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Boys,be ambitious!
                           ー北大ポプラチェンバロ製作顛末記


クラーク博士の言葉で有名な札幌農学校=現北海道大学の有名なポプラ並木が2004年9月の台風で多数倒され、同大学の平井卓郎教授の指揮のもと、修復の作業がすすめられました。一方、倒れたポプラで記念のチェンバロを作ろうではないかという話が持ち上がり、発案者の北海道教育大学の市川信一郎教授(音楽学)から製作のご依頼をいただきました。

04年10月25日、旭川郊外の田野木材の製材場に赴き、みぞれの降る中、7本の倒木ポプラと対面。複雑に枝を伸ばした凸凹のある丸太から、細心の挽き割り作業、欠点の除去作業をしていただいた結果、チェンバロ2〜3台分の材料を奇跡的にとることができました。

「台風で倒れたかに見えたクラーク博士の大志の象徴が、チェンバロという形で不屈の大志を受け継ぎ、このゆかりの地で生き続けることができれば素晴らしいことだと思っています。また日本では普段は粗末にあつかわれているポプラ材が、大事に扱うことによって決して劣悪な材ではないことを判ってもらい、その価値があらためて見直されていく端緒となることを同時に望んでいます。(横田)」

さて材はその後旭川の竹内木材工業に運ばれ、普通の倍以上の密度で桟を入れての丁寧な桟積み、充分な自然乾燥を経て、入念な人工乾燥を施していただきました。
北大のポプラとハルニレ 05年8月末、自車で新潟−小樽フェリーに乗って訪旭。炎天下の竹内木材の片隅で製作に必要な材を選び、工房に持ち帰りました。嬉しいことに、北大のポプラは軽さと固さのバランスが楽器用材として理想的な感触、往時のヨーロッパの名工達が好んで使ったポプラと大変よく似た材に仕上がっていました。
またポプラと同じ台風で倒れた「北大のハルニレ」もチェンバロのスタンドを作るために製材して持ち帰りました。(写真右下)
楽器完成は06年の夏が目標。06年9月8日の倒木の記念日に北大で披露演奏会が計画されています。
まず初めに底板を作り、図面通りに成形した上に、土台となる部材を取り付けます。アリホゾを駆使して膠でしっかりと取り付けます。
05年11月26日、骨組みができて、まわりに側板をはりつける直前の様子です。ここに使われている材料はピン板(画面手前側の長方形の部分)をのぞいて、すべて北大のポプラ材です。左側壁際の大きな板がスパイン、右側の曲がった板がベントサイド。この大きな2枚の板が無垢でとれるかどうかが製材の眼目、成否のワカレメでした。
05年12月27日、本体枠組みと鍵盤がほぼ出来上がって、だいぶ楽器らしくなってきました。白鍵はツゲ、黒鍵は黒檀です。
左の壁に立てかけてあるのは、横接ぎしてシーズニング中の蓋材(ポプラ)とドイツトウヒの響板材。
06年3月 駒やリブを取り付けた響板を張り込んだ後、これは張弦作業中。真鍮製の弦はイギリス製を使用。チューニングピンはフランス製。わが工房で使っている唯一の購入(既製)部品です。
06年4月19日 同時進行で作ってあった2本のボックスレジスター、114本のジャック(アクション)を組み込んで、本体は完成した状態。でも整音、調整作業はまだまだこれから。
06年5月1日 北大の倒木ハルニレ材を旭川の家具製作所で旋削してもらった繰物の脚を使って、スタンドもできました。
蓋もすべてポプラ材で出来上がり、自家製の真鍮飾り蝶番5個で取り付けました。(写真では見えません。)
引き続き整音作業中ですが、同時に塗装仕上げ、銘文のアイデアを検討中です。あっ、譜面台も作らなくちゃ。
06年5月20日 工房で主催しているサロンコンサートシリーズ『折々の会』で「うぶ声コンサート」を開きました。100人近いお客様の中には、遠くから駆けつけてくださった10人前後の北大OBの姿もありました。また北海道放送とNHKさいたまが取材に訪れました。
ラテン語で銘文を書き込みました。



ポプラこの古の大志、札幌の地に育まれ
2004年 嵐によって倒れ
2006年 ここに蘇る
2006年6月21日 日本経済新聞の文化欄に掲載、紹介されました。
06年7月2日、これで仕上がり!
当初からずっと悩み続けた仕上げ装飾の意匠も、北大のキャンパスカラー緑色で控えめに縁取りをして、やっと、これにて落着。見慣れないとすこし変に見えるかもしれませんが、このチェンバロに与えられた諸々の要請を、イタリアンチェンバロの製作伝統と絡み合わせた、横田会心の意匠仕上げです。

音もだいぶよくなってきました。


あっ、譜面台がまだだった。


←北大倒木春楡製折畳式譜面台。





というわけで7月14日、そっくり双子のポプラチェンバロ2台が、ついに完成しました。

昨年8月末に工房に持ち帰った材料の見積りは、まさにぴったり。もうほとんど使える材は残っていません。旭川に残してきたポプラ材も記念のオルゴールになったようですね。


9月8日の倒木の記念日の直前に、北海道に里帰り。1台は札幌の北大へ、もう1台は旭川の市川先生のもとへ納品です。
♪お披露目コンサートは、9月8日北大クラーク会館の他に、次のように予定されています。演奏はすべて水永牧子さん。バロックはもちろん、北海道に因んだ曲などもいろいろと用意してます。
ところで北大クラーク会館は残念ながら音響がよくないそうです。チェンバロの本当の響きを楽しんでいただきたいので、北大においでになる方も、是非キタラにもおでかけ下さい。プログラムは北大では6曲、キタラや旭川は9曲で、その半分以上は北大では演奏しない別の曲目になっています。

北大ポプラチェンバロおひろめコンサート in Kitara
2006年9月9日(土)
主催 旭川古楽愛好会

北大ポプラチェンバロおひろめコンサート in 旭川
2006年9月11日(月)
主催 旭川古楽愛好会

北大ポプラチェンバロ特別サロンコンサート in 旭川
2006年9月10日(日)
市川信一郎 自宅サロン 旭川市神居町

畏れていた台風が来てしまったので慌てて、9月4日16時、積み込み完了。
明朝5時出発。納品と演奏会旅行に行ってきまーす


台風は遥か東にそれたのに、大揺れの日本海フェリー。
再生し始めたポプラ並木に対面。

交流プラザ売店で一昨年の台風被害を記録した写真集を購入しました。痛ましい倒木の写真と文章の迫力に、あらためて苦闘した木々の魂を差し迫って感じました。

お披露目でポプラチェンバロからはじめに響いた曲「鐘」は、倒れた木々への弔いの鐘でもあったのです。
総長室にて中村睦男総長と。後ろの額は新渡戸稲造直筆の「Boys,Be ambitious.」

北大に留学中のクラーク博士の5代目子孫、ベンジャミン・サリバン君との対面シーンは、しまった!撮り損なった。


お披露目演奏会の次第などは「ポプラ並木観察ブログ」をごらん下さい
お披露目演奏会の翌朝、北大総合博物館の、だれでも気軽に入れる一隅に納まったポプラチェンバロ。右手前の大きな切り株はもちろんポプラ。

館長の藤田正一教授は元北大応援団長。気骨とやさしさに溢れた歩く北大。横田の心を締めつけた台風被害写真集も彼の著作でした。

(この場所で、ほぼ毎日お昼ごろに、演奏が聴けるそうです。)
北大ポプラ並木の修復用の挿し木苗畑にて。

中央が平井琢郎教授。

今秋この苗をいただいて、滑川町に植樹、ポプラ並木を作る計画です。
30年もすると見上げるような並木に、きっとなります。

北海道の皆さん、ありがとうございました。




埼玉県滑川町に育て! 「大志のポプラ」
06年11月3日 北大苗畑から、ポプラの苗が到着しました。今年4月にポプラ並木から取って、発根したばかりの小さな小さな差し木苗です。

さっそく、工房の庭の片隅に、充分大きめの植木鉢にいれて仮植えしました。
仮植え終了。気持ちよくシャワーを浴びる苗木。

来春か、来々春あたりに定植、大志のポプラ並木をめざします。

北大苗畑の外崎さん、菅田さん、市川さん、ありがとうございました。大切に育てます。
育て、大きく! 2008年3月7日、待望の新校舎が完成した滑川中学校の校庭の一辺に、ついに植樹が実現しました。


滑川中学校の「大志のポプラ」の小さな美しい新芽です。(08年4月13日撮影)
そして一夏で…
びっくり、こんなに大きくなりました。
(08年11月13日撮影)


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