−こいばな番外編第11話−

これだから…

さてさて皆様、お久しぶりでございます。
すっかり隠居生活している館主でございますが、わざわざ当館にお越し下さる
基板関係のお客様もぼちぼちいらっしゃいったりして、変わらず楽しく暮らさせて
頂いております。

基板のこいばなは次回の更新で紹介させて頂く事として、今回はバイクツーリング
で岩手GLクラブのSさんの身の上に起きた出来事などを紹介させて頂きましょう。

…万一ここを見掛けてしまったGLライダーの方は、2011年の東北大会(in岩手)
の折、くれぐれもご本人にだけはこの場末のページの存在をご内密に願います。


2010年6月

岩手,宮城両GLクラブの合同青森ツーリングのお誘いを受けた館主、
殆どポンコツの89年式ソロ*で同伴させて頂く事に。
(*ソロ:サイドカーが付いていないバイクの意)

週末土曜の朝、東北自動車道の長者原SAに宮城組が集合。
時間になってめいめいがバイクで到着する。

だがバイク乗りの中で一人、仙台のAさんが乗って来たのは…
いつもの洒落たパープル色のサイドカー…では無く、道楽で買ったと聞く
バス。
…今回の企画はバイクのツーリングだったはず。

「…なんでバイク持ってんのにバスなんかで来んで!?」
「帰れば良いのに」

散々な言われようのAさん。
(後に災い転じて福と成すのですから、世の中解りません)

…なんがかんだ言いながらも定刻通りSAを出発。ケツ持ちはAさんのバス。

11時過ぎには岩手の八幡平山腹で岩手組と合流。
早速挨拶を交わし合う両クラブの面々。
…変わらず諸先輩の方々のサイドカーの凄さと言ったら。

館主も早速岩手のSさんにご挨拶申し上げたところ、
…Sさんどうもいつもの元気が無いご様子。…??
相変わらずの恰幅の良さ、血色も良く気のせいかもと考え直す館主。

…だがツーリングの道すがら、Sさんの運転にいつもの切れが無い。
やはり何かがおかしい気がする。
無線機はフルスケールを指しているにも関わらず、今回はどうにもSさんの
応答が聞き取り難い。
きっと今日は岩手弁全開なんだろうと、自分を納得させようとする面々。

昼前八幡平山頂のレストハウスに到着し、全員で昼食休憩。
…と、ここまではごく平凡な成り行きであったのだが…

出発の段になって異変が起きた。

Sさんが朦朧としていらっしゃる。
ふらふらと意識がはっきりせず、ろれつが回らないご様子。
居合わせた面々の顔つきが変わり、空気が張り詰める。

「…糖尿病が!?」
「いやいや、(Sさんが糖尿病だなんて)聞いたごどね」
「飯食った後だし(血糖値は上がるから)糖尿病はねえべ」
「山頂に来て気圧が変化したがらが?…?」
「… …」
「… …」


症状を見て思い付く病名はあるのだが…洒落にならず、皆口に出すことが
憚かられる。
既にツーリングどころではなく、Sさんを麓の総合病院に緊急搬送する事となった。

だが、生憎当日はサイドカーばかり。急患を安静に運ぶには適さない気がする。
…結局AさんのバスがSさんを搬送する役割を果たす事となった。
天候が崩れ、豪雨の中バスが先導し病院へと急ぐサイドカー軍団。

30分程で無事病院に到着。
皆に抱えられKさんが院内に入る。

聞けばSさんはバスに乗るなり昏睡状態に陥り轟々といびきをかき始めた
とのことで、事態が一層深刻化した事を知る館主。
同行した同岩手GLクラブのKさんの若奥様も心配のあまり車中で泣き出された
らしく、バスの中が修羅場だった事は想像に難く無い。

「いやあAさん、今日は本当に良くバスで来てくれたっ!」
「Aさんがバスで来てくれなかったらどうなっていたか…」

今回バスで参加したAさんに感謝の意を表明するメンバーの面々。
掌を反して朝とはえらい違いだ。

(ここから先は診察室に同行したメンバーに聞いた話となります)

駆け付けた当直医、Sさんを診るなり

「(普段飲んでいる薬を入れた)ポーチを持って来い!」

…唐突に不可解な事をおっしゃる。

Sさんの若奥様からポーチを受け取り、中の薬が使われた形跡を確かめる
お医者様。…程なくして

「これ(錠剤)を二つも飲む奴があるかっ!!」

…呆れ顔の医師、何の事やら事態が飲み込めない。


−事の顛末

医者はSさんの症状から薬の誤飲を疑ったのだった。
そしてそれは正しかった。

ツーリング当日の朝、Sさんは田んぼを一回りする際に通風の痛み止めを飲み
…効きが悪かったので出掛けにもう一粒服用されたらしい。

だが、Sさんが痛み止めと思って飲んでいたのは…若奥様が寝付けない折に
使われていた睡眠薬だった。

ツーリング先で休憩時に一寝できる程寝付きが良いSさん、普段無縁の薬を
飲んでしまったものだから効果覿面。
バスの車中、皆の心配を他所にSさんがこれ以上は無い程に高いびきだった
原因はこれ。

あまりの顛末に脱力し、怒り出す者など一人もいない。
胸を撫で下ろしつつ笑い転げてしまうメンバーの面々。


−その後−

診察後、大分体調復帰されたSさんは病院の玄関に出て来るなりツーリングを
続けたいとおっしゃる。この日をとても楽しみにされていた事、容易に察しは付く
…のだが…

「良いから今日は安静にしてろ!」

真顔で叱る岩手のKさん、Sさんを本気で心配していらっしゃる。
普段温厚な方が怒るとこうも迫力があるものか。

Sさんには病院で応急処置を受けて頂く事とし、一行は時間を考えて午後の
行動予定をキャンセル。青森の宿泊先に直行する事となった。



土砂降りの中、青森に到着。
ホテル近くの飲み屋で青森GLクラブの有志の方々も参加の饗宴を開く段
となり、Sさんを心配したC会長が電話を差し上げたところ、Sさん何事も無く
すっかり回復されたご様子。
Sさん申し訳無さそうに

「おもさげながんす、今日の乾杯のビール(代)はわぁに出させてくなんせ」

とのことで、…既にSさん、ご自宅に戻られてお酒をきこしめていらっしゃる。
当夜の乾杯のビールは有り難くSさんにご馳走になる事に。



翌日ツーリングの帰路、岩手のSAで皆を出迎えたSさんはまたいつにも増して
血色が良いお顔。

「お元気そうで何よりですっ!」

と言いつつも、昨日の顛末を思い出して思わずその場で吹き出してしまった
館主なのであった。

表向きの目的地など知ったことではない、かまうものか。
これだからツーリングは止められない。


−あとがき−

真面目な話、何を差し置いても仲間を心配し、無事である事を一番嬉しく思う
諸先輩の方々とお付き合いさせて頂いていることを、館主光栄に思います。
いざと言う時の連携プレーの迅速さ、今回もとても良い勉強をさせて頂きました。


…それにしても、Aさんは何でまたバスの道楽なんかに手を染めたのだろう?
と思っておりましたが…
後日行きつけのバイク屋の、道楽らしい道楽をした事が無いと口癖の道楽社長
との会話の中、社長の数々の道楽の中にバスもあった事をふと思い出して
Aさんの話をしたところ…

「Aさん?以前俺のバスと内装を見て『こりゃ良い…』と言ってたな…」

…ああなるほど…諸悪の根源が分かったような気がします。


ではでは皆様、つたない話にお付き合い下さりありがとうございました。
またお会いしましょうとも。

                                  by館主



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