ソ連地区引揚米ソ協定

出典:引揚援護庁「引揚援護の記録」 昭和25年3月31日   資料編P43〜P45


ソ連地区引揚米ソ協定(全文)
  (昭和二十一年十二月十九日締結)

 一九四六年十二月十九日のソ連地区引揚に関する米ソ協定(仮訳)

 ソヴエツト社会主義共和国連邦及び同国の支配下にある領土よりの日本人俘虜及び一般日本人の引揚並びに北緯三八度以北の北鮮向け、在日朝鮮人の引揚に関し、本協定は締結された。
 本協定の全項目は、対日理事会ソ連邦代表と連合国軍最高司令官代表との間に完全妥結をみたもので、両代表の署名は、本協定の末尾にある。

第一節 引揚該当者

一、左記の者がソ連邦及びソ連邦支配下の領土よりの引揚の対象となる。
 (イ)日本人俘虜
 (ロ)一般日本人(一般日本人のソ連邦よりの引揚は各入の希望による)
二、日本より北鮮に引揚げる者は、かつて北緯三八度以北の北鮮に居住し且つ同地域で出生した朝鮮人一万名とする。

第二節 引揚港及び引揚者数

一、左記の港がソ連邦支配下領土よりの日本人の引揚に使用される。
 ナホトカ、真岡、元山、威興、大蓮。
 第一節第二項記載の日本からの朝鮮人の引揚には佐世保港が使用される。
二、前記ソ連邦の引揚港よりの日本入の引揚数は月五万名とする。
三、日本からの朝鮮人の引揚は、往復輸送の方法により且つ北鮮より日本人が一万名引揚げた後に同時に行われる。
四、本協定締結に当り、両代表は予見されない情勢の変化により、所定の引揚港及び引揚数の変更をなす権限を留保する。(乗船港への輸送の天候による諸条件等)

第三節 乗船処理及び輸送

一、本協定第一節に記載された引揚港よりの輸送船は、日本にある連合国軍最高司令官が提供する。引揚船には、前記引揚該当者以外の者は乗船できない。
二、引揚港における引揚者の集結及び引揚者を乗船させる責任は、各引揚港の引揚係官にある。同官憲は、同時に各引揚船に乗船させるべき引揚者の選択、乗船順序の立案及び監督に関し一切の責任を負う。
三、第二節第一項に基つき引揚船をソ蓮邦の引揚港に派遣する場合には連合国軍最高司令官は、左記付属第一、第二項記載の条件にほぼ該当する輸送能力を有する引揚船を選択する。
本条件のもとにおいて、引揚船は各引揚船の最大乗船可能数を収容する。引揚船は第二節第一項に記載されたソ連邦の引揚港に、対日理事会ソ連代表より、連合国軍高司令官に通告のあつた日より十四日以内に到着しなければならない。
四、日本人引揚者は、ソ連邦引揚港及びソ連邦支配下の引揚港で、ソ連邦官憲より露語で記載された人名簿及び引渡書に基づき、日本より引揚者輸送のため到着した引揚船の船長に引渡される。
  日本より引揚げる朝鮮人を輸送する引揚船が、元山、威興(北鮮)に到着した際には、引揚者は、英語で記載された人名表及び引渡書に基づきソ連邦官憲に引渡される。
五、連合国軍最局司令部の監督下にある引揚船は、ソ連邦領海及びソ連邦支配下の領土の領海においては、付属第一号に記載されたように、ソ連邦側の指定した海路及び規則に従う。
六、通常の海上交通通信は、付属第二に記載された規定に基づいて行われる。

第四節 引揚者及び引揚船に封する補給

一、連合国軍最局司令部は、日本政府によつて左記の条件が充されるように監視する責任を有する。
 (イ)乗船時より目的港に到看するまで引揚者に支給する全食料の補給。
 (ロ)引揚者輸送中の全航程に必要な医療設備及び補給。
 (ハ)引揚船、航海燃料を含む航海に必要な物資及びナホトカ港向け引揚船の飲料水、乗船港のドック及び停泊中の期間を含める全航程の補給。
二、ソ連邦領土及びソ連邦支配下の領土よりの日本人俘虜及び一般日本人の引揚に要する費用並びに日本より引揚げる朝鮮八の引揚費用は、日本政府が負担する。
三、ソ連邦側は、引揚者輸送のために到着した引揚船が、緊急の場合(船の故障)はでき得る限りの援助を与えることに同意する。
  前記の事態が発生した場合には、引揚船の船長はソ連側より与えられた援助に要した費用の計算書に署名しなければならない。本件に要した費用は米貨をもつて連合国軍最高司令官よリソ連邦側に遅滞なく支払われねばならない。

第五節 衛生及び医療上の処置
一、両者とも各々の引揚港において全引揚者に対し、左記の医療上の処置を施すべき義務を負う。
 (イ)天然痘の種痘は全引揚者に施行すること。
 (ロ)発疹チフスの注射は全引揚者に施行すること。
 (ハ)コレラの注射は全引揚者に施行すること。(春季及び冬季)
 (ニ)消毒は全引揚者及び引揚者所持の荷物に施行さるべきこと。
二、前記第一項記載の病名患者は、一切乗船を禁止される。
三、前記処置が完全に施行された旨は、ソ連邦代表及び引揚船船長により署名された引揚者の引渡及び受領書の一項に明記されねばならない。
四、引揚のため配船される船舶は、日本において清潔にされ且つ清毒されねばならない。

第六節 引揚者の所持品

一、日本人俘虜は、関税規則により持出しを許可される個人の所持品を手持荷物の範園で持帰ることを許される。
二、一般日本人は、関税規則により禁止されている物品を除き、各自百キログラムの重量の範国内の荷物の持帰りを許される。
三、日本人俘虜及び一般日本人は、引揚に際し、各自の所持する個人の書類及び左記限度を超過しない日本円貨の持帰りを許される。
  将校 五百円 兵 二百円 一般日本人 千円
  総べての引揚者は、日本の金融機関より発行され、日本で支払可能な各人の郵便通帳、銀行預金通帳及びその他の証書書の持帰りを許される。
四、日本より引揚げる朝鮮人は、一人二百キログラムを限度として、自由に且つ無税で、各人所有の家庭用品及び一人につき千キログラムを超過しない限度の軽機械及び手動機械を持帰ることを許される。
五、北鮮に引揚げる朝鮮人は、各人左記の物件の持帰りを許される。
 (イ)一人 一千圓
 (ロ)日本及び朝鮮で発行された郵便貯金通帳及び銀行預金通帳
 (ハ)日本及び朝鮮で発行された保険証書
 (二)日本で発行され、日本で支払われる小切手、為替及び預金証書

第七節

 本協定は英、露両文で作成され、両文と対照の結果、公正且つ妥当なることが確認された。

 昭和二十一年十二月十九日
 日本、東京、
   ソヴエツト社会主義共和国連邦対日理事会代表
     陸軍中將 N・デレヴイヤンコ

 昭和二十一年十二月十九日
 日本、東京、
   連合国軍最高司令官代表
     陸軍中將 ポール・J・ミユーワー


付属
(省略)


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