和田はつ子著作リスト

『Wファイル』

 読んだら読んだだけ、いや〜な後味悪〜い痛〜い気分になれること間違いなし!

サイコ&ホラー作家、和田はつ子の著作リストです。

日下部遼先生想像図
(というかブラピです……)

ちなみにこちらは和田はつ子先生のオフィシャルサイトでございます。→Alexanderite
キャラクター誕生秘話など、ファン必見の内容ですな。

(2作目から)心理分析官 加山知子シリーズ
『ママに捧げる殺人』  光文社文庫
『心理分析官』     角川ホラー文庫
『十戒』        徳間文庫
『享年0.5歳』    講談社文庫
『マインドコントロール』角川ホラー文庫
『首交換殺人』     ハルキホラー文庫

 デビュー作にして最凶最悪最高傑作『ママに捧げる殺人』を含むシリーズ。スーパー・ナチュラル要素のない、純正のサイコ・ミステリです。後味の悪さは保証します。落ち込んだ時、自分を虐めて楽しみたい時、そんな時に読む事をオススメします。


 『マインドコントロール』はシリーズとして実に7年ぶり。『心理分析官』ドラマ化の余勢を駆ってのことに間違いないでしょうが、設定とストーリーの調和にバランスを欠く日下部”ブラピ”遼シリーズと均衡を取る意味でも、加山知子シリーズ復活は喜ばしいことと思えます。しかし冒頭、いきなり松井刑事と別れてるのが明らかになる主人公! この時点で犯人は松井の新しい嫁に違いない、と殺人も起きてない内から確信しましたが、全然違いました。設定を日下部先生得意の食の分野に結び付けなくていい分、色々と宝石が出て来ても無理を感じない。オールラウンダー加山! やはりサイコ路線なら、こちらのシリーズの方が完成度は上でしょう。日下部シリーズは「妖怪編」一本で行って欲しいもの。


 またも出版社が変わって続編『首交換殺人』、どうもマーケティングという意味では、同じシリーズが複数の出版社を股にかけるのは、マイナスでしかないように思えるのですが。しかし今作はやばい。松井はまの字も出ず、パートナーキャラが新たに二人登場。一瞬期待を持たせましたが、何の事は無い、立場や考え方の違うキャラクターを組み合わせる事で、作中の展開をディスカッション形式で進めようという意図。要はほぼ台詞のみで話が進行していく、もはや小説とさえ呼びにくい内容。サブタイトルに『加山知子の事件簿』とありますが、本当に「事件簿」として、全ての解決がなされた後に加山が手記を書いているという構成にしてもいいんじゃないか。なにせオチまで犯人の手記。このまま説明台詞過多のドラマの脚本になりそうです。とにかくこんな物を書いてるようでは、今後が危ぶまれますよ。さすがに笑い事ではなくなってきた。


法医学鑑定人 田代ゆり子シリーズ
『異常快楽殺人者』   光文社文庫
『恐怖の骨』      光文社文庫
『死霊婚』       カッパノベルス→文庫化改題『境界性人格犯罪』角川ホラー文庫

 いささか他のシリーズに比べてインパクトに欠けるか? 二作目まではサイコミステリ。第三作『死霊婚』では、下記の日下部遼も出演してます。加山シリーズにも登場したロビンソンも登場し、シリーズ全てが共通の世界観にあることがさりげなくアピールされます。いずれはオールスターとかやるのかな……。


文化人類学者 日下部”ブラピ”遼シリーズ
(超自然的要素なしの「サイコ編」、ありの「妖怪編」の分別は、サイト管理者の独自基準です。『かくし念仏』はその域を超えた唯一の作品だと思ってますが(笑))
『多重人格殺人』 「サイコ編」    角川ホラー文庫
『かくし念仏』  「サイコ編」    幻冬舎
『魔神』     「サイコ編」    角川春樹事務所
『境界性人格犯罪』「妖怪編」     角川ホラー文庫『死霊婚』改題)
『虫送り』    「妖怪編」     角川ホラー文庫
『蚕蛾』     「妖怪編」     講談社ノベルス→文庫化改題『鬼婆』ハルキホラー文庫
『木乃伊仏』   「妖怪編」     ハルキホラー文庫
『薬師』     「サイコ編」    角川書店
『狼神』     「妖怪編」     ハルキホラー文庫
『鳥追い』    「妖怪編」     角川ホラー文庫
『椿姫』     「サイコ編」    角川書店
『パラノイア』  「サイコ編」    角川ホラー文庫『牧神』(新聞連載時タイトル)改題)
『悪魔のワイン』 「サイコ編」    角川ホラー文庫『果実祭』(新聞連載時タイトル)改題)

 現在進行中のシリーズ。女子大助教授の日下部遼と警視庁の刑事水野薫のコンビが活躍します……(なぜか『蚕蛾』では水野ではなく田代ゆり子とコンビ組んでますが)。

 最初はサイコ・スリラーだったのに、『虫送り』あたりから妖怪が登場するホラーになってます。なぜ? 時を同じくして最初は単に「彫りの深い西洋風の顔」と描写されていた日下部遼にも「ブラッド・ピットに似ている」という設定が付け加わってしまい、何だか統一感のないシリーズになってます。共通してるのは民俗学が大きなテーマになってるとこかな……。


 後味の悪さは健在ですが『木乃伊仏』は笑うしかないトンデモ設定が飛び出し、爆笑。アイヌの血を引く文化人類学者日下部、得意技は料理なんですが、それで妖怪と対決します。妖怪にスパゲッティを振る舞うシーンは、もはや『美味しんぼ』の世界です。頼むから立ち直ってくれ!


 続いて『狼神』。ハイスクールパニック・イン・日下部。日本狼の亡霊に憑依された高校を救うべく、たまたま特別講議のためにやってきていた日下部助教授が保健室登校の生徒五人と共に立ち上がる……。ストーリーやキャラクターが、そのまんま『パラサイト』っていうハリウッド・ホラー映画のパクリ。まさか他の作品にも映画からのパクリがあったりして……これ、編集者とかは見過ごしたの? せめてもうちょっと展開を変えてくれたらな……。描写や構成の腕は上がってるのに、どうしてこういう手抜きが出るのか……。いいんですけどね、『パラサイト』好きだから。ブラッド・ピットが登場する『パラサイト』ですね。


 『鳥追い』読了。遺伝子操作で生み出された生物兵器である凶悪なカラスの群れと、恐竜の特徴を備えた謎の怪人が猟奇殺人を繰り返し……っていったいこのシリーズのジャンルはなんなんだ!? サイコ・スリラーがホラーになりトンデモSFになり、完全になんでもありの世界観になってしまいました。今回もネタの一部は原作版『レリック』をパクってるし……。『本当に恐ろしいサイコ・ホラー読本』での倉阪鬼一郎と東雅夫との対談を読み返していたら、超能力を持っているという日下部の設定はクリス・カーター製作のアメリカのドラマ『ミレニアム』を意識している、と言ってまして、この何でもありの世界観は同じクリス・カーター製作の『Xファイル』を狙っている、と勝手に深読みしているのは多分オレぐらいでしょうか。日下部シリーズは日本版『Xファイル』である、と仮定すると妖怪をなかなか信じない水野刑事はスカリーなんですね、とかそういう楽しい想像も膨らみます。ブラピ主演の『Xファイル』……。


 『薬師』も読む。久々に妖怪も怪物も登場せず、日下部の一人称でストーリーが進みます。タッチとしては『魔神』に近いスーパーナチュラル無しの連続殺人。あちこちで次々と死体が出て、水野刑事と共にそれを追う日下部、死体が発見された地元で文化人類学の蘊蓄を炸裂させながら食べ歩きをします。イメージとしては死体が出る度に飯食ってるような感があります。さしたる衝撃の事実もなく淡々と進む構成、食い物の話は勉強してきっちり書き込まれてあってまあ読めるんですが、全体としては面白みに欠けます。とはいえラストは次につながりそうな設定も出てきて、ああ、やはり”ブラピ”日下部遼の戦いに終わりはないのか!?


 いや〜久々の新作だね、楽しみだよ……と思っていたのも束の間、俺は衝撃と失望のどん底へとたたき落された。最新作かと思われていた『境界性人格犯罪』はなんと『死霊婚』の文庫落ちだったのだ! いや、それはいい。どんな作品でもいずれは文庫に落ちるものだ。俺がショックを受けたのは、出版社が変わってタイトルが変わったというのに、文庫落ちであるという事に帯や広告でも一切触れられていなかったことだ! ああ……全国の和田はつ子ファンよ、きっとたくさんいらっしゃるでしょう、間違えて買った人……。後書きで『鳥追い』の項で私が触れた『Xファイル』説を神無月マキナ氏も唱えてまして、やっぱりみんな考える事は同じなんだなあと実感!


 唯一未読だった『かくし念仏』をついに入手、読了。坂東真砂子作品のようなタイトルといい、マイナー出版社幻冬舎から出ていることといい、はっきり言ってあせって読む事もないかと思っていたのでした……が、これがとんでもない大間違い。僕は読んでて青ざめました。これを読まずして、僕は和田はつ子の何を語っていたのか! 価格は2200円、ページ数は630、活字は二段組、三部構成、深紅の装幀はもちろんのこと、内容もいかにも和田はつ子らしく破綻と暴走の限りを尽くした恐るべき暴虐なまでのパワーに満ちている! 本作は日下部シリーズの真なる序章でもあり著者にとっても裏の最高傑作と呼ぶべき、とてつもない作品なのだ!

 第一部は前作『多重人格殺人』の直接の続編のように思わせるサイコ・ミステリであり、ごくごくオーソドックスな筆運び。しかし第二部に突入すると状況は一変、カルトの支配する学園と街に非常勤講師としてやってきた”ブラピ”日下部遼を襲う、問答無用のサイコさん軍団と洗脳作戦の嵐! まさしく絶体絶命の状況に追い込まれる日下部。洗脳の実態をまざまざと見せつけられ、むち打たれ、不味い飯を食わされ麻薬入りのタンポポコーヒーを飲まされそうになった日下部は、高らかに宣言する。

「明日から自炊します!」

 どこまでも食い物にこだわり続けるこのシリーズ! あくまでマイペースを貫き続ける日下部! こののんきさが一般読者の感覚と乖離していることに気付かず、ひたすら突き進む和田はつ子! やっぱりあんた最高だよ! そして第三部……アイヌの秘薬をめぐる恐るべき連続猟奇殺人の真の黒幕が、ついにその姿を現わす。予知夢の能力を持つ日下部とその母の夢の中に姿を現わすその男。事件の影に常にその姿を見え隠れさせる、日下部遼に酷似したあまりに邪悪なその赤い髪の男の正体とは……? ってなんで日本にブラッド・ピットが二人もいるんでしょうかあ!?

 思うにこの作品、相当売れなかったんでしょうね……。こんな三部構成の超大作を書くよりは、『狼神』みたいな文庫書き下ろしを三冊書いた方が、楽だし儲かるということに、きっと著者は気付いてしまったのでしょう。


 何かと考え込んでしまう日下部先生が、ついに全開に考え込む! 久々のハードカバー『椿姫』。公式サイトにて「日下部遼の恋愛もの」として紹介されていた、シリーズものである。しかしあらゆる作品で女っ気のない生活ぶりを見せていた日下部先生が、突然恋愛ものに出演とはいったい……?というのが、大方の読者の感じ方ではないだろうか(知らんけどね)。いったいどんな急展開が待ち受けているのかと思いつつ、帯の粗筋を見てみると……「美貌のナチュラル・ライフ・アーティスト、草間佳奈子が自殺した。その直後、佳奈子の昔の恋人で文化人類学者の日下部の元に……」って死んでるやん!

 う〜む、死んでるのになんで恋愛ものが成立するのか、と思いながら読み始めると、いきなり日下部先生を襲う最大の危機!……セクハラ疑惑……。今回も目を覆わんばかりの受難が先生に降り掛かります。どうしてこの人は、ブラピなのにこんな目にばかりあうのだろう……(関係無し)。いねーよこんな男、というぐらい真面目すぎる日下部の個性が、今作ではそのキャラクターの書き込みも含めて真っ向勝負に出た結果、他作品ほど現実離れして感じられないところがいいです。『狼神』で一瞬スーパーヒーロー化しかけた彼でしたが、ここに到って再び迷走、いやいやリアルなキャラクターへの道を歩みだしたのでしょうか。相変わらず曖昧な方向性とともに、今後もシリーズから目が離せません!


 ハードカバーとして発売がアナウンスされていたにも関わらず、BSE問題の余波で延期されていた『牧神』『パラノイア』とタイトルを改め、ついに登場! せっかくの美しきタイトルが(これは○○のことかなあ)いかにもホラー文庫テイスト全開な安っぽいものになってしまい、無念。「エプロンを着たブラピ」こと日下部遼先生は、またも事件に駆り出され大活躍! いい加減警察の人も現場をブラッド・ピットがうろつくのに慣れてしまったらしく、何も言いません。本格ミステリじゃあ名探偵がうろうろするのも平気で容認されてますから、社会派な要素も合わせ持った真面目なサスペンスでそうなってはいけない、という理由は何もありませんわなあ。今作は北海道が舞台になり、酪農が料理ネタのメイン。実は私、初めて日下部の作るものを「美味しそう」と感じました……なぜだろう? その反面、暗くグロいネタをこれでもかこれでもかと注ぎ込み、現実の重さにいや〜な気分になります。ラストは救いがある方ですが、もっとどん底まで落ち込んだ方がよりやるせない気分になったかも?


 もうわざわざ「ブラピ」と書かれる事もなくなった日下部先生、久々の新作は『悪魔のワイン』。新聞小説では『果実祭』なのに、ホラー文庫になった途端これだから。国産ワインを題材にしたストーリーはシンプルでわかりやすく、ムダがない。が、いまひとつ主要キャラ以外の人物像がつかめない、造形が浅いのも気になる。かつてのような暴虐なまでのパワーはもう帰ってこないのか? しかしワインは美味しそうに書けてました。素晴らしい。


ノンシリーズ
『血族神話』          二見書房
『密通』            角川ホラー文庫
『死神』            ハルキ文庫
『マタニティ&ブルー』     角川ホラー文庫
『ラブ・ミ−・プリーズー侵蝕ー』角川ホラー文庫
『ベイビー・セメタリー』    角川ホラー文庫
『藩医 宮坂涼庵』       新日本出版社

 むしろこっちの方が、シリーズ物よりも面白いかも……。猫と美少女が散々な目に合うホラーちょっと後味爽やかめ『密通』、犯人像が執念深くて個人的に好みサイコ・スリラー『死神』、一冊だけ読むならこちら。


 久々のノンシリーズ、『マタニティ&ブルー』読了。『エクソシスト』『ロスト・ソウルズ』などの悪魔払いが主題の映画を思い起こさせるストーリーに、『かくし念仏』でも登場した隠れキリシタンネタを突っ込んだ異色作。個々の描写の気持ち悪さは健在だが、いささか新味がないか? 大風呂敷を広げたせいか、この作者特有の余韻ゼロのラストも、今回はちょっとマイナスに作用していますね。 


 『ラブ・ミ−・プリーズー侵蝕ー』。お菓子作りと幼児虐待を絡めたサイコ風味のホラー……ってこれではなんのことかわからん。今作は悪役の造型がいい。この現代において悪とはもはや単一の属性を持って生まれてくるものではなく、様々な要素が混沌としたある意味非常に人間的なものとして存在しているということでしょうか。妖怪でもモンスターでもそれは例外ではない。ただ毎度おなじみ、悪役が自らの出自を延々と台詞で語ってしまうのはちょっともったいないな……。あとは義父さんが突然幽体離脱しちゃうとことか……小説的な持って行き方にあまり興味がないのかな? ここらへんをクリアすれば(というか書き込めば)もっと面白くなりそうなんですが……。


 まじで限界なんじゃないか、という出来のシリーズ作品が続く中、息抜きにノンシリーズ『ベイビー・セメタリー』。イマイチ頭の良くない、男やら何やらに騙されてばかりのヒロインを囲む、悪人軍団の恐怖! マシな奴かと思いきやマザコンなんてやっぱろくなもんじゃねえなあという男やその資産家の両親、それについてる弁護士は悪巧みの達人、ヒロインの実の姉なのに男も金も奪い取ろうとする女、実の父親なのに金の亡者の男、その嫁つまり継母これまた金と面子しか興味なし、実の母親は唯一まともだがその再婚相手はほとんど異常者、え〜書いててなにやらわからなくなってきましたが、類型的を一歩突き抜けてサイコ寸前でもちょっと実際いそうな人たちが、総掛かりでヒロインを襲う! 前半まさに恐怖の連続! 頼れるものなど何もなく、二人の女の子とマザコンに孕まされた胎児を抱え、ヒロイン絶体絶命! うわあ、これいったいどうなっちゃうの、と思ってたら、終盤に急展開が待っていた。

 腹の中の胎児が異常な能力に目覚め、不気味な姿の幻影に姿を変え、これらワルモノども全員を皆殺しにしたあ! わーい! なんたるカタルシス。うーむ、やはりホラー文庫はこうでなきゃいかんよ。薄い上に無茶苦茶なんだが、ここ数作では一番面白かった。多分自覚してのことではないのだろうが、こういう開き直った作品も時々は書いて欲しいものである。


 初の時代小説に挑戦、『藩医 宮坂涼庵』! ノンシリーズコーナーに入れてますが、もしシリーズ化したらまたコーナーを作らねば。会話やら描写やらにいまいち江戸時代のムードが出ていない、テレビのなんちゃって時代劇みたいな面はあるのだが、それでも近作の中では最も下準備をして書いた印象。あらすじが解決した時点で、オチの描写を端折ってしまう荒技も相変わらずだが、このままテレビ時代劇の脚本になりそうだ。

 涼庵のアンチマッチョイズムなキャラクターは嫌いではないが、もう少し偏屈な人物像だったらおもしろいのに。全体的にキャラは薄く説明的。ま、ここらへんはシリーズが続けば(続くのか?)どうにかなるだろう。江戸時代の殺人事件、これが猟奇殺人に変わり、犯人が妖怪になるまで、それほど時間は要すまい……。


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