忍法帖』       山田風太郎
3  『沈黙』          古川日出男
4  『楽園』          岩井志麻子
5  『夢見の家』        倉阪鬼一郎
6  『暗黒祭』         今邑彩
7  『殉教カテリナ車輪』    飛鳥部勝則
8  『アビシニアン』      古川日出男

 古川日出男、昨年ベスト1『13』に続き二冊。微妙にリンクしており、二作で一つと言える作品だが、処女作ほどの出来ではないか。『沈黙』はもう少し筋があった方が好み。

 初読み雨宮町子。『たたり』期待通りの面白さ。細かな描写の積み重ね、類型的にならない人物描写。実に上手い。後味の悪さも最高。

 『蛇』シリーズようやく完結、今邑彩。ラストに来て俄然面白くなったのはなぜ? 大風呂敷がスペクタクル的には小さくまとまったにすぎないのに、なんとも言えない充足感が読み終えた後にある。この最終巻だけで、どこか希薄だった登場人物の存在感が見事に補完されたせいか。

 デビュー作だそうな『殉教カテリナ車輪』。これは随分良かった。これと『バラバの方を』だけだな、この作家は。


2月の読了本

9  『赤道』          明野照葉
10 『血』           アンソロジー
11 『倒錯の帰結』       折原一
12 『骸の誘惑』        雨宮町子
13 『密室レシピ』       アンソロジー
14 『鳩の来る家』       倉阪鬼一郎
15 『殺人勤務医』       大石圭
16 『夢のかたみ』       小池真理子

 明野照葉『赤道』、スーパーナチュラルな要素抜きの、今まで読んだ二作とはかなり趣の異なる作品。とはいえ、筆者の実力がうかがえる堅実な佳作という印象。馳星周『不夜城』を思い出したが、主人公が自堕落な割に妙に生真面目なところがあるのが面白い。投げやりさと猥雑さが薄いのである。ある意味「理想的」なキャラクターと言えるのかもしれないが、反面、ストーリーは限り無く地味で日常的で乾いている。だからどちらがどう、というのではなく、比べてみると楽しめる。

 折原一『倒錯の帰結』、『死角』『ロンド』『螺旋館の殺人』と正編外伝合わせて続いて来た、『倒錯』シリーズのまさに完結編。比較的初期に書かれた前三作の時期から、著者本人の生活環境も大きく変わった……ということが、また新たなネタとして盛り込まれている。前シリーズのキャラクターも総登場で、まさにシリーズの掉尾を飾るに相応しい力作。ただ、相当に読者を選ぶような……。

 初読み、大石圭『殺人勤務医』、最高。最高にバカ。30超えたばかりで、超美形のカリスマ堕胎専門産婦人科医が、食い物を残した女や、鯉のいる池に洗剤をまいた男などを、自宅に監禁して処刑しまくる。妙なお題目を掲げるわけでもなく、殺したいから、不快だから殺す。その日常を、抑えた筆致で淡々と描く構成が心地よい。妊婦、カラス、幼児、犬には優しい、「サイコ」ヒーローとでも申しましょうか。身近なところにいるバカをこの男に消してもらいたいが、逆に自分が処刑されないように日頃の行いに注意しようと、固く心に誓う僕でした。


3月の読了本

17 『まほろ市の殺人 春』   倉知淳
18 『アラビアの夜の種族』   古川日出男
19 『アンダー・ユア・ベッド』 大石圭
20 『狂王の庭』        小池真理子
21 『処刑列車』        大石圭
22 『家に棲むもの』      小林泰三
23 『橋をわたる』       伊島りすと
24 『天使はモップを持って』  近藤史恵

 果たして今年、これを凌ぐ作品は現れるのか? 古川日出男『アラビアの夜の種族』まさにぶっちぎりの完成度。リーダビリティがまずただごとではない。ものごっつい文章力と構成力で『ドラクエ』や『ウィザードリィ』のようなお話を、少しも退屈させずに描く。作品の底辺にあるのは、ある意味ベタにさえ思えるお約束なストーリーだが、当初は類型的にさえ思えたキャラクターが終盤に近付くにつれて輝きを増し、こちらの心を捉えて放さない。驚くべき手腕。ファラー最高!

 バカさ加減で『殺人勤務医』を凌ぐ恐るべき怪作『アンダー・ユア・ベッド』。ストーカーVSドメスティック・バイオレンス。ひそかにつきまとう男と暴力亭主、果たしてどっちがましか? 11年前に一回コーヒー飲んだだけの女を探し出し、ストーキングを始めた男。だが、かつて美しかった女は日常的な夫の暴力にさらされる日々を送っていた。夫婦のベッドの下で、男は女が殴られ罵られる音を聴き続ける……。これまた妙なお題目を掲げるわけでなく、彼女のそばにいたい、だからストーカーする。クライマックス、夫の暴力に追い詰められた女が、部屋に仕掛けられたことに気付いた盗聴器に「助けて……」と囁く様は圧巻です。対して『処刑列車』はいまいち。他の二作にあったなけなしの深みがない……。

 相変わらず素敵すぎる近藤史恵。思わず電車の中で泣きそうになったではないか。オレも頑張ろう!という気にさせてくれる素晴らしき作品。


4月の読了本

25 『剣の門』         桐生祐狩
26 『異形家の食卓』      田中啓文
27 『アイ・アム』       菅浩江
28 『耳すます部屋』      折原一
29 『死者の書』        ジョナサン・キャロル
30 『スパイラル3 エリアス・ザウエルの人喰いピアノ』
                 城平京
31 『女神』          明野照葉

 初読み桐生祐狩、先月の伊島りすともそうですが、面白くないなあ……。面白くない理由は両者とも全く違うんでしょうけど、取りあえず登場人物に全然共感できないのは同じ。こちらの好みもあるんでしょうが、文章もだるいしね。

 なかなかオチまで鮮烈なホラー小説『死者の書』。原題は内容に即した『笑いの郷』なのだが……変な邦題つけるなっての!

 他はまあまあ手堅く楽しめました。菅浩江の印象は次回まで持ち越し。


5月の読了本

32 『安達ヶ原の鬼密室』    歌野晶午
33 『出生率0』        大石圭
34 『ハグルマ』        北野勇作
35 『冬の伽藍』        小池真理子
36 『忍法鞘飛脚』       山田風太郎
37 『自由殺人』        大石圭
38 『双月城の惨劇』      加賀美雅之
39 『贅肉』          小池真理子
40 『鬼女の都』        菅浩江
41 『被害者は誰?』      貫井徳郎

 著者ベスト1にいきなり躍り出てしまった『冬の伽藍』。新幹線の中で落涙してしまったじゃないか。アホアホしい不倫もののように粗筋で思わせといて、こんな泣ける話に仕立て上げるとは……恐るべし!

 角川文庫版全冊揃え、ついに成功〜。『忍法鞘飛脚』念願の入手。

 文庫書き下ろしの方が面白い……というより、単に近年の数作が面白いということだろう、大石圭。『自由殺人』事実上の最新作、これも面白過ぎ! 主人公の人物像や、マラソンへのこだわりが笑える。無差別爆弾テロという手垢がついたネタなのだが、書き方によってはまだまだいけるのだ。後書きがまた泣ける。

 判断を保留していた菅浩江、正直京都がどうだろうが全然どうでもいいのだが、それでも読ませる密度の濃さと、通り一遍にならない人物描写は素晴らしい。にしても……回りくどい話だな……。他は何が面白いのだろう。


6月の読了本

42 『ガーデン』        近藤史恵
43 『ファントム・ケーブル』  牧野修
44 『象と耳鳴り』       恩田陸
45 『死者の体温』       大石圭
46 『桃源郷の惨劇』      鳥飼否宇
47 『お喋り鳥の呪縛』     北川歩実
48 『壷中の天国』       倉知淳
49 『少女』          連城三紀彦

 内容が『殺人勤務医』と被りすぎなような『死者の体温』。後に読んだ方が印象が悪いのは当然か。惜しい。ファンならば充分に楽しめますが。

 またも最後にどんでん返しを炸裂させる北川歩実。書き込みの薄い登場人物が、突如、吐き気を催す邪悪な本性を現わすあたり、最高。ただ構成はともかく、人物造型が上手いとは言えないのがつらい。ただ、それでもラストはちょいと泣かせるあたり、だんだん上手くなっているのであろう。売れてるとは言いがたいのだろうが、息の長い作家になってほしい。

 通勤電車の中で読みふけってしまった『少女』。エロい。ひたすらエロい。各短編の切れ味、一編の中で完成された世界観は素晴らしい。


7月の読了本

50 『呪怨』          大石圭
51 『依頼人は死んだ』     若竹七海
52 『石の猿』         J・ディーヴァー
53 『殺意の時間割』      アンソロジー
54 『沙羅は和子の名を呼ぶ』  加納朋子
55 『懐かしい骨』       小池真理子
56 『クリーチャー』      J・ソール

 ノベライズだが、『殺人勤務医』の三倍は売れているらしい『呪怨』。大石圭にはオリジナルの新作を書いて欲しいが、こういう仕事を手掛けることで、認知度が上がり、収入増で余裕を持った仕事が出来るならば歓迎すべきか。

 おなじみリンカーン・ライムシリーズ『石の猿』。中国人とのカルチャー・ギャップに苦しむ車椅子の先生は、相変わらず面白い。過剰などんでん返しよりも、一発トリックとミスディレクションが光る。

 自身のSF路線ではかなりの出来か、『クリーチャー』。相変わらずの後味の悪さだが、今作はある意味救いがある。主人公たちは不幸だが、悪が滅びただけましか。


8月の読了本

57 『未明の悪夢』       谺健二
58 『子どもの王様』      殊能将之
59 『憑流』          明野照葉
60 『岡山女』         岩井志麻子
61 『もっとどうころんでも社会科』
                 清水義範
62 『学校の事件』       倉阪鬼一郎
63 『影の肖像』        北川歩実
64 『まほろ市の殺人 秋』   麻耶雄嵩

 毒もあっていい話なのだが、内容も薄く字がでかすぎ『子どもの王様』。児童書だとか言って1900円も取るかね、これで。これが400円文庫なら絶賛ですが(ついでに他の作家の作品もどっかどっか買いますが)。

 今邑彩『蛇神』シリーズとほぼ同じ内容だった『憑流』。同じ内容なら『蛇神』の方が世界観が練り込まれてて上ですな。岩井志麻子『岡山女』はかなり良かった。ショートショートの集合的体裁をなした収録作「岡山ハイカラ観商場」が特に鮮烈な印象を残す。上手過ぎ。これの続編が読みたいなあ。

 倉阪『学校の事件』、シリーズ第二作『不可解な事件』が第一作『田舎の事件』から何ら発展していなかったため、あまり期待していなかったが、今作は新境地かも。数編に今までのこのシリーズからはあまり感じられなかった怪奇なムードが融合し、なんともいえん悲哀を生んでいる。


9月の読了本

65 『呪怨2』         大石圭
66 『コンタクト・ゾーン』   篠田節子
67 『浪漫的恋愛』       小池真理子
68 『シェルター』       近藤史恵
69 『同窓生』         新津きよみ
70 『弁護人 上』       S・マルティニ
71 『弁護人 下』
72 『マインドコントロール』  和田はつ子
73 『閉じたる男の抱く花は』  図子慧
74 『目を擦る女』       小林泰三

 またノベライズ大石圭。これは続編を作り過ぎる『呪怨』シリーズが悪いのだが、この調子では奴の次の仕事もハリウッド版のノベライズになるんじゃあないか。早いとこ新作を書いてくれ! でもノベライズとしての出来は悪くない。お得意の描写も入れつつ、世界観を膨らませるのに一役買ってます。問題は『呪怨』にキャラクターや世界観などそもそも必要あるのか、ってことですが。

 異常に分厚かった『コンタクトゾーン』、面白かったがほぼ予想の範囲内。昔のようなやるせない気分に陥る作品をまた読みたいものです。ハードカバー版が『月狂い』というタイトルだった『浪漫的恋愛』。新タイトルはいささかださいが、ただ『月狂い』というタイトルはあくまで作中作のタイトル、という気がする。別に他のタイトルでも良かろう。

 『シェルター』は泣けました。いや〜最高だね史恵は。おなじみ整体師探偵シリーズだが、三作目に来てメインキャラの掘りさげにかかりました。次作がますます楽しみです。まったく新作を書いていない図子慧、とっておいた『閉じたる男の抱く花は』もつい読んでしまった。話があるようでなくて、ストーリー展開が重要なようでいてどうでもいいのが面白い。要は何が言いたいのか何が書きたいのかよくわからん。ホラー向きじゃないですかね、この人は。


10月の読了本

75 『女友達』         新津きよみ
76 『午後のロマネスク』    小池真理子
77 『サウンドトラック』    古川日出男
78 『感染夢』         明野照葉
79 『南方署強行犯係 狼の寓話』近藤史恵
80 『隣の女』         新津きよみ
81 『夏の滴』         桐生祐狩
82 『夜宴』          愛川晶

 借りて読んでます、新津きよみ。サイコもの一辺倒かと勝手なイメージを抱いていたが、読んだ3冊はどれも趣向が違っていて面白い。ぼちぼち読むとします。

 『アラビアの夜の種族』以来の新作、古川日出男『サウンドトラック』。青春小説と題してますが、キャラクターはますます先鋭化され、行動から思考から何からほとんど理解不能。……なんだけど、表面的なもののそのもっと奥の行動原理というか、主人公達を駆り立てる何かに、確かにシンパシーが感じられる。完全には乗り切れずに読んでましたが、しかしラストで沸騰! 相変わらず強烈なイメージの奔流。

 「邪悪なのに爽快!」と帯で煽っていた『夏の滴』。『剣の門』が少しも面白くなかっただけに期待していなかったが、デビューである今作は非常に分かりやすい話。登場人物の無自覚かつ身勝手なところは確かに邪悪の極み、だがいったい何が爽快なのかはさっぱりわからず。これに爽快さを感じる人間は、作中のあらゆるキャラクターのように、無知な者を利用し物欲を満たすことを希求しているのか。作者の目線がもう少し広い視点で人物を捉えているのが明白なだけに、こういう軽率なキャッチは不快。

 リーダビリティが素晴らしく、伏線を伏線と割り切った仕掛けがいかにも「本格」らしい『夜宴』。主人公の「美少女探偵」根津愛は、「いねーだろーよ、こんな女」の代表的キャラクターか。だが、こういう直球な記号的キャラクターの方が、『黄昏の罠』シリーズの剣道少女のような「いそうなんだけど、やっぱ絶対いない。中途半端な性格づけのリアリティになんか願望混じってる」キャラよりも好感が持てる。

 今年三作めの新刊、近藤史恵。いいなあ……。もう言葉が見つからんよ。いいなあ……。


11月の読了本

83 『もう一人の私』      北川歩実
84 『殉教者聖ペテロの会』   J・ソール
85 『湘南人肉医』       大石圭
86 『殺しの四人 仕掛人藤枝梅安』
                 池波正太郎
87 『泉』           倉阪鬼一郎
88 『名探偵は、ここにいる』  アンソロジー
89 『陰陽師鬼一法眼 鬼女の巻』藤木稟
90 『冬に来た依頼人』     五條瑛

 ノベライズ続きでフラストレーションが溜まっていたところ、久々キター! 大石圭書き下ろしの新作! もうタイトルからしてワクワクが止まりませんでしたが、やはり最高! 主人公を超デブの整形外科医にし、人肉ディナーで気味悪さは『殺人勤務医』の数段上。キャラクターへのシンパシーはさすがに下がるが、それでも砲丸投げやらボランティアを交え、読む気を失わさせない、あざといまでのキャラクター設定。そして、あまりにもおぞましく美しい詩的でさえあるラストシーン。ラストの素晴らしさは今までの大石圭作品でもベストか。そして後書きも最高。後書きを切り取って作中に挿入しても、一切違和感がないであろうところが怖い。

 初読み五條瑛、やはり400円文庫は薄すぎる。もっと力作を読みたいなあ。


12月の読了本

91 『家守』          歌野晶午
92 『アクアリウムの夜』    稲生平太郎
93 『恋文』          連城三紀彦
94 『薔薇いろのメランコリヤ』 小池真理子
95 『飛蝗の農場』       J・ドロンフィールド
96 『まほろ市の殺人 冬』   有栖川有栖
97 『同居人』         新津きよみ

 今年読んだ本格ミステリは、大ざっぱな分類で28冊。『家守』は嫌な後味の話で面白かった。この人の書く物は、いつも水準をクリアしてていいなあ。

 ドラマでの渡部篤郎のダメさ加減に惹かれて読んだ『恋文』、主人公のキャラ描写が凄すぎる。表題作だけでなく全作品ダメ男が続々登場、ダメにもほどがある恐るべきダメさ。あまりのダメさに引き込まれぐいぐいと読まされてしまう、とても倒錯した読感。はた迷惑極まりないのに、ついつい関わりあいになってしまう恐怖。全体にいい話なのに素直に感動できないダメさ、でもやっぱり泣ける、ああ〜鳥肌たちそう。